MISSION:05 無垢なエルフにイタズラを
初めての異世界の街。色々見て回りたかったんだけど……。
「到着する、した!」
街中で高速ホバー移動するフーちゃんに抱きかかえられ、あっという間にホテル前。人ゴミもなんのその。すり抜けるように
すり抜けたあと、子供達はうつ伏せになってビックンビックンしていたので、容赦のないフーちゃんのアレがソコをナニしたのだろう。
≪スリ?≫
「違う。ご飯、急ぐする。チョッカイ、邪魔」
ヒドイ。優しさのカケラもない。
「殴打、弱い、した。平気」
≪ヤメタゲテェッ! 弱点だから!≫
「弱点、攻めるする。基本、守るする」
エグイ。戦闘の基本だからってさあ、カワイイ女の子と遊びたい系男子の睾丸を
それにしても、割と移動速度が速いのにフードって脱げないもんなんだなあ。
「お帰りなさいませ。スー様」
そして心はすでに、お食事タイムのフーちゃん。僕の紹介もそこそこに、食事は部屋に持ってくるよう伝えている。凄く一生懸命で、その姿はとても撫でまくりたくなるような様相を呈しておりますぞ。しかし現在の僕は抱っこされてバブみプレイ中の身。ナデナデすると滑稽でしょうな。
「お肉パーティ、願う。鳥肉、スパイシー、願うする」
≪骨付きモモ肉の、スパイシーチキンが食べたいみたいです。こんな感じの≫
温野菜サラダやマッシュポテト、キンキンに冷えたビールも添えてメッセージウィンドウに表示した。
僕に通訳を頼まない──フーちゃん、謎の矜持。でも彼女の願いとは違うものが出されてもガッカリするだろうし、一応ね。
あと大人的にスゴク情けないんだけど、僕は無一文なのでフーちゃんに頼むしかない。ック、大人だというのに。異世界ご飯も気になるんだよー。
≪ビール……エール? は、僕が飲みます。対価は労働で返すから、お願いね。フーちゃん≫
「かしこまりました。肉のパーティということですが、鳥肉以外もご用意したほうがよろしいでしょうか?」
「頼む、する」
「ではお飲み物を先にお持ちいたしますので、客室にてお寛ぎください」
「分かるした。ポーちゃん、行くする」
よろしくお願いしますと頭を下げ……たつもりでポニュってなった。バランスボールに体重をかけたみたいな感じで。ビックリした時とか、ひょっとしてビョーンて伸びてたのかもしれない。
『みょ~んってなー、なってたべ』
なってたかあ。なぜか少し恥ずかしい僕であった。まる。そしてミョ~ンを実感した。
≪部屋が高級な感じだ……フーちゃんってばお金持ち?≫
「お金、持つない。必要ない、する」
でっかいホテルだなと思ってたけど、やっぱり高級ホテル的なところっぽい。さらにそんなホテルで、いい部屋に宿泊しているのにノーマネー。
ミョ~ンなる、した。いやいや、えっ?
高級ホテルに無銭宿泊とかレベル高すぎると思う。凄いダメなヤツだよね、ソレ。必要ないとか、そんなのありえないでしょうに。フーちゃんにどういうことなのか聞こうとしたら、飲み物が到着した。
「美味、あるする」
いやいや、ないない。ないアルヨ。なんで当然のように受け取って飲んでるの、この子は!
≪あの! フーちゃん、お金持ってないとか言ってるんですけど対価は労働で、労働で払わせてください。僕が身売りしてもいいです。力込めるとホラ、キンピカになれますので≫
「大丈夫ですよ。森の方々の生活費は国より保障されていますので」
そう説明してくれた女性は、メイドさん……ではなかった。少し残念。
そんな彼女はピンポイントに白や青で飾り付けられた、濃紺を基調としている清潔で爽やかな感じの制服を着ている。アテンダント──いわゆる接客係ってヤツですな? デキル女ですな?
フーちゃんは薄茶色のダル~ンとしたフード付きのローブだから、並んでると変な感じがする。従者と主人が入れ替わってるみたいというか。
彼女の名誉のために言っとくけど、ローブには民族衣装っぽいキレイな模様が入ってるからボロってわけではないのです。
「ばっちゃま達、ガンバルした。私、働くする。問題ない」
「そういった理由もありまして、お支払いに関して問題はございません」
≪は~、凄いんだねえ。国から保障て、どんなダヨー≫
「まさに生ける伝説でございます」
「森、伝説、名前受ける、した。ばっちゃまスゴイ。私、なるする! コロコロ!」
≪イミガワカラナイヨ……コロコロ? 可愛いね?≫
『コロロの森のコロコロスーは森に伝わる初代様の伝説なんだべ! ばっちゃまが二代目なん。だから三代目はオラが目指してるんだべさ!!』
≪……可愛くなかった≫
コロコロスーて。
僕は確信した。日本人のイタズラを。
誰だ! エルフに余計なコト教え込んだヤツは。
巡り巡って元日本人の僕がポヨポヨになっちゃったよ。
エルフの伝説はダジャレでできている。
無垢なエルフにイタズラを。とかタイトルが浮かんだ。
それはダメなヤツだ。
大人的に。
無垢なエルフにイタズラする薄々絵本大人用が、脳内を駆け巡っている間に、フーちゃんはお肉パーティがいつ頃開催されるのかを聞いたみたい。その結果、しょんぼりと肩を落としていた。
多種多様な肉の競演。それは当然、時間が掛かることだったらしい。
「湯浴みされてはいかがですか?」
「うん……する」
そう言ったフーちゃんは、服を脱ぎ散らかし始めた。
マテマテぇい! 僕は急いで「!!」をポップアップさせて、フーちゃんを止める。
≪行儀が悪いよ、フーちゃん。ちゃんと脱衣所で脱ぎなさい。大体男の前で裸になっちゃダメでしょうが≫
「ポーちゃん、男?」
≪男≫
「んっふ」
きょとーんとした顔で僕を見たあと、鼻で笑うフーちゃん。いそいそとローブを身に付けて部屋から出て行った。
「スライムに雌雄があるのですか?」
≪スライムがどうかは僕には分からないんですけど、僕は元々異世──≫
「ただいま。並ぶ、する」
戻ってきたフーちゃんが、連れて来た男の従業員をフーちゃん係りの女性の隣に並ばせる。そして指を差しながら僕に教えてくれたんだ。
「男、女、○」
≪ン? まる? なに?≫
もう一度教えてくれた。
「男、女、○」
≪まる……≫
どうやら僕はまるっていう性別らしい。そしてブルブル震えていた男性従業員が決壊した。
「っごふぁあェヒヒっくく、も、も、しわけごじゃましぇぬゥふふふははは」
「失礼ですょ」
「ぉひひひひしゅみまははは、っく、せんんンヌふふ」
「ポー様、スー様、申し訳ございまッスん」
どこにツボがあるのかは分からないけど、異世界人にとって男、女、まる、は耐えがたいものらしい。アテンダントの女性もプルプルしている。耐える女性ってウツクシイネ。
≪まさかのまるでした。男、女、まる。まるなんて性別は初体験なので不思議な気分。まる、とかあるんだなあ≫
だからちょっと煽ってみた。
「まるッ……は、性べちゅに…………ひッフ、ぁりましぇん…………ッ」
決壊が近そうだ。かくいう僕も、なんだかオカシクなって笑ってしまった。
僕もプルップルしている。スライムが笑うとプルプルするんだなあ……とか思っていると、満足気に頷いたフーちゃんが男性従業員を部屋から追い出した。
そして服を脱ぎ散らかして、風呂場に向かった。
エルフ、なんて自由な生き物なんだ。フリーダムフーちゃん、する。
一応、男の前では脱ぎ散らかさないから、羞恥の心は所持している様子。
そんなことを考えていると、笑いを堪えながらピースピィッスと鼻を鳴らしていた、デキル女の仮面がはがれたアテンダントさんも落ち着いたようで。
「それでは失礼いたします。なにか御用がありましたらお呼びください」
≪僕にそんな丁寧に話す必要はないですよ。人型ならまだしも、お饅頭型スライムですし≫
しかし彼女は「かしこまりました」と、そう言って出て行った。
かしこまるなって言ってんのにね。
かしこまられちゃうのかー。
ってことは、もしかしてこの世界のスライムは強キャラなのかね。物理無効系で装備も破損させちゃう系の。
ま、とりあえず実験を開始しようか。
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次回≪MISSION:06 マニューバ≫に、ヘッドオン!
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