MISSION:120 最後っ屁

 薄っすらと僕の気配を感じるそうだ。意志みたいなのはなさそうだから、制御するために入れてるのかもってAWACSエーワックスから連絡が来た。


≪僕の残りカス入りだってー≫

「リングが無駄にならんかったけど、時間が掛かりそうじゃね」

「ポーちゃん、同じ? 増えるする?」

≪攻撃はしてないから分からないけど、サイズ的に増えながら上層に上がって来てるんじゃないかな≫


 ン~って斜め上を見ながら考え中のフーちゃん。頭の中でバトルしてるんだろうね。百面相してるよ。

 到着までもう少しかかるから、いい案があったらご意見くださいな。


 ワワンパァのイラフティーバで削って、フーちゃんのブラックホールで仕留めるのが手っ取り早い気がする。


「んっ。パァちゃん、イラフティーバ全力する。私、虚無の舞王、全力する。終わるする」

「オッケーじゃ」

≪当たった!≫

「ポーちゃん、ルーちゃん、出番なし。い?」

≪イイヨー。早いに越したことはないし。増えるとメンドクサイじゃん?≫


 僕的には手に入れるダンジョンと、アダマンタイトの利用方法に思考が移動してる。強敵と戦ったあとだし、このお代わりは求めてないんだよねー。僕は早くワワンパァダンジョンに戻りたいのだ。


 でもこのヴェノムスライムは、キッチリ始末しないと増えちゃうだろうし時間掛かりそうだなあ。これ以上、外に近付けるのもマズイ。

 なので、まずやることは足止めになるかな。


 先行してる分のAWACSだけじゃ足りないけど。相手のほうが多いからね。なるべく急いで向かおう。階層の出入り口的に、一気に入れるわけじゃないからさ。


≪足止めしてるけどジワジワ押されてる≫

「むしろ出入り口で張っちょったほうが狙いが絞りやすうならん?」

≪狭いからなあ。回数こなす必要があるかもよ?≫

「時間掛かる、回復、可能性高いなる」

「ほうかあ。じゃあ、なしじゃね」

「うん。2層、倒すする」

≪もうすぐ出入り口に到着するよー≫



 結局、出入り口近くまで押し込まれちゃったな。コポァコポァって毒の泡が表面で弾けるたびに、身体に悪そうな湯気が立ってる。


「なにうちょん、悪いに決まっとるじゃろうに」

「臭そうでありますなあ」

「臭いする、死ぬする、なる?」

≪なりそうだね……試していいのは僕だけだけど≫


 臭そうなので心の鼻は塞いでるよ。

 ワンチャン、ゴブリンに勝つかもしれないね。臭さで。


≪なので試さない≫

いこと。パァちゃん、やるする、よ~」

「オッケーじゃ」


 両手を前に、気功波を放つポーズで構えるワワンパァ。その腕を中心に、円を描いて並ぶ10のマジックハンド。

 計12本の太陽光線が、ヴェノムスライムに照射された。


「ついでなのでそれがしも、雷撃弾をお見舞いしておきます」


 残機を減らしながら、それでも侵攻を止めようとしないな。

 そしてフーちゃんの練り上げられた魔力が解放される。


「饗宴、虚無きょむ舞王ぶおう、カルテット」


 暗黒がヴェノムスライムの上に現れ、空間が歪む。強烈な魔力を餌と思ってるのか、触手を伸ばして触れようとして吸い込まれていく。知能は全くないみたいだねえ。


 フーちゃんはハンディクリーナーで掃除するかのように、ブラックホールを操作して吸い込んでいった。


「へひぃ……終わる……したあ」

「お疲れさまであります!」

≪漏らしてるのがいないかチェックしながら進むよ≫

「リングは稼働させたままのほうがえね」


 塵サイズでも残せないからね。ダンジョンコアを掌握したら機能を使えば分かるけど、そこまでは自力でやる必要があるよ。

 なのでお疲れのフーちゃんには、お休みいただきましょう。前回ブラックホールを使った時も、2日くらいは回復が必要だったしさ。


「あとはウチらに任せときゃあえよー」

「んー……」

「スヤァって寝られましたな。カワイイであります」


 フーちゃん好みの温度設定は、データ化しているのでお任せあれ。もちろんみんなのも記録してある。

 僕は熱を感知できないから、失敗すると危ないし。


 コアルームに辿り着いた僕らが見たのは、肉塊を付けたゴブリンだった。ダンジョンマスターはコイツみたいだね。意思がなくなってるのか、椅子に座ったまま虚ろな表情で涎を垂らしてる。


「なんじゃ? 揺れ始めた」

「ダンジョンの中で地震なんてあるのでしょうか?」


 コアを掌握しようとしたワワンパァが、焦りながら理由を教えてくれた。


「ダンジョンの崩壊が始まっちょる!」

≪ハァッ!?≫

「そんな! もったいないであります!!」

うちょる場合じゃないわ! すぐ逃げんとっ!!」

≪全機合体っ≫


 やってくれたっ。最後っ屁ってヤツか。コケシの仕業だろうね。コアルームに侵入したタイミングで、トラップ発動を仕掛けてたみたいだ。

 ダンジョンコアを壊すことで一網打尽にするトラップ。


 僕は天道虫号に乗ってもらってから、屋根を付ける。崩壊していくダンジョンをドライブする羽目になったよ。崩壊は下層から順に、って願いながら爆走する。だって上層から崩壊してたら、道がなくなってる可能性も高いからね。


≪ダンジョンの崩壊って、なくなったら外はどうなるの?≫

「分からん。ルーちゃんは知っちょる?」

「ダンジョンマスターの2人が知らぬのに、それがしが知るよしもなく」


 異空間にあるダンジョンなら、影響はないのかな?

 でもここのダンジョンがフラム部長のステージみたいに、この世界を利用した場所だったら……山も崩れるってことになるのかもしれない。


「つまりアダマンタイト収入すらなくさせるという、悪辣なトラップということなのでありますか!? 許せませぬなァ」

「いや……そんなんより今は、生き残るほうが先決じゃろうに」


 ワワンパァがブチギレてるルァッコルォに引いてるじゃんか。理由がアレだし。

 フーちゃんとルァッコルォは、死んだらダメな生き物なんだよ?

 大事なことなんだから覚えておいてよ?


「し、信頼の証ですが~? 証なのでありますがー?」

「さっきのは目がくらんじょる証じゃった」

≪僕もそう思う≫


 でも信頼には答えるであります。とはいうものの、実はアセってる。もう道がなくなりつつあるし。半分飛んでる状態。瓦礫なんかも、過去いちの速度で分解してる気がするヨ。


 ダンジョンじゃなくなったから不懐属性も消えてる。最悪は埋もれた地面を掘り進んで、地上に帰還することになるかもしれないね。そうなると酸素問題も出てくるからなあ。


 フーちゃんが元気なら一発で解決するけど、さっき全力で魔法を使ったからムリ。ないものねだりってヤツさ。僕はネーネさんのところの僕に連絡を入れて、地上の方向を教えてもらった。


 ポヨドリル全開だー!

 埋まっちゃったからね……。


「不穏な音が響いておりますが?」

≪ダイジョブダイジョブ≫

「掘削しようるん?」

≪ダイジョブダイジョブ≫

「えっ、ホントにですか?」

≪ダイジョブダイジョブ≫

「ポーちゃんがダイジョブロボになっちょるんじゃけど」

≪あ、ごめんごめん。間もなく地上に到着致します。お下りの際は、お足もとにご注意ください~≫


 チョット不安だったけど、魔力がしみ込んだ壁とかを分解したおかげで、残機の消費をしながらゴリ押しできたんだ。


≪ふぅ、なんとかなった。空気なくなる前に出れて良かったよ≫

「そういえば若干苦しかったのであります……」

「危なぁ……」

「まったく、肝を冷やしましゅよ……」


 う、ネーネさん、そんなこと言ったって僕らのせいじゃないんですー。悪者の悪知恵のせいなのです。

 いやあ、悪い方向に噛み合っちゃったよね。


 フーちゃんが全力でやる必要のある敵が現れる→ダンジョン崩壊トラップ→星の精霊王であるたけき力の王使用不可っていう流れだったし。


「さらに無報酬なのであります!」

「アダマンタイトもどこ行ったか、分からんようになってしもうた」

「山の崩落現場で見つけるのは不可能でしゅねえ」

≪許すない、する。ってヤツだ≫


 大量の残機を使って、邪人発見用の僕を作るのだ。

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次回≪MISSION:121 無限残機のポヨポヨポー≫に、ヘッドオン!

8時にもう1話投稿します

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