MISSION:84 是非

「閣下はお年玉をいっぱいくれる、いおじさんであります」

「ルーちゃんは人懐っこい子犬みたいなのに、ガメツイんじゃねえ」

「お金、汚い、悪いなるする、よ?」

「ウッ、そ、それがし……借金をこさえてから、こうなってしまった気がいたします」


 そもそもなんで借金を作ったのか。特殊部隊に所属してたんだから、当時は給料も良さそうなのにね。

 なので聞いてみた。ニャムちゃんがいなくなって、ひとりで冒険者活動するのは心もとなかったので、装備の強化をしようと思ったらしい。


「足りなくて賭け事に手を出してしまったのです。失敗でありました」


 スゴクしょうもない理由だった。部隊から支給される備品より、カッコイイのが欲しかったとかアホなこと言ってる。


「ォヒヒヒッっく、っは、ル、ルーちゃッ、ダメ、ソレっィヒー」

「そ、りゃ、あッ、ダメじゃろぉルーちゃんンンンッっぐ」

「ふたりともヒドイでありますー」

≪これは笑い転げても仕方ないよ。まあこれからは欲しいものがあったら、先に相談してね。ガッポリ儲けたしー≫

「はぁーい」


 職人さんの力作装備は、カッコイイのも多いから気持ちは理解するけどさ。でも子供が130万以上の借金を、こさえちゃうのはどうかと思うよ?


≪中途半端に時間が余ったね≫


 王様との食事会まで3時間くらいか。ホント微妙な時間だなー。


「観光でもいかがですか? それがしがご案内いたしますよ」


 そう言ったルァッコルォに連れられて向かった先は、お祭りなんかに出てる屋台のゲームがずらりと並んだ場所だった。

 ゴエモンさんのアイデアだってさ。


≪懐かしい。子供の頃はよく遊んだヤツだよ≫

「ポーちゃんも子供じゃろ」

「最も幼いするー」

「確か20歳程度とか。楽しんでくだされ」

≪いやいや、僕らの世界じゃ20は大人! お・と・な!≫


 まあまあ、大人ぶりたい年頃なんだよね。いかに寿命が短いとはいえ、20で大人はないよ~。って感じで誰も信じてくれなかった。理不尽なんですが。

 まあいいか。みんなに小銅貨10枚ずつ渡して、遊んでもらうことにした。


「ポーちゃんはやらないのですか?」

≪僕はいいかなー。この身体だとズルしちゃいそうだし≫


 見えないサイズでサポートしたら全クリ可能そうだもの。


「お勧めはどれなん?」

「それがしは輪投げか的当てが好きであります」

≪チマチマしたのが好きなら、型抜きもお勧め。定番は金魚すくいだよね≫

「魔法、いする~?」

「ダメですよー」


 射的がない代わりに、攻城兵器の投石機があった。小っちゃいヤツだけどね。コレは激ムズなんじゃあなかろうか。


「カタパルトですかあ。無理なヤツですよ~」


 そんな時にどよめきが。


「パァちゃん、スゴイ!」

「ふっふーん。まかちょけぇっ!」

≪ウッソ、こんなの抜いたの!?≫

「最高難易度のヤツではありませぬか!」


 騎士が魔物と戦ってる絵柄の型抜きをクリアしてるし! 唖然とする店主。悔しそうに景品の子豚を連れて来たよ。

 いやいやいやいや、ブタァ? 本物の豚なんてもらっても困るし。


「ウチら観光客じゃし生き物は困るわ!」

「あれー、代わり、もらうするー」


 僕たちは高級ハムをゲットした。オマケのウィンナー付き。そのあとはキャーキャー言いながら的当てしたり、キーキー言いながら金魚すくいを失敗し続けて楽しんでたよ。


 型抜きのおっちゃんだけが損をしたイベントでしたな。100円で5000円のハムを取られちゃったし。


「日も落ちてきましたし、そろそろ陛下の所に向かいましょうか」

「王、ご飯~、豪華絢爛晩ごはーん」

「フーちゃんがご機嫌じゃとウチもなんか嬉しい。緊張するけど……王様じゃし」


 ざっくばらんなタイプだったし、喋り方も王様っぽくないし、ワワンパァもまあまあ平気な感じだったからダイジョブダイジョブ。

 ということで気軽に王様んち(お城)にレッツゴー。


「いらっしゃい。あなたがスー家のフーちゃんね?」

「いらっしゃいまし! フーちゃん! ニーナはトニーナ!」

「ンッ! ご招待ありがとうするー」


 出迎えてくれたのは美人系エルフのお姉さんお母さんって感じの人。いや、なに言ってんだって思うかもだけど、そんな感じなんだよー。なんというか、漫画に出てくるようなキレイで清楚なお姉さんなのに、母親なんだもの。


 そしてもうひとり。フーちゃんが認識疎外の帽子を取ったりかぶったりしてるから、目を真ん丸にしてビックリしてる幼女ちゃん。


「カッ、カワッ! お、お邪魔しますッ!」

「いらっしゃいましっ、パァちゃん! ニーナはトニーナ!」

「はい、こんばんは! パァちゃんはワワンパァです!」

「わ、わ、わんわんぱぁ?」

「パァちゃんでえんよー」

「パァちゃん!」


 そんな幼女にワワンパァも大興奮してるね。幼女、つまり王女様が破壊力満点のかわよ・・・さだし。順番待ちのルァッコルォも、ソワァってなってる。ヨチヨチ走って来てっていう表現が正しいかは分かんないけど、そんな感じで近寄っては挨拶してくれるんだもの。


「いらっしゃいまし! しっぽちゃ……ルーちゃん! ニーナはトニーナ!」

「尻尾ちゃんは尻尾が自由自在でありますよ~」


 ブブブブって尻尾を振ってる。王族に尻尾を振ってやがらぁ。ニッコニコじゃあねぇか。


「しゅごい! ニーナ、まだ上手にできないの」

「すぐ上手になりますよ!」

「うんっ!」


 そうなんだよね。エルフと猫系獣人の特徴が出てる。ハーフエルフの幼女がネコミミと尻尾付けてんだもん。コレは反則級ですよ。僕らの名前もちゃんと覚えてくれてるし。


 僕への挨拶はそこそこに。僕に乗りたがったので天道虫号になって、部屋の中をドライブしてあげました。お陰で食事も和やかに楽しく過ごせたよ。

 王様の膝の上より僕の上を選んだ王女に、しょぼくれる王という一幕もあったんだけど……。仕方ないよ。僕の座り心地は南大陸の王妃であるエリヴィラ様も認める、素晴らしいものらしいし。


 満腹になって電池の切れたニーナちゃんを、寝室に寝かせた王妃様が戻って来た。


「ここからが本題だ。改めて紹介しよう。俺の嫁をな!」

「ですからその言い方は間違いですと、何度も言っていますでしょう?」

「符丁みたいなもんだ。リィロレッタは俺の嫁」

≪日本人!?≫


 僕と王以外、どうなってんの? みたいな表情。そりゃあそうだよね。「○○は俺の嫁」なーんて言い方。

 懐かしいな。僕をそそのかした伯父さんがよく言ってたヤツじゃん。


 コレって日本のオタクか、日本のアニメ好きな外国人オタクくらいしか、知らないだろうし。つまり、この王は同志であるってことが発覚したね。


 王様の奥さんを紹介してるんだから、合ってはいるんだけど……なんか生々しいから僕的には推しっていう表現のほうがいいかなあ。


「これは前提の話だ。そして俺は日本から異世界転移したゴエモンでもある」


 王妃以外ハァッ!? ってなった。


≪えっと、っていうことはつまり……異世界転移したあと、さらにこの世界に転生してると?≫

「初代様、名付け親あるする?」

「グェモン様でありますかっ!」

「伝説の人じゃあ……」

「そうだ」


 遂に言ってやったぜニヤリ、みたいな顔してる。コ・イ・ツかあー! 責め立てようと思ったけど今は止めておこうか。フーちゃんはコロコロの名前になりたがってるし。この世界じゃコロコロスーは、カッチョイイ系の名前になっちゃてるしぃっ。


 まあソレはソレでいいとして、是非とも聞きたいことがある。


≪はいっ、はいっ! 虹の忘郷の場所を教えてください!≫

「ポーちゃん、それ、初代様、予想、行動」

「天然浮遊石1個でも十分じゃろうに」

「それ、極秘だったのではありますまいか?」


 あ……失敗。


「発掘したのか!? 全部深海に沈めたってのにな」

「おー、初代様、伝説知るできるしたー」


 あ、ヤベッって顔してるゴエモン。全部深海に、という言葉で複数あることも場所も発覚したよ。浮遊石、根こそぎいただきたーい。


「極秘だからな! 絶対言うなよ!?」

≪了解≫

「全部もらうっちゅう顔しちょるわ」

「顔ないのに分かりやすいであります」

「ポーちゃん、メッ」

「神の怒りに触れる可能性もあるからな?」

≪別に悪いことしたい訳じゃないもんね。空中要塞になりたいだけで≫


 うーんいいのかなぁ? みたいな顔された。虹の忘郷、やっぱ神の怒りを買ったみたいだねえ。


「まあ今の問題はそこじゃねえんだ。俺はこの世界でそれなりに長期間活動してたんだが、銀のコケシの情報はこの国にはない。ってのは正しくもあり、間違いでもある。アレはゴエモン時代の敵だ」


 つまり虹の忘郷関連の敵ってことなのか。

 虹の忘郷は歴史に情報をのこさないように、わざわざ深海に落としたそうだよ。コロコロ初代様が、ふんわりとしか伝えなかったのも、そういうことなんだね。


「神様からの依頼でな。空の上から人を支配する技術は危険だから、情報はなるべく消したんだがなあ」


 空から城が落ちてくるなんて現象、目撃情報はどうしても残っちゃう、ってことだろうな。


 しかも難儀なことに、銀コケシは精霊の悪意レーダーで探知できないらしい。無邪気な子供のように、人を使って実験したり殺したりするみたい。

 アリの巣に水を注ぎ込んだりする感じか……。


「ムゥ……悪、感じるない。困るする」

「見つけ次第処理するしかねえんだよな。俺たちは3体ほど始末したんだが、どいつもこいつも剣技が並みじゃねえし、それも厄介だ」


 外見と能力の差はなかったそうだ。なのでひょっとしたら、僕みたいに相手も残機制かもってさ。クローン的な。増える速度は、さすがに遅いんじゃないかと思うけど。ウーン、これもまた厄介じゃん。


「アレが動くと、伝説に残るような事件になっちまうようだ」

「それで私に会わせたかったのですね?」

「そうだ。リィロ、彼らは是か非か」


 謎に、急に、是非を問われてる僕たち。


「もちろん是、ですよ。私、セレノの森のリィロレッタは是とします」

「はい! 私、コロロの森のフィアフィアスー、是!」

「なんでありますか?」「どういうことなん?」

≪2票集まったらなにかあるの?≫


 3票必要らしい。エルフの3票を集める必要がある。とのことなので、チヒのナターリャさんに聞いてみる。


≪即返信が来たね。クララの森のナターリャ、是≫


 ここまできたら僕でももう分かるよ。次の目的地がさ。


「頼めるか? フィアフィア嬢」

「まかちょけぇ!」


 僕らは向かうことになる。フーちゃんの生まれ故郷。

 世界樹を守るエルフの森へ。


「あともう1個頼んでいいか? リィロとニーナのフィギュアをだな、その、なんだ、作って欲しい」

≪ニーナちゃんが僕を選んでしょぼくれる王様を?≫

「ヤメロォ! その仕打ちは俺に効くんだからな!?」

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次回≪第4章 大森林の暇人たち≫に、ヘッドオン!

○○は俺の嫁

なんかいつの間にか聞かなくなりましたな? とか思ってググったら考察とかでてきました。

オタ活にも学問はあるのだ!

いや、哲学?

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