MISSION:87 血海の白薔薇

「おお、そいうんなら知っとるのお。ナターリャが血海けっかいの白薔薇ぁゆうて、呼ばれるようになった時の話じゃろ」


 ダズ爺の所に着いたので、やらかし的なのを聞いてみたら知ってた。


「アッ、ダズ翁、シー! シーッ!」

「グォッ、や、やめんか! 誇ってえことじゃろうが!」


 そしたら、ナターリャさんがダズ爺を活け〆にしようとしてる。ダズ爺だって強いはずなのに、首をキュッとね。

 吸い込まれるようにスルッと手が入ったよ。


「聞くしたい~」

「ウチもー」「それがしも!」


 興味津々のパーティメンバー。僕も興味あるけど、血海に引っ掛かる。だってツボの名前だもの。膝の上辺りにあるツボ。血の巡りが良くなって健康になるんだー。いや、まあ言いたいことは分かるけども。


≪辺り一面、血みどろにしたんですね? ワカリマス≫

「それだけじゃあない。それでもなお、血の1滴すら浴びておらんかったらしくてのお。それで白薔薇じゃ!」

「ナターリャ様はキレイですからな!」

「色も白いけえじゃね!」

「私、異名、欲しいあるぅ」


 なんでも大規模な盗賊団を単機で壊滅させたんだって。ギルドマスターとして赴任してくる時に、その盗賊団を見つけたらしい。

 ナターリャさんは空中戦できるから、蹂躙したんだろうね。


 そんな白薔薇さんを、紅薔薇にしちゃうみんな。「ヤメテーヤメテー」って恥ずかしがってるよ。


「指揮蟹島の英雄には物足らんかもしれんがのぅ、商隊に被害が出んかったんはナターリャのお陰じゃ」


 なんとこの街でもナターリャさんは救世主だったのだー。


「ただのぉ──」


 正に商隊へ襲い掛からんとするほどの距離感だったみたいで、盗賊のみを蹂躙してたけど商人たちはビビり散らかしたそうです。

 ナターリャさんは返り血を浴びないのに、商人とか馬や馬車なんかは鮮血に染まっていくという事態に。


 若干の配慮が足りなかったんだってさ。そんな訳で異名のお花は可愛らしい百合とかじゃなく、トゲ付きの薔薇になったっぽい。

 戦場に立つ凛とした白い薔薇。ソレはソレでカッチョヨイものだよ。


「カッコイイある、いことー」

≪ナターリャさんてばそんなに強いのに、なんでチヒダンジョン攻略しなかったのか気になりだした≫

「確かにそうですな? 東大陸でも英雄として名をはせておられますし」

「あの時はチヒにいなかったのよね。休暇で指揮蟹島に行ってたわ」


 連絡受けて戻ってきたら、僕らがもう終わらせてたみたい。ダンジョン発見のタイミングが、僕らと合ってたってのもありそうだね。丁度ラーハルト辺境伯の所に向かってた時期っぽいし。


 ナターリャさんが、タイミング悪いとも言えるんだけど。


 それにナターリャさんでも、さすがにひとりじゃダンジョン攻略に時間が掛かるってさ。ダンマスがいるのは迷宮の奥だしね。ギルドマスターだし、そこまで時間なんて取れないんだろう。

 

 僕らの場合は、僕が残機を有効利用してマッピングするから、簡単に進んでるだけだもんねえ。みんな火力高いし。


「オイシイのタイミングじゃったっぽいねー」

「儲けるした~」

「羨ましいであります」

「もぉ、大事な話があるから集まったんでしょ? 是非を問いかけるほどの」

「ほうなんか。大ごとになっちょるようじゃな」

「ん。初代様、関係者、依頼されるした」

≪歴史に名前が残るくらいの、事件になりかねないって≫


 目を見開くふたり。


≪本人の希望で話せるのは初代コロコロさんの関係者、ってとこまでなんですけどね。関りはかなり深い人物です≫

「ゆえに放置はできませぬ」

「フーちゃんちに行きたかったけえ、え機会じゃしねー」

「ねー。『こればっかりはオラだけの判断じゃダメだべさ』するぅ」


 依頼に至った原因を説明した。


「うぅむ。ワシぁ知らんのぉ」

「私も聞いたことないわね。ホントにそんな姿なの?」


 精霊が教えてくれた姿になった僕を見て、ホントにこんなのが世界に危機を招こうとしてるのかって、疑惑の視線を僕らに送って来る。

 銀色の生き物ってだけでも不思議だもんね。しかもコケシみたいなのだよ。ゴエモンの記憶とも一致してたので、コケシは確定してる……。


「大きさはどうなんじゃ?」

≪あ、聞いてないや≫


 精霊が一緒に来てくれたんだし、教えてもらうことに。


「ルーちゃん、ちょっと低いする、言うしてる」

「うぅぅぅむ……そんなんがストームジャイアントを12人やった言うんか」


 信じがたくても、ストームジャイアントを狂わせてたのは事実だしなあ。ユッグベインの資料によれば、他人を操るシステムの構築を研究し始める切っ掛けだったようだし。


≪その結果がアーさんを操ってた肉塊に≫

「他にも、おりそうじゃよね。アレを付けられとるダンジョンマスターが」

「他者を操るなんて悪辣過ぎるわね。必ず排除しなくては」

≪肉塊だったら僕が取り除ける可能性も残ってるし、発見した場合は教えてください≫


 一応、冒険者ギルドマスターと領主には通達されてるそうだ。


 ユッグベインって色々と人を使って実験してるみたいだし、別の手法がある可能性も捨てきれないけどさ。だって研究開始が500年前からだだもん。

 なんにせよ銀コケシは昔っから、この世界を実験場みたいに扱ってるっぽい。


 邪人と銀コケシのコラボは、誰も喜ばない迷惑行為だから止めてもらいたい。


「ワシらの時も動いちょった可能性があるんじゃのぉ」


 滅びの魔人は狂った邪人だったそうな。邪人は悪とはいえ、無秩序に破壊行動を起こすわけじゃあない。アイツらはアイツらなりの秩序に従って動いてるそうだし。

 なのに西大陸を壊滅に追い込んだって話だもんね。

 この世のすべてを呪うような、禍々しい魔石だったってさ。


「お主らの話を聞いて思うたわ。アレも1個の魔石に、魂を詰め込んじょったんじゃろう」

「おぞましいであります」

「ダズ翁たちの時代が800年前。ストームジャイアントの事件が500年前……もうなにか起きても不思議じゃないわね」


 か、感覚の違いなのかな? 寿命の。僕はもしかしたら銀コケシがいるかも、って程度の感想だったんだけどな。

 ナターリャさんによれば、すでになにかの悪事を進めてるんじゃないかって……。


「ウチ、怖ぁなってきてしもうたんじゃけど?」

「強い、なるするー!」

「といっても急にはなれませぬ……あ、そういえば、それがしは急に強くなり申した!」

≪ダンジョンの力が増せば、僕らもパワーアーップ! だね≫

『ムー、ポーちゃんが森にいだら、連絡だけで済んだべさ! そったらダンジョン狩りに行けるだよぉ』


 残念そうです。実家に戻るのが、時間の無駄に感じてるっぽいです。そんな時間があったら、フーちゃんはダンジョンを探したいみたいだね。

 さすが暴れん坊。


「フーちゃん、なんて物騒な子なの……」

≪エルフの人は、みんなこんな感じなのかと思ってました。違うんだ~≫

「違うわよ!」

「違うん?」「違うのでありますか?」


 ワワンパァもルァッコルォも「エッ?」ってなっちゃてるよ。


「違うわよっ!?」

「スー家の血筋かもしれんのぉ」

「ん。普通するー」


 フーちゃんちは武闘派かあ。

 スー家がエルフのイメージを壊していくんだなあ、って確信を得ました。

 優しくフフフって微笑んでくれるイメージだったのに……かわいそうなキンタマを量産するイメージで、上書きされそうなんだよ!


「まあ、今回のは陛下からの正式な依頼ですから、仕方ありませぬよ。あのお方はデキルお方ですからな。間違いありません。獣人の誇りであります!」

「自分の国の王様が尊敬できるんはえことじゃよねー」

「ねー。力、驕らず正義成す。稀人まれびと~」

「「「ねー」」」


 いや……「ねー」じゃねーよ?


「おもしろおじさん、あるしたっ!」

「「「ねー」」」


 いやいや、いやいやいやいや。


≪えーっとぉ……内緒でお願いします≫

「ポーよ、気ぃ付けてやれ」

「そうよ? こんな情報……サラッと流さないで欲しいわ」


 フーちゃんもワワンパァもルァッコルォも「エッ?」ってなっちゃてるよ?

 いや、だって今回の依頼人は内緒だけど、初代コロコロと関りが深いって説明してからの相談だったじゃん……。


 獣人の寿命はエルフみたいに長くないから転生者って分かるし、東大陸の現王からの依頼ってバレたし、さらに稀人ってことまで話しちゃうし。


 フーちゃんもワワンパァもルァッコルォも「アッ!」ってなっちゃてるよ……。特にルァッコルォの冷や汗が、尋常じゃないでありますぅ。


「エ、エヘェ……つい、うっかり……でありまぁす……」


 子供に話したのは失敗だったね。ってゴエモンに送っといた。

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次回≪MISSION:88 JK OP≫に、ヘッドオン!

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