MISSION:60 忍術

「そうですな。ルァッコルォには世界を知ってもらおうかの」


 邪人の討伐をするなら問題はないだろうって。ついでにニャムちゃんに会ったなら帰還するように伝えてくれと頼まれてるよ。

 流石に忍鳥でも連絡は取れない距離らしいので。連絡は冒険者ギルド経由で、向こうからのみになるんだって。

 調査ならいろんな場所に行きそうだもんね。コッチからは連絡なんて取りようがないかあ。


「ヤーニャムのことだ。予定しておった1年が経つまでは、帰還せぬ気はしておるのだがな」


 予言された僕を見ても、別に世界の敵になる感じじゃないしね。様子をうかがって問題なしと判断をしたら、遊びそうだと里長は判断した。


「それがし、急に未来が開けたであります。借金も帳消しにな……」

「あー」

うてしもうた」


 せっかく内緒にしておいたのに自分でバラしちゃった。そしてクマさん怒りの鉄拳を喰らってる。


「手綱をしっかり握ってくだされ」

「分かるしたー」

「まずは戦闘力のチェックじゃね。せめてウチくらいは欲しいじゃろ」

≪そうだねー。僕とワワンパァは残機制だから死んでもまあ問題ないけど、ルァッコルォは困る。フーちゃんに関しては怪我するクラスの敵すら、どんなんだか分かんないけど≫

「それがし、一応シングルスターのソロ冒険者であります。1本角の邪人でしたら問題なしですよ」


 1.5星くらいってことかなー。でもチョット足りないか……。


「装備、強化するある~?」

「ほうじゃね。一旦ダンジョンに帰るんがえかもしれんね」

「足りないですかぁ」

「2本角、対面戦闘、同等欲しいあるする」

「2本角であれば、武器性能が上がれば問題なく」

「おー、ウチよりぁ強いんじゃね。かった!」

≪じゃあ問題ないねー。装備に関しては、いいのを揃えられるしさ≫


 どんな戦闘方法なのか聞いてみたら、小太刀、投擲、徒手空拳、忍術を使うんだって。徒手空拳はオーラを使った体術で、忍術は火遁と風遁と土遁が得意なんだそうだ。火遁で力に、風遁で動きに、土遁で防御にバフを掛けて接近戦で仕留めるみたい。

 場合によっては、ハヤテが雷撃で敵の動きを阻害したりするそうな。倒せなくても痺れるからね。雷撃は結構万能だ。


 調査とか索敵なんかも得意だってさ。犬の獣人だから匂いや音に敏感だし、当然かもだよ。そして獣人たちには邪人の臭いが分かるそうだ。


「スゴイ、ある!」

「これでさらに発見しやすうなるね!」

≪悪意と魔石に次いで臭いが追加かあ。ナイスゥ!≫


 僕が発見できるのが一番効率いいんだろうけどなあ……できないし。


≪邪人探知魔法とか魔道具があればなあ≫

「なぜ分かるのかが我ら獣人にも分からぬゆえ、魔術を組むことができぬ」

「ウチのはダンジョンマスターの権限じゃろうしねえ」

「精霊さん、分かるだけする。理由ないあるする」

≪僕が探知できたら天敵になれるのにねー。ま、邪人がこの身体作ったんだし無理かあ≫


 とりあえず戦闘を見てみようってことで広場に移動。僕が相手になるよー。オオカミサイズの天道虫号になって4台で攻める。

 僕相手なら全力でやってもらっても問題ないからね。


≪まずは体当たり攻撃のみで行くけど、ルァッコルォは全力でねー≫

「了解でありますよー」


 アフターバーナー未使用での全力突撃で様子をうかがう。隊形はダイアモンドだ。左右どっちに逃げても両翼でカバーできるし。

 ルァッコルォはビックリした表情を浮かべてるね。まぁるい形からは想定外の速度だったんだろう。60Km/hは出てると思うし。

 しかしさすがのニンジャちゃん。煙玉を炸裂させると同時に飛び上がる。射撃なしルールなのに、咄嗟にミサイルを撃ち込みそうになっちゃったよ。アブナイアブナイ。


≪飛べない人は飛んじゃダメで……OH!≫

「お互い想定外の動きでしたね」


 いつの間にか最後尾の僕の後ろにたたずむルァッコルォ。鉤爪付きロープを2号機に絡みつかせてた。

 その間に魔法とは違う、特殊な発動方法の印を結んでたようで、彼女は忍術を使った!


「火遁、ほむらのししむら」

≪ムムーッ!≫


 コレは射撃なしじゃキツイかな? バフを掛けたみたいで、2号機がポイーされてしまった。その流れのまま、鉤爪付きロープを生き物みたいに操って、攻撃を仕掛けてくる。

 と同時に印を結んでるぞ!? 流れるような動き。おのれニンジャ、やり辛いな。


「風遁、かすみのししむら」


 バフンと音を立てて煙玉が炸裂。ルァッコルォが、また姿を隠した。ぉおおにょれぇっ!


≪やり辛いね! 強いぞーってことでアフターバーナーON!≫


 もぉおおーっ、いつの間にか側にいるんだよ。僕に死角はないはずなんだけど、煙玉とか鉤爪付きロープで意識をそらされてる! 残機減っちゃうけど超加速して、ルァッコルォのオーラパンチを避けた上で一気に接近してタッチ。


「うぇえぇええっ、なんですかその動きっ!?」

≪ハイ、詰みです。いやあ、ルァッコルォに好き勝手されちゃうとさ、見失っちゃうので一気に仕留めましたぞー≫

「対戦したらウチぁ全然勝てそうにないで!」

「戦い、上手いする~」

≪でも大型魔獣なんかはどうなんだろう?≫

「そういう場合は毒や罠を使うのでありますよ」


 さすニン。といってもアーさんがダンマスやってた時の中ボスみたいな、トラック2台分サイズとかは戦ったことがないそうだ。


「あれ、特殊~」

「ほうよ、あんなんはそう出てくるもんじゃないわ」

「そんなのと戦ってるのが驚きなのですが!」


 でも邪人と戦うなら、そういった可能性を否定できなくなっちゃったもんね。ダンジョンマスターを操ってたり、ダンマスが仲間だったりするかもしれないんだから。


「陛下に進言しておこう。より一層、注意せねばなるまいな」


 アーさんみたいなケースは、今までなかったそうだ。フーちゃんもワワンパァも知らなかったしね。邪人の新技術ってことなんだろう。

 ダンマスが肉塊で操られてる場合は、僕が解放できる可能性があることも伝えておいた。


≪この里にも僕を残しておくべきかもって思ったんですけど≫

「うむ、頼もう。長距離の連絡が可能なのはありがたい」


 場合によっては王様の所にも株分けするかも、とか言われて緊張度が上がった。今回はフーちゃんも関係ないしヤベェ案件だよぉ。


「「ガンバレー」」

≪うわぁ、他人事じゃんンン≫

「わりと気さくな方であります。大丈夫大丈夫!」


 ルァッコルォ、お前もかっ! 今の王様は久しぶりに獣人の人なんだって。だから親近感が沸いてるそうだ。

 えっと、それってさ、ルァッコルォが思ってるだけで、向こうからはなにもっ……かしこまってそうろうしたほうがいいね。絶対。


 なお、僕とワワンパァの空中戦を見せたら、里の人たちにドン引きされ申した。


「それがしには付いて行けないのでありますが……」

「我らは対人が主な任務ゆえ仕方あるまいて……」

≪エルダークラスのドラゴンだと、わりとアッサリ対処されましたよ≫

「普通は戦ったりしないのであります!」

「そういやあフラムブチョーは頼んだら模擬戦してくれるじゃろうか?」

「たぶん平気する?」

≪ヤミちゃんはダメな気がするね≫


 ヤミちゃんは怠け者だからなあ……。でもまあ、それがヤミちゃんの魅力でもある。フーちゃんとワワンパァも同意見だったよ。


「あの、まさかエルダードラゴンとお知り合いなのでしょうか?」

「うん」

「ウチのダンジョンにブルードラゴンのヤミちゃん。支店のダンジョンにレッドドラゴンのフラムブチョーがおるよ」

≪特にブチョーは仲間想いでいいドラゴンだよ≫

「ヤミちゃん、カワイイあるする!」

「小っちゃくなったヤミちゃんは、ホンマにカワイイんよぉー」


 寝息が「ぷぅ、ぷぅ」だしね! あの破壊力は他にないんじゃないかな。ギューって抱きしめたくなる。でもそんなことしたら邪魔ーって言って、翼でベシィされる未来が見える。


「そ、それがし、里に残りたいかなーって……」

「ならん。そなたはスー家と共にあれ」


 ありゃ? 可愛くて楽しいよってつもりで話してたんだけど、ルァッコルォが遥か遠くを見つめちゃった。

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次回≪MISSION:61 晒し≫に、ヘッドオン!

※ししむら:肉塊や肉のかたまりじゃなく、肉体のほう。

ということで、ほむらのししむらは炎の肉体。つまり熱くたぎってるのです。

熱々肉団子ではないのです。

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