ハッキング2

 ――Bhブラックハッカー

 悪質なハッカーを示す言葉。


 謎のアカウントの『@』にあるGh。

 それは、グレーハッカー。ブラックと善なハッカーを示すホワイトの間を指す。ハッカーに詳しくないが種類や役割があるのは軽く知ってる。


「朔也」


「悪い、取り込み中」


 危険を感じた俺は上川に理由を告げず「逃げたい」と一人歩きだす。バイクに乗り、上川の腰に手を回しながら妙なアカウントに返事を返した。



【死亡記事@訃報】

Why何故?』



 無意識に英語。



【■■■@Gh】

Don't know why何故わからない?

 


 他人に見られても読めづらくするためか、英語で返ってくる。しかも、わざと返信コメントではなく単発。



【死亡記事@訃報】

『I don't feel like I'm going something wrong.(悪いことをしている実感がない》』



【■■■@Gh】

rallyほんとに?』



【死亡記事@訃報】

『I don't even know what i'm going.

(やってる俺も分からないから)』


 俺の英語が悪かったか。それから返事はなかった。だが――情報共有しようと無断で上川のスマホをハッキングした時、俺はあることに気づく。誰かが上川を追っているのか。呟きに俺と上川の写真が貼られていた。



【ソレイユ】

『神っち見つけた。今から殺りにいく。順位ギリのくせにアイツ……生き残りやがって』



 脅迫呟きに溜め息が漏れる。背後から迫るように聞こえるエンジン。振り向くと闇に染まるような黒服にヘルメット。見るからに怪しい。

 黙って上川の肩を叩き振り向かせる。すると、「ゲッ」と声を出しては追い払ってと太股を叩く。


「無理、戦闘員じゃない」


「んなの、知ってる」


 アクセルを握り、かっ飛ばすと規定速度を軽々超え、ジャケットが激しく靡く。追い風で息が詰まりそうになり、上川を盾に背を丸める。突き放す所が音が近づく。改造しているのだろう。耳がおかしくなるほどの騒音。上川が何か口にするも全く聞こえない。


「――」


「はい?」


「――!!」


「だから聞こえないって」


 横に目をやるとバイクが一台。一人は運転してもう一人はバット持ち。振り上げた時、一か八か車体を蹴る。大きくふらつくも手慣れているかすぐ建て直す。薙ぎ払らわれ、また蹴り飛ばすと気付いた上川が左にハンドルを切る。軽く車体を倒し避けるが――詰められガードレールに当たりそうになる。


「死ね!!」


 男が体当たりしようと車体を近付けたとき、エンジン音に混じった男の声。それを合図に上川は突如ブレーキをかけた。ブレーキがイカれるような甲高い音に歯を食い縛り、俺の腕にも力が入る。速度は落ちるもバランスが保てず転倒。投げ飛ばされ、アスファルトに叩きつけられると摩擦で所々焼けるような痛みと熱さに襲われた。


 鈍い音が耳に入る。視界がボヤけハッキリとは見えないが男二人を一人で武器無しで相手する上川の姿が目に入った。時より殴られ、膝をつくも子犬のようにワンワンする彼とは違い。狼のように睨み、狂気に満ちた目は別人。バットを腕で無理に受け止め、掴み男の腹を蹴りつけ奪い取る。容赦なく一人の男の顔面を砕く勢いで振り、投げ捨て、下から上に突き上げる見事なアッパー。男の顔。原型すら分からなかった。


「キャハハッいい面じゃねーの」


 声のトーンも強弱も聞いたこと無い。


「糞神ッliveライブの犬が――裏切り者め!!」


 蹴り飛ばした男が立ち上がり、隠し持っていたナイフで上川を殺そうと駆け出す。だが、刃が彼を切り裂くどころか先に上川のストレートが顔面にめり込む。


「咎人の俺を殺そうなんざ。甘いんだよッこの糞が」


 拳を引き、上川が落ちたナイフを手に取った瞬間――俺は意識朦朧とする中、スマホの割れた画面に上川を収める。上川が男の左向けにナイフを刺し、引き向くと同時にシャッターを切った。

 画面に写し出される、暗闇で嗤いながら刺殺する上川。職場では見えない顔にグッと引き込まれが――引き抜いた衝撃で血が綺麗に弧を描いていた。真っ赤とはいえない闇に染まった黒い血。光に照らすのも美しいが、闇色の血も嫌い。


 むしろ、俺の考えを変えた。


 今まで死を迎えたモノが美しい・綺麗・愛しいと死体を撮影していたが、生きたモノを殺した瞬間。一瞬で生を奪う姿に目を奪われた。


「朔也、大丈夫か」


 俺に声をかけ、切れた唇を拭いながら近寄る上川に返事する代わりに写真を送る。スマホがうっすらと顔を照らす。立ち止まり、まじまじと写真を見ては突然腹を押さえ笑い出す。


「なにこれ、最高じゃん」

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