MISSION:04 愚者の黄金

 スチャ。ポチャ。

 そんな足音を鳴らして街の入り口に下り立ったエルフとスライム。

 そして驚きの声を上げる人達。

 空から女の子が降って来たんだ。当然の反応だろう。


「オゴッ」「ホガッ」「ギフッ」


 僕だって見る立場だったら、ニヤニヤしながら親方を呼んじゃう。日本人であるならば、目の前に女の子が急に降って来たら、物語りの始まりを連想しちゃうよね。


 だってそんな女の子は飛ぶ石持ってたり、夢のノート持ってたり、女神様だったりするんだから。

 僕の場合はニチアサタイムだーって喜んだら、フーちゃんに殺されかけたんだけども。


「オゴオゴッ」「ホガガガッ」「ギフギギッ」


 ホントこの幼女、容赦しない。


「死ぬ、する、悪ないある、する。睾丸、殴打する」

「ホゴッホゴッ助ホゴッホゴッホゴッ」

≪えっと……つまり?≫

「オギッオギッオギッ許オギッオギッ」

『ただのチンピラだもんでさ、睾丸殴打する程度でいいんだべ。死ぬほどじゃないべさ~』

「フグッ勘フグッフグッフグッフグッ」


 現れた僕を速攻で奪おうとするテンプレチンピラーたちは、フーちゃんによる精霊の導きで、男子の黄金を殴打され続けるハメになった模様。デベシッデベシッと殴打するたび、ビックンビックンするのが面白いらしく、精霊は喜んで殴打してるって彼女は説明してくれた。


 しかめっ面の共通語とは違って、エルフ語で話すフーちゃんはニッコリしているのでカワイイ。内容はヒドイんだけどさ。

 なんでも精霊には世界に対する悪意みたいなのを嗅ぎ取るらしく、その強弱で殺処分するかどうかの判断をしてるみたいだ。


≪自業自得とはいえ、その苦しみは分かるつもりです。一応、悪の気配がなければ睾丸の殴打はしないそうなので──清く正しく真面目に生きてください。では≫


 えっ!? 飽きるまで憑いてるって!?!? それはそれはご愁傷様です。


 チンピラのキンタマが殴打されている間に衛兵が来たので、僕が事情を説明して彼等を引き取ってもらった。子エルフによる「商業都市南門前 連続睾丸殴打事件」は順番待ちをしている人達にとって、いい暇つぶしだったらしく朗らかな表情を浮かべている。中にはフーちゃんに礼を言いつつ、僕をナデナデする人もいた。僕はモンスターなのにね。会話が成立すると脅威を感じないのかなあ。


 しかし言語を理解するスライムは、チンピラホイホイなんだなぁと改めて認識する。あまり会話をしないほうがいいのかな? そう思いはするものの……気にすることもないかと結論付ける。盗まれてもね。フーちゃんの側に僕がちょこっと残っていれば増えるしね。


 むしろ積極的身売り作戦を実行すべきなのではないか、とさえ思えてくるぞ? 色んな所に分散すれば、それだけ情報を手に入れられるだろうし。まあ分裂した時に僕同士で、どれくらい意思の疎通が可能かは試してみないと分からないんだけど。今みたいに腕輪の僕と本体が近い時は特に問題はない。


 あとでフーちゃんと相談しよう。僕の残機が20%まで減った時の飢餓感は、かなり辛いものだったのだから。10%とかになると……人でもなんでもいいから喰ってしまう可能性だって考慮しないといけない。

 一方その頃──


『ってぇことなん。だがらぁチョッカイ出されなくなるって、ばっちゃまが教えてくれたんだぁ。そんでな? そんでな? パコパコパーティの睾丸は懲らしめるために殴打してもいいんだべ!』

≪へー……そう……≫

『パコパコパーティってなんだべさ?』

≪チンピラみたいなものじゃない?≫


 ──腕輪の僕は「睾丸殴打による効果」とやらをフーちゃんから聞かされていた。パコパコパーティはハーレム野郎なんじゃないかと思うよ。

 っていうか、真面目なこと考えてんのに、睾丸睾丸と熱弁しないで欲しい。まったく、なにを教えてんだよ……お婆さんは。


 お婆さん、か。

 乳房が柔らかくてスベスベで、おっきくてポヨポヨしているお婆さん。

 孫へ睾丸の殴打について語るお婆さん。


 お婆さんの真実がまた1つ明らかに。お陰で僕の中のお婆さんのイメージが萌え系巨乳エルフから、アメコミ風の濃ゆいエルフになってしまった。「ファック!」て言いながらチンピラのキンタマを攻撃してそうな、そんなエルフ。


 残念です。


 ところでさ、チンピラのキンタマとか連続でチンピラキンタマ考えてるとさ、なんだか「きんぴら」を思い浮かべちゃうよね。僕、レンコンのきんぴらが好き。

 いや、だからどうしたって言われると困るんだけど。

 そうこうしている内に、やっと僕達の番になる。はー、結構な待ち時間だった。


「お待たせしました。伝令は如何いかが致しましょう?」

「不要。明日、行くする」

「はっ! ではスライムの従魔登録をお願いします」

「ん。ポーちゃん、こっち」

≪冒険者ギルド的な所で登録するんじゃないんだね≫

「私、冒険者、ないするー」


 衛兵の詰め所に向かう。入り口で登録するんだな。てか、フーちゃんってばお偉いさんっぽい。チンピラを連れてった兵士が敬礼してたのは、睾丸について熱く語っていた彼女に対してのものだったということか。ちょっとビックリ。


 いや、エルフ自体がスンゴイ強いっぽいし、影響力があっても……おかしくはないのかな。


「賢いのですね。特殊個体ですか」

≪元は別世界の人間ですから≫

稀人まれびとですか!?」

『稀人なんね!?』

≪なんでフーちゃんがビックリしてんのよ? 異世界人だって何回か伝えたでしょ。あ、単語が分かんなかったのか。『そったら稀人だったら解ったんけ?』≫

『そったら解った。惜しかったべー』


 えー!? スゴイ! ホント? 異世界人なの!?!? ってチヤホヤされたい気持ちが、少しもなかったとは……言えないかな。チョットくらい反応が欲しかったんだ。

 フーンて流されたのは寂しかったのだから。惜しかったさー。


 稀人とか言われてもね。

 思いつかないよ。

 普通は。


「それにしても言語が堪能なのですね。森の方々の言葉も理解しておられる」

「ポーちゃん、賢い」

≪そういえば、なぜ理解しているのか分かりません≫

「ポーちゃん、賢い、ない?」


 今更ながら謎だなあ。一番可能性があるのはレイス時代かも? あれだけ暴れて消耗がなかったのは、他のレイスに対してドレインしていた……とか。存在そのものを取り込んでいた……とか? ゲームならレベルをチューチュー吸われたけど、経験値を吸われるってのは知識やなんかも、ってことなんだろうか?


 うーん。ゲームじゃないし、そこまで可能なんだろうか。可能だと仮定するならば、エルフ語が解るのはエルフのレイスをドレインしていたことになっちゃう。


 ということは、だよ? あの団体がエルフの魂を隷属化していたってことだよね。司祭と呼ばれてたクソジイが喚いていたし。だけど強キャラのエルフをどうこうできる団体なのか? そんな疑問も出る。

 あ、いや、エルフ語が解る人間のほうが可能性は高いか。


≪エルフが負けるの、想像できないなあ。やっぱり翻訳家かもね≫

「不覚、取る、可能性ある」

「そうですね……ユッグベインはどこにでもいますから。ですが言語学者を攫った可能性のほうが高いかと」


 並列実行できる身体って便利だなあ。

 思考する僕。従魔登録を受ける僕。メッセージウィンドウの僕は考えをまとめて表示したりもしてる。ユッグベインってのはあの連中のことらしい。


≪そういえば特殊個体で思い出したけど、僕のことを人造カテゴリーオーバーだって言ってた。なんなの?≫


 カテゴリーオーバー。語感からなんとなく分かるけど、一応聞いておく。


「なんと!? ヤツ等はそのようなことまで……」

「ばっちゃま、カテゴリーオーバー。ポーちゃんスゴイ」

「カテゴリーオーバーとは言葉どおり。種の範疇から逸脱した存在なのです」

≪あー。やっぱり、そういう感じですか。魔改造スライムになってしまった≫


 そしてフーちゃんのお婆さんのイメージは、僕の中で巨人化しました。メデタシメデタシ。


 いったいどんな人物なんだろうか。僕の想像を上回る、予想GUYガイや奇想天GUYな、お婆ちゃんなのに、お爺ちゃんの可能性も考慮しよう。

 ないか。

 そんな冗談を伝えたら、フーちゃんはキャッキャと笑いながら教えてくれた。


『じっちゃまは木になったんだべさ~』


 僕にどうしろと。え? ソコ笑うトコ!? エルフジョーク!?!?


「ご飯、食べるする。ポーちゃん、急ぐする」


 真剣な表情で、フーちゃんがそう語った。重要度はご飯のほうが上っぽいので、頭の中で木霊する「じっちゃまは木になったんだべさ~ったんだべさ~べさ~」はエルフジョークなのだと、僕は結論付けた。

 だってお爺ちゃんがお星様になった的なヤツだったらアレだもんね?


「お疲れさまでした。登録証はこちらになります」

≪あ、ポヨポヨポーになってる……ジアッロ・ミダースのほうがカッコイイのに≫

「ダメ、する『ポーちゃんのほうがカワイイんだべ!』」

「見た目で判断するならば、ポー殿、さん……ポーちゃんが一番合っておられますよ。しかし、目印の着用に難がありますね」


 確かに。犬や猫型なら首輪で事足りるからなあ。スライムだったら、なにがいいんだろう。そう考えるものの、有名な漫画家さんがキャラデザした、有名なJRPGに出てくる、あのスライム達が僕の頭の中を支配してしまう。


 なので饅頭として考えてみた。基本、饅頭型だしね。僕の身体はスケスケじゃないし、動かなかったらマンゴー饅頭だよ。子犬サイズだけど。

 でも焼印しか思いつかなかった。


「バンダナ、包むする?」

≪回転移動ができないから移動速度が遅くなるよ?≫

「分裂も、なさるのでしょう?」

≪やっぱり焼印みたいに、表面へなにか描くよ≫


 なにを描くか。フーちゃんしかないね。

 そんな訳でデザインを考えよう。彼女はエルフだし、イメージ的には月桂冠が似合うだろう、ということで──フーちゃんが硬貨になったよ! そんな感じで冠の輪の中にフーちゃんの横顔と名前を描き込んで、か~んせーい。


「私?」

≪あなた≫

「似てますな」


 横顔なら情報量が少ないから描きやすいんだろうけど……なんか絵がスゴイ上手になってる? スパチキ描いたときも上手く描けたし、言語だけじゃなくて絵描きさんの技術までもらっているみたい。

 託してくれた力、有効利用させていただきまっす。


≪これならフーちゃんのって分かるんじゃない? 自分で描けるし消耗しないよ≫

「そう……ですね。大丈夫かと」

「ご飯、食べるする。ポーちゃん、急ぐする。お肉パーティする。鳥肉パーティする。急ぐする!」


 どんだけ肉、食いたいんだ……。急ぐするがカブッテルヨ?

 そんな風にフーちゃんに急かされ、僕は夕日に照らされる街に入った。

--------------------------------------------------------------------------

次回≪MISSION:05 無垢なエルフにイタズラを≫に、ヘッドオン!

※使わないかもしれない設定

『じっちゃまは木になったんだべさ~』

エルフは年老いて人生に疲れると木になる。

迷いの森が形成される理由はコレ。


愚者の黄金

 黄鉄鉱ネタ

 英名のパイライトのパイから、フーちゃんがおっぱい好きという設定は採用に。

 パイライトのライトからヒロインは貧乳に(ヘビー級とかライト級的な)

 ウム。真理。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る