ハッキング1
「どうも」
それは小春だった。胸ポケットに挿していた万年筆を取り、サインすると俺の筆記体みたいな汚ない字を見て笑う。ざっと内容を確認し、彼女に返すと幸せそうにギュッと握り締める。頬を赤く染め、恥ずかしそうに口元を回覧で隠してはペコッとお辞儀し小走り。部屋の隅で二、三人の女子と俺を時より見ながら話していた。
「おいおい~何しちゃってんの?」
上川の手が肩に乗る。耳元に顔を近づけ「告白されても振れよ」と邪悪な声。続けて「万年筆なんて使うから、この色男」と嫉妬か散々言われ、気がするまで言わせてやる。
「彼女に興味はない。今は、ね」
俺は流すようにマウスを操作すると小春宛に社内メールを送った。
【社内メール 住所 朔也】
件名:児童用雑誌の写真について
『お疲れさまです。住所です。
月刊誌に使う写真が欲しいと前に伺っておりましたのでいくつか添付させていただきます。確認のほどよろしくお願い致します。
添付:ファイル名 **
:ファイル名 **
………………………………………………
住所 朔也
内線 664』
ネットカフェの時はWi-Fiを繋げると同時に入り込んだ。二つファイルのどちらかに簡易的なウイルスを忍ばせ、データを解析できるよう手を加える。怪しまれないため使えるのは一回。ミスれば終わり。不在ならパソコンにUSB挿して抜き取っても良いが他人のパソコンを扱うのはどうも目につく。
「朔也、悪」
上川に小声で言われ、鼻で笑う。デスクトップに文書作成ソフトと表計算ソフトを展開し、如何にも仕事やってます感を出す。
「ヤれって言ったのは誰ですか」
俺の問いに上川は「エヘヘッおれぇー」と子供のように笑った。
彼女から返事が来たのは「残業」と言い張って画面と向き合っている時。帰り際にメールと口答で礼を言われた。
上川と二人っきりで話したく気付けば23時。一息付こうと窓に目をやれば外は真っ暗。信号や街の明かりがイルミネーションのように反射。上川は椅子だけ持ってきて俺の背中を枕代わりに寝ていた。悪戯半分スマホのカメラ昨日を使い寝顔を撮り、クラシックカメラでフィルムを変え、セピア色の味のある一枚。最後に起きろとフラッシュを近距離で当てると「うわっ!!」と声を上げ滑り落ちる。
「おはようさん。真夜中ですけどね」
「イッタ……目が……」
手で目を隠し痛むのか。俺の背にしがみつくも顔は向けない。
「(棒読み)スマホ乗っ取ったけどどうするんですかぁ。GPSで辿ってますけど、家はここから近いそうですよー。おーい、神っちさーん聞いてますかねぇ」
眠気に襲われ低い声で言うと「何処?」と食い付き、無理矢理目を開ける。
「此処から車で30分ぐらいの所。アパートだと思います。名前は『菜の花荘』。可愛い名前じゃないですか。ねぇ、神っちさん」
上川のムッとした表情が画面に映る。顔を向けるとケロッと代わり笑顔。幻覚だろうが子犬のような耳と尻尾がうっすら見える。
「朔也、じゃんけんしよー」
ニヤニヤと手を出され、俺も手を出すと「最初はパー」とズルされる。「んじゃ、室内点検とバイクよろしく」と鞄持ってスキップしながら外へ。一人残された俺は溜め息を付きながら画面を消した。
*
暗くてハッキリとは見えないが街灯がほんのり照らす白い外観の新築。花壇や木々と今らしいシンプルな所。防犯対策もしっかりしており、部屋番号を打ち込みカードキーで認証。ロックを解除して中に入るため部屋とエントランスで二重ロック式。
「固そうですね。見た目は」
此処に来る前からスマホ片手にwi-fiを起動。無防備なモノを狙ってハッキングしてはネットサーフィンのように飛び移る。それを繰り返したどり着いた警備システム。入るのは簡単だった。ついでにその他の個人的な情報も盗む。
一時期きカメラを止め、上川の背を押すとエントランス内にあるポストに走った。
「花園、花園……あった。203」
見つけ跳び跳ねている彼に「戻ってこい」と手招き。笑顔で嬉しそうに俺に抱きつく。
「もっかい、やって」
ねだられ、システムに忍び込むが……。誰かの足跡があり、此処をテリトリーにしているハッカーか。追跡される前に回線を切る。
「(首を横に振りながら)無理。十数秒維持するので精一杯。まだ、
「へ? それ、どう言うこと」
ポカンとアホ抜けた顔に呆れ言葉が出ない。あくまで情報収集程度でハッキングや解析。元は記事を書き込んだ際の悪質なアンチを叩くためのモノ。だが、今ではそれおも越える。
ブブッと表SNSの通知。深夜帯に記事の更新をしておらずこの時間帯で通知が来るのは珍しかった。開くと【■■■@Gh】とバグか。妙なアカウントからのメッセージ。
【■■■@Gh】
『Bh??』
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