黙示録
投稿するや流れるコメント。
【
『殺ったね。でも、まだ足りない。写真もっと派手なのが良いな』
【カルマ@キラー武器欲しい】
『写真見てきた。それスマホ? すごいね』
:
:
賛否両論とはいえ非常に文句が多い。さすがの俺も見るのがイヤになる。スマホをベッドから落とすよう滑らせ、横でうつ伏せになっている上川の後頭部目掛けて枕を振った。
「んにゃっなんだよ」
「アホ」
テレビを点け、時間を確認するが『○○交差点にて刺殺事件がありました』と報道に目がいく。免許証を見た名前と年齢が合わってない。おかしいな、と首を傾げると投げ捨てたスマホが震えた。相手は非通知。
「もしもし?」
『初めましてだよな、
若くない。四、五十ぐらいの男の声。
『俺は上八木。隠蔽刑事だ、分かるよな』
「あぁ、コメントの」
『話が通じて助かる。どっかの
たった数秒の会話。急いでいたのかブツッと乱暴に切れる。『ストーキング野郎』。まさかと【■■■】のコメントを開くが綺麗さっぱり削除。足跡すらない。
――上手いな。
「やったー新しいスマホだ」
服を着替え、開店と同時に携帯ショップへ。機種変し店を出るやログインし呟く。
表SNS
【神っち@復活( ・`д・´)】
『携帯ぶっ壊れて戻ってきたお。アポアポアポアポちゃーん』
【死亡記事@訃報】
『記事、後程更新します』
|
【黙示録@崇拝者神】
『貴殿、心配した。大丈夫か?』
|
【神っち@復活( ・`д・´)】
『俺の心配もしてよ・゚・(●´Д`●)・゚・エーン』
近くの喫茶店に入り、遅い朝食。二人席で向かい男には合わないスフレパンケーキを食す。甘いハニーシロップをフワフワのケーキにかけるとトロッと甘い香りと黄金色に輝く。添えられたバターを合わせれば更にうま味増す。上品かつ丁寧にフォークとナイフを使う俺。それとは裏腹に子供のように音を発てがっつく上川。周囲の視線が俺を親。上川を子供のように見ている気がし、無言で足を踏みつける。
「もう少し丁寧に出来ませんか。あと、持ち方逆です」
「えっ」
「右利きなら左手にナイフ、右手にフォーク。俺は両利きなんでその日の気分にやりますが……。もう一つ。貴方は休みでも俺はフリーで休み無いんで帰ったらチミの相手は出来ません。とあるアーティストの取材や追っかけをするなら行ってらっしゃい」
ホテルで話すのが億劫になり遠回しに言う。俺の素っ気ない態度に嫌な顔をして「俺だって記者だし、一人出てきますよ」なんて強がりか。バカにするよう俺を鼻で笑った。
「朔也、じゃんけんしよ。最初は――」
パーで来ると分かって、チョキを出す。それを見て「はぁ!?」と上川の間抜けな声にブッと吹き出す。俺の真横にあった伝票を無言で彼の前に押し出す。
「ごちそうさま」
一言い席を立つとスマホが震えた。
裏SNS
【黙示録@裏垢】
『貴殿、昨日の裏の記事のことだが表には書かない方がいい。一部内容が違うだろう』
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【死亡記事@記者】
『大丈夫ですよ。表に合わせて書けばバレはしない』
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【黙示録@裏垢】
『貴殿は怖くないのか? 表の目は』
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【死亡記事@記者】
『貴方のような有名な人ではありません。ご心配なく。それと、そろそろ顔見せてくれませんか。ずっと俺のこと見てますよね。ヴィジュアル系の服目立ってますよ』
外で上川を待っていると反対の歩道に墨を振り掛けたような独特の模様の白い襟服、薄手の黒に近い紺色のカーディガン。スキニーデニムパンツとスカートが合わさった服装。黒紫のセミロングに紫のエクステ、紫のカラコンの個性的な男性が此方に歩いてくる。
「よく我だと分かったな」
スマホをしまい、背負っていたギターを下ろすと溜め息。歳は二十後半だろうか。とても若い。
「神っちさんのハッキングしたときに貴方の写真入ってたんで見ちゃいましてね。
俺の呼び掛けに薄く笑う。すると、「ええっアポちゃん。なんで此処にいるの!?」と出てきた上川と鉢合わせる。
「汝、我の契約者。我、汝を救うためこの地に降りた堕天使なり。我が力でお助けしよう。運命は貴殿と共に」
普通に話していたが突然の中二病的な言葉に俺は言葉を失う。見かねた上川が俺に領収書を渡し一言。
「こういう人だから気にしなくていいよ」
「いや、チミが来たからそうなったのでは」
俺の脳内推理だが、
【黙示録@裏垢】
『貴殿に頼みたいことが二つある。一つは音楽ライブの写真を撮ってほしい。もう一つはアンチに裁きを』
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【死亡記事@記者】
『撮影なら受けますが、殺しは隣の人に言ってくれませんかね。俺は戦闘ボロクソなんで』
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【黙示録@裏垢】
『貴殿じゃなきゃ嫌なのだ』
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【死亡記事@記者】
『ナゼ?』
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【黙示録@裏垢】
『他の人には顔見知り以外は引き受けないと言われた』
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【死亡記事@記者】
『それは、ハッキングですか?』
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【黙示録@裏垢】
『左様』
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【死亡記事@記者】
『……これ、神っちに見せてもいいですか?』
目を合わせ、上川に画面を見せる。目が文字を追い、画面をスクロール。「ふーん」と興味なさげな声を出すが目だけは笑う。
「アポちゃん、予定決まったら教えて」
軽くハンドサインやジェスチャー、手話を含め会話。すると、
俺も不馴れながら手話ではないがジェスチャーしてみた。『君』と
――聞こえづらい。見えづらい?
俺の問いかけに微かに頷くと上川が「アポちゃん、耳聞こえづらくて目も悪いんだよ」と周囲に聞こえないよう教えてくれた。
歩きながら上川は言う。
「アポちゃん、かわいそうなんだよ。ちゃんと許可取って路上ライブやってるのに酔っ払いや気に入らない輩に襲われて。(低めに)あぁなった。人間ってバカだよね、クズだよね。同じだと思うと吐き気する」
俺はあえて聞いてないふりをしつつ前を歩く
時より十代の若者に声をかけられ、サインや握手、写真とテレビでは出ないが一部で有名なのだろう。苦しそうにも見えるが少し楽しそうだ。
「有名なんですね、彼」
妙な視線を感じ、地図を見るふりして周囲をハッキング。歩幅を狭め上川の後ろに行くと「アポちゃーん」と駆け出し
――やっぱり。ビンゴ
俺は見逃さなかった。怪しげな行動、飛び交う電波や回線伝いに悪質なアンチ掲示板。盗撮、ストーカー、住所特定、その他目に焼き付けては男のスマホに忍び込む。
現実だが目には見えない恐怖。
それは――。
「ついでにネットバンクも弄ってお金でも貰いましょうかね。ん、固いなー。あ、脆かった」
大きな独り言。立ち止まり、リアルタイムでスマホが連動してると思わせる嘘の行動。とあるスマホゲームを遊んでいると周囲の人は感じるが全く別。
略奪、流失、暴露――。
実に気持ちがいい。
「これで、サヨナラです。
タンッと軽快にタップした瞬間――男のスマホが破裂。同時に微かに焦げ臭さが漂った。
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