MISSION:61 晒し

 ルァッコルォが黄昏てしまったので、今日は隠れ里にお泊りコース。訓練施設も兼ねてるので、泊まれる場所はあるそうだ。ホテルと違うから、そこまで快適ではないそうだ。

 久しぶりにルァッコルォが戻って来たし、僕らもいるから宴会しようってことになった。


≪あ、じゃあ肉出そうか。まだ20キロ以上は残ってるよ?≫

「1ヶ月経ったけどあんまり減ってないんじゃね」

「みんな食べるする!」

≪じゃあエアタンカー呼ぶよ≫


 フーちゃんとワワンパァ本体しか食べてないから、ほとんど減ってないんだよね。5キロも食べてないんじゃないだろうか? 

 全部提供しちゃうってことで投下してもらおう。隠れ里上空で待機するのは場所がバレちゃいそうだし、適当に飛んでたエアタンカーを呼び戻す。2、3分ほど待つと連絡が入った。


<里上空まで60ロクマル。投下準備完了。着弾地点から退避せよ>

≪場所開けてねー! はい、オッケ~≫


 投下された冷凍ドラゴン肉20キロを包んだ僕が、バシューと逆噴射しながらカッコよく着地した。カッコよくする必要は皆無なんだけどさ、なんとな~く、ね。投下ポッドは、植物の種をカクカクさせた感じにビルドマインッしてる。着地したら上部からカシューって、3つのドアを開くカッチョイイ感じに仕上げてあるよ。


いお肉~、おーにーくぅ~、おぃしーい!」


 フーちゃんが肉の舞を披露してる。魂が吸われそうだよ? 喜びの舞のはずなのにね。

 ステーキ用にカットした状態で冷凍してるから、調理に手間もかからないと思う。走る板号になった投下ポッドの僕が、ドラゴン肉の山を見せびらかしながら調理場へ連れて行かれた。


≪全部出してよかったの?≫

「うん。みんな、食べる、楽しい美味、なるする~」

「それはある。不思議と美味しゅうなるんよねー」

≪空腹に勝る調味料はなしとは言うけど、楽しいも立派な調味料だなあ≫

「ルーちゃん、元気する、するー」

「ありゃ? どこ行ったんねルーちゃんは」

「お肉、釣られる、調理場行くした」


 じゃあ元気になったね。現金なことですな。ルァッコルォは即物的ダナー。広場からはバーベキューとか鉄板焼きとかが始まってて、そこかしこからいい匂いが漂ってるよ。


 日光に限りのある里なのに、ちゃんと野菜とかもあるね。聞いてみたら数キロ離れたところに、大きくはないけど農地がいくつか点在してるそうだ。移動も訓練になるし日の光を浴びるのも大事だしね。


「新たにとぎを結んだ同士と、ルァッコルォの旅立ちに!」


 里長の短い乾杯の音頭が終わると、やはりみんなが最初に手を出すのはドラゴンステーキだね。見た目から美味しそうだしさ。広場はフードファイターの宴みたいになり申した。でも──


「ドラゴン、美味する~」


 ──なんてフーちゃんが言うもんだから、みんなパラライズ状態におちいってる。メーデーメーデー、解麻痺薬をお持ちのお医者様はいらっしゃいませんかぁー!

 そういえば解麻痺ってなんて読むんだろう? なんとなくずーっと「げまひ」って読んでたけど。僕。だって解毒は「げどく」じゃん?


≪こうなると思ってたから内緒にしてたのに~≫

「ちょっと、失敗、でも美味しい、正義。ポーちゃん、言うしたー、食べるする!」

「さすがですな。初代様に追い付くということは、こういうことか。うむ、頂こうではないか皆よ!」

≪えっとぉ、僕が言ったのはカワイイは正義だからね?≫

「それも正義、あるする~」

「分かるでありますよ」


 口元をべたべたにしてる、フーちゃんのお世話をしてるルァッコルォ。彼女の表情はニッコニコだったので、まあいっかってなった。フーちゃんとワワンパァ用にカットしてるから物足りないかもだけど、ひとり1枚は食べれるよ。あとは争奪戦してくださいな。


 そしていつの間にか姿を消してたワワンパァが、興奮しながら戻って来た。


「見て! フーちゃん見てぇや! 丸いヤツ見つけたんじゃけどコレ!」

「おぉぉ、カワイイ食べ物あるした!」

「お団子に装甲が付いとるんよ」

≪あ、胡麻団子だ。それ美味しいヤツでしょ?≫

「肉と野菜の甘露煮を生地で包んだものに、胡麻をまぶして揚げてあります。それがしの大好物ですよー」

「美味する~」


 思ってたのと違ってた。中身はあんこじゃなかったみたい。想像するに肉まんを蒸すんじゃなくて揚げたものっぽい。美味しそうなんですが!? え~、なにぃ~、揚げ肉まんなんて絶対美味しいヤツじゃん。

 ワワンパァに頼んでDP飯にしてもらった。一口サイズだしオヤツにもピッタシだね。


「お腹いっぱい、なるしたー」

「胡麻団子でトドメを刺されましたな。お腹に溜まるヤツでありますし」

「コスパえのは好きじゃ~」

≪胡麻団子、中身があんこのヤツが一般的だったよ、僕の世界だと≫

「「「あんこ?」」」

≪えっとぉ、小豆っていう小さい豆を甘く煮たっぽいヤツ? 赤い豆……たぶん≫


 へぇーって返事をもらった。知らないみたい。つまりだよ? ルァッコルォが働いてたお団子屋さんの団子には、あんこ入りがないっていう驚愕の事実が判明した。団子にはあんこって思い込んでたなあ。


 そんな話をしながら、女の子連中と一緒にゾロゾロと行軍中。どこに向かってるのかというと、お風呂です。またしても僕はまるという性別にされてしまったので、やむを得ず女湯に入ることになった。ヤムヲエナインダー。

 ちなみに大人連中は飲み会に発展してたよ。


「ここであります」

「キレイ!」

「夜空が見えちょる!」

≪洞窟の中の露天風呂って聞いてたけど、想像と全然違った!≫


 フフーンって自慢気なルァッコルォ。でもコレは自慢したくなるね。

 洞窟の天井というか上側が吹き抜けになってて、そこから見える月や星空が湯面に映ってる。


 え、でもコレって覗き放題なのでは……?

 一応注意喚起するために上に行ってデッカイ看板を立てておこう。精霊の力を侮るなかれ。睾丸が惜しいのであれば覗くべからず、ってね。フーちゃんの精霊はキンタマ叩きが趣味な節があるもん。


≪スー家の睾丸叩きは舐めないほうがいいよ……今代のコロコロスーは王様のも遠慮なく叩いてるし≫


 夢見る男子の黄金を守るために僕は伝えた。だって来たもんね。風下から覗きに。ちゃんと覗こうとしてるじゃん! 全力じゃん?

 そしてさすが伝説に残るスー家の子と仲間たちって驚かれた。


「発覚するとは思いませなんだ」

「残念でござる」

「クッ、ルァッコルォに一矢報いたかったのですが……無念」


 話を聞くと、以前覗きに失敗したら反撃されて覗かれた挙句、ちんちんの絵を晒されてしまったそうな。逆に覗かれてんのかーい。


 かわいそうなちんちん。


 まあ彼らの珍宝のことは置いといて、男子風呂も同じような露天風呂ってのが分かったよ。行きはしないけど。男だから男だからと断りはしてるけどぉ……女の子と入るほうが嬉しいのは男のさがですゴメンナサイ。


「お客人にご配慮いただいたようで申し訳なく」


 フーちゃんにおっぱいの僕塊ぼっかいを、無理やりくっ付けられたであろう爬虫類系女子からそんなことを言われた。


「まだやってるでありますか? 覗き……」

「そうなのよぉ」

「えっ? 覗かれとったん!?」

「ポーちゃん、追い返すするしたー」


 睾丸殴打を邪魔するのはいかがなものか、と説教を喰らう僕。ソンナー。

 まさか覗きを未然に防いだのに叱られるなんて、精霊ちゃんはどんだけキンタマを叩きたいのか。


≪なんでそんなに睾丸叩きしたいのか、謎に満ちてるなあ。精霊の性格ってば≫

「ばっちゃま、習う、一緒した~」


 ああ、ソウデスカ……。ご機嫌なお返事ありがとう。余計なことを学習しちゃってぇ! 獣人さんたちも、そんなフーちゃんを見てクスクスしてるね。


「男子はいつまでたっても子供なので、睾丸殴打しても問題ないのであります」


 クルンと丸まった尻尾を振りながら、ルァッコルォもGOサインだし。

 異世界女子、みんなカワイイのになんでみんなバイオレンスなのさ。カワイイは正義に当てはめるとカワイイ=正義=暴力。つまりバイオレンスは正義になっちゃうよ。但し書きにはカワイイに限るが付くけど。

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次回≪MISSION:62 汚染≫に、ヘッドオン!

※揚げ肉まん

絶対美味しいよなーって思って書いたんですけど、ググったらありました。商品としてはそんなになかったけど、クックのPADとかに。

揚げ肉まんの胡麻団子、ヤマザキパンとか作ってくんないかなあ

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