MISSION:86 美女と野獣
「ご乗船、誠にありがとうございました。終点、テルマエ・ダンジョンに到着でございます。幻想的な光と闇のコラボレーション。時を忘れてお寛ぎいただけます。どうぞご堪能ください」
またのご利用をお待ちしておりますって、お船はドックにイン。まさかのお風呂に放置されてしまった。
しかし──
「キレイ!」
「凄く幻想的ですな!」
「アーさんの趣味、
──鍾乳洞の中が温泉になっているだとッ。なにかは分からないけど、ホタルみたいに発光するものが宙を舞ってて、観光地になるのも分かる美しさだよ。
天井からつらら状に垂れ下がってる鍾乳石に、謎の発行物体がくっ付いてるのか、縦長のシャンデリアみたいだし。しかも発光色が青とか緑とかも混じってる。
≪コロッセオダンジョンの、精霊の泉に匹敵するキレイさ。ビューティホーゥ!≫
「ですがお腹が空いてしまいました」
「お昼、食べるするー」
「あとにでもまた来ようや」
チヒに到着して、なんとなく人の流れに乗って、船にも乗ったら終点がお風呂の謎ツアーでした。ちなみにひとり銅貨1枚。無駄な出費だった。
≪先にご飯食べればよかったねー≫
「なー。ほんじゃあ予定通りアーさんとこ行こうかあ」
ってタイミングで、コッチにいる僕が呼びに来た。わざわざ外に出なくても、メンテ用の出入り口からコアルームに行けるので。
「来るしたー」
「はい。いらっしゃいませ」
「まずはルーちゃんの紹介じゃね」
ワワンパァがグイッとルァッコルォを前に押し出す。
「始めましてでありますな。それがし、対邪人特務部隊シノビ所属、北の風のルァッコルォと申します」
全然シノビっぽくない格好ですけど、って苦笑いしてるルァッコルォ。でもさ、チガウヨー? ルァッコルォはもうシノビ部隊に所属してないンダヨー?
「あ、そうでした。普通の女の子になったのでありましたー」
「普通? 違うあるする」
「トリプルスターの冒険者じゃ」
「そう! ルーちゃん、カッコイイ、カワイイ、正義する~」
≪対邪人特務部隊シノビ所属、北の風の、ってとこもカッコイイポイントだったのにね。ちょっと残念。ところで北の風のってなんなの? 属性的な?≫
「いえいえ、北の風の村出身のって意味です」
隠れ里の名前だったのかあ。
名乗るのかぁ。
「コロロの森の、一緒! お揃いするぅ」
「
とか言いながら3人でキャッキャしてる、カワイイ光景が目の前に。でもアーさん、自己紹介のタイミングを逃して、上げかけた手をコッソリ降ろすのを僕は見てしまった。なんだろなあ、そこはかとなくカワイソウが似合う男って感じ。
「まあまあみなさん。立ち話もなんですし、お茶でも入れますのでどうぞこちらに」
だというのに紳士だーっ。
「それがし、バンパイアの王と聞いていたので、もっと不健康そうなイメージを持っておりました」
「フフフ。実は私、こう見えても健康には気を使っておりますので」
手伝うって言って、ルァッコルォも台所に消えていった。何気にコミュ力高いよなあ。
「ポーちゃん、ニョッキのソースはどっちにする?」
≪おー、ありがとっ。僕の答えはね、2個食べる。です≫
「あはは、オッケー」
「私、お肉食べるする。ステーキ」
台所からそれがしもステーキぃって声が届いた。アーさんはもう食事を済ませてたみたいで、紅茶のみでの参戦。軽く報告を聞きながらのランチだね。銀コケシのことも聞いてみたけど、知らないそうだ。フラム部長も知らないってさ。
むー、知らないかあ。アーさんなら、見てる可能性もあるって思ってたんだけどな。コロッセオダンジョンのは500年前のことだし、活動可能な時期ってのがあったり? ひょっとしたらいるかも、って程度でいいのかなあ。
なんというか、数百年周期で動いてる感じ?
でも500年って普通に生きてる種族も多いみたいだしねえ。僕の中では短命のイメージが付いてた獣人も、600年くらいは寿命があるそうだし。
長命過ぎて、年齢なんて150歳を超えた辺りから気にしない世の中みたいだよ。
ちなみにフーちゃんは120歳。ワワンパァは元65歳。ルァッコルォが45歳。元23歳の僕が、一番生きてる時間が短いのですヨ。背の順でもあるなー。
食事も終わったし、鍾乳洞の温泉に行きますか。広いし、いろんなお風呂があるから結構楽しめるみたいだし。
≪じゃあコレ、好きに使ってね≫
「ありがとうございます」
僕の見た目も相まって、アーさんには金運の神として祭られそうだとの感想をいただいた。
おばちゃんがくれるアメちゃんみたいな感覚で、10万くらいなら渡せるようになってしまったもんなあ。今回渡したのは700万くらいなので、さすがにアメちゃんじゃないけど。
「それ、あるする~」
「確かに。ポーちゃんは見たことないくらいのお金を、簡単に稼いじょる」
「それがしも運が良くなり申したー」
≪欲しいの作ったら当たっただけなんだけどさ≫
色塗りが絶望的にヘタクソだった自分を、褒めてあげたい。エリヴィラ様とエリオ氏にも感謝だね。あのふたりの行動力と人脈は素晴らしいのだ。
まあフーちゃんと出会わなければ、王族との繋がりもなかっただろうし、成金スライムにもなれなかったんじゃないかなって思う。
運が良かっただけかな。
あと、カワイイのが罪ってことですよ。ってことで運営特権を発動して裏口から鍾乳洞の温泉に再突入。
そういえばフラム部長が噴火を抑えてるんだから、温泉はあるよね。
ここの温泉はお肌に潤いと艶をもたらすとのことで、女性に大人気の天然温泉がメインになってるってさ。一応傷や病気に効果のある人工温泉も完備されてる。男風呂はそっちがメインらしい。ダンジョン帰りに入れば効果があるしね。
「天然温泉ってだけで羨ましいなるわ。ウチんとこぁ人工じゃし」
「有難味が段違いですからな」
「効果、マナ風呂、上ー」
物質の心と身体に作用する、謎満載のマナを込めたお風呂。そりゃあもう効果は高い。マナって万能薬みたいなものだよなあ。
人や動物だけじゃなく、石みたいな物体にも効果を現すっていうのが不思議。それが精霊は万物に宿る、みたいな考えになってるのかもね。
僕とルァッコルォは、ホテルの床と天井に掴まれてるし……。疑いようのない事実として受け入れてるよ。
物にも心はあるのだ! そんな真理に近づいた時に、みんなは──
≪ねえねえ、お尻痛くならないの? そんな何回もやって平気?≫
「ツルツルなるしたー」
「しかも楽しいのであります!」
「本体が来れんのが無念じゃぁ」
──鍾乳石でできたすべり台が気に入ったみたいで、他の子どもたちと一緒に何順もしていた。そ、そんなに心惹かれるものなのかなあ? 温泉ってのんびりと浸かってさ、心身を休めるものじゃないかい?
うーん、アグレッシブでダイナミックな入浴って。理解はできないけど尊重はしよう。
僕はのんびりすることにした。秋芳洞の百枚皿みたいなところに、分散して入ってるよ。そうすることによって、なんかとても笑える風景になったので。
温泉卵になった気分でーす。
温度は体感できないから、気持ちいいとかはないんだけど。ダンジョン内なのでマナが豊富。ゆえに美味しい気分で温泉に浸かってまーす。
「それでポー君はなにをやっているのかな?」
≪あ、ナターリャさん。ご機嫌麗しゅう~≫
吟遊詩人(?)の人が奏でる曲に合わせて、百枚皿に浸かってる僕たちで光ってたらナターリャさんがいつの間にか側に来てた。
≪いやあ、フーちゃんたちがすべり台にハマり過ぎてまして。僕は所在なしな感じです≫
「確かにあれは子供を虜にしてるわねぇ」
≪呼びましょうか?≫
「そうね、身体を洗ったらダズ翁の所に向かう予定だったし、一緒に行きましょう」
了解ってことでみんなも呼んでおく。というか、動き回って汗かいてそうだし、もう1回軽くでも洗っておいたらどうかなー?
「うーん……ナターリャさんがエーゴーァの奥さんって、いまいち信じられんわ」
「なんでよぉ、今も昔もカッコいいんだからね?」
片腕を失いながらも怯むことなく、ドラゴンゾンビに向かって行くところなんて、確かに「おおっ」てなるけども。
指揮蟹島を取り戻すために、ストイックなところも凄みを感じるけども。
海賊の船長みたいな風貌なんだよね。エーゴーァさんて。悪役面だから、見た目はお似合いの夫婦って感じじゃあないよ。
でもマジで尊敬できる人なのが、エーゴーァさんだ。生き様がカッチョイイ。
≪僕の世界には美女と野獣って大人気の物語があるよー≫
「え、いや待って? わ、私はそんなに、そこまで、破壊ぃ、じゃなくて、ちっとも暴れてませんが?」
≪ん? いや、カップルのお話なんだけど、なんでナターリャさんが美女と野獣の2つとも受け持ったの?≫
「オ、オホホホホー」
「誤魔化しの気配を感じるであります」
「やらかす、した~?」
「森の民は、やらかす民なんかねえ」
エルフふたりが、エッって顔した。そんなバカなって顔してる。
やらかしてそうダナー。
ナターリャさんのは知らないけどさ、フーちゃんのは覚えてるよ? 僕。
エルフ最重要機密っぽい世界樹の所在地をバラしてアワワってなってたし、お婆ちゃんがやらかして、永久凍土にした極秘情報を王様にバラしてアワワってなってたじゃーん。
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次回≪MISSION:87
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