MISSION:03 ブレイカー
「だっこする?」
≪そんな辱めは御免です≫
小型犬くらいのサイズだから可能と言えば可能なんだろうけどさ。恥ずかしいじゃないか。うーん、どうしたものか。やっぱりなんとかして歩けるようになるしかない?
力を込めて犬っぽくなってみよう。いきなり二足歩行は難しそうだ。
「金ぴか、なるした! あ、四角……。丸! 丸、なるする!」
≪あれ? ホントだ。力込めると金になるのか。そしてサイコロ状が落ち着くっていう謎機能付き≫
なんか冒険者に狙われて売り物になりそうなボディだな。力を込めるのは人前でやらないほうがいいかもしれない。そんなことをフーちゃんに伝えると、私が守るから大丈夫とエッヘンされた。真っ直ぐカワイイ。
そしてなによりも、まぁるいほうが好きらしい。だから六面ダイスはダメなんだってさ。
『ポーちゃんは悪人吸引材。はかどるべー』
≪はかどられちゃうのかあ≫
殺しに対して、なんとも思ってない様子。ゴキブリキャッチャーみたいに言われてしまった。楽ちんだーみたいな顔をしてるよ。まあ……僕もそうなっちゃってるっぽいんだけどさ。お化け状態を経由したからなのか、魔物になったからなのかは、分かんないんだけども。
ただまあ、これからはフーちゃんと行動を共にするんだし、殺したり殺されたりが平気なほうがいいよね。いちいちショックを受けてたら僕はともかく、フーちゃんを危険に晒してしまう可能性だってあるからさ。
いや、ないか。危険な状態になったら僕を巻き込んでの、ボカーン的可能性を考慮したほうが……?
ところで、こんな風に会話したり考えたりしながら、移動手段もちゃんと考えている僕の脳はどうなっているしょーか?
それではお考えください。シンキンターィムシンキンターィム、チーンチーン、シンキンターィム。でぇでん! などとクイズ番組のBGMを脳内に流す。
≪脳ってあるのかな?回答:なんか同時に色々できるボディを手に入れた≫
『なに言ってるんだあ?』
≪失礼、混ざりました。えーっとね、うん。なんか僕って1体に見えるけど、ものスッゴイ量の僕が集まってる生き物みたいなんだ。群体生物といえばいいのかな? 100とか1000とかに分裂しても、それぞれが全部僕≫
思考なんかも、ほぼ同じっぽい。ほぼ、っていうのは──真ん中にフーちゃんを置いて、両脇に僕が並ぶ。そしてフーちゃんを見るとしたら、同時に右を向いて見る僕と、左を向いて見る僕がいる程度の思考の差。だけど役割を分担すれば、それぞれの僕が、僕の思考で行動を取れる。
つまり、すでに移動手段の改善策がある! ということなのです。
イメージ的に外側から一層目が、がっちりスクラム組んで直立。二層目はギアみたいになって、ソイツらへバケツリレーのように運動を加える。中心の三層目はギア比によってトルクやスピードをコントロールして二層目に力を伝える。
お饅頭型無限起動車両。それが僕の答えだ!
いや、戦車の中身は知らないから僕の表面をキャタピラみたいにして、移動速度を上げようってだけの話。ただ転がるよりは走破力が高いかなって。
なーんにもなくなった部屋を走り回りながら、高らかに叫ぶ気持ちで文字を表示させた。2個になったままなので、フーちゃんも文字を見ながら走る僕の様を問題なく確認している。
≪刮目せよ! これが地球力だ!≫
「速い、なるした。それ、
良いこと頂きました。外見もさることながら話し方もカワイイ。
これがCGDCT、可愛い女の子が可愛いことしてるってヤツなんだな。心が洗われる思いだよ。
前前世の僕は大人絡みのやらしいコトしてる的なモノを求めて、夏と冬に某所を徘徊してる人間だったし。
ちなみに文字はメッセージウィンドウをへっこませることで陰影を付け、読みやすくしております。サブカルチャーの技術と沢山の僕、という特性を生かした一品でございます。
スルーされた地球力のことは気にするまい。
◆
移動する段階になって、話しながらの移動ができないという事実に直面した。フーちゃんに見てもらわないといけないし。とはいえ、複数の僕が存在する時点で大した問題もなく、幅が広い腕輪型になった僕を装着してもらうことで解決。僕から話しかけたい時は「!」をポップアップさせれば気付いてくれるだろう。
そして外に出た僕は見る。フーちゃんの力の一端を。
パチンと一回。フィンガースナップを地面に向けて鳴らし、彼女の可愛らしいお口から紡がれる簡単な言葉。
『
地下にある秘密結社の秘密基地が、あっさり崩壊する光景を僕は見る。
エルフがおっそろしい力を持っているのか、フーちゃんが特別におっそろしい力を持っているのか。それは今の僕が判断できることじゃあ……ないけども。
この幼女が、このおっとろしい力を容赦なく使うことは間違いのない事実だ。
体験もしたし。
思いのままに撫でさせたのは正解だったかもしれない。お婆ちゃんのおっぱいを連想されたのは予想外だったけど、一気に懐かれたからね。対応を間違えていたら、あっという間に残機0になっていたんじゃないかと思う。
クシャッてなったんだよ。地面が。
三階建ての校舎が何個かあって、野球とサッカーが同時にできそうな校庭があって、バレーとバスケとバドミントンが同時にできそうな体育館のある学校。それが丸々入りそうなアリ地獄の巣が……クシャッて、簡単な感じで、できたんだよ。
あんな簡単な言葉で。
こわぁ……。
「ンフフ、喜ぶ、してる。カワイイ、なるする」
≪ン? なにが?≫
「精霊」
≪精霊がキャッキャしながら地面をクシャッってしたの?≫
そう聞いた僕に、ニッコリしながらフーちゃんは頷いた。なんでも、まぁ~るくてカワイイんだそうだ。
そっか。精霊も丸くてカワイイのか。
ただ、くっちゃくちゃになっちゃってるけどね。
森が。
僕は空の上からそんな光景を見た。フーちゃんに抱っこされるという辱めを受けながら。
なんでもアリだな~、この子。
人を一瞬で爆発させたり、人をチュンって一瞬で燃やしたり、km単位の基地をあっという間にクシャッたり。
移動はホバーだし、空飛ぶし。
110年の学習は伊達じゃないんだな。
ストレスの発散じゃないことを祈ろう……。
≪なんか……エルフって森を大切にするイメージだったんだけど、そうでもないとか?≫
「バランス、守るする」
≪森が……ハゲちゃったね≫
「ダイジョブ」
森のど真ん中にポッカリ空いたハゲ部分。そこにはバランスのカケラは見当たらないし、大丈夫な根拠も全然なかった。
悪を倒せば万事解決とか思っているのかもしれない。
エルフ、なんて大雑把な種族なんだ。
「ご飯、待つしてる。急ぐする」
ウキウキした様子を見せながら、フーちゃんは移動を開始する。僕も彼女と行動を共にするので付いて行く。
と、言いたいところなんだけど、なんと屈辱の抱っこ移動。しかも赤ちゃんを、あやすように揺すられながらだった。「!!」をポップアップさせて、ただちに赤ちゃんプレイの修正をしてもらおう。僕はバブみを感じて興奮するタイプの性癖ではないのだから。
ないのだから!
≪フーちゃんや。僕は赤ちゃんでも、子スライムでもないよ? あやされる歳じゃないんだけど≫
「ポーちゃん、何歳?」
≪23≫
「それ、
≪人間だと大人だよ≫
「ポーちゃん、スライム」
≪いや、スライムになっちゃったけど、元は人間なんだってば。しかも異世界人だよ? レアリティ高いよ? きっと!≫
「ふーん」
≪フーンて……≫
聞きゃしねえよこの子。
そして心はすでにご飯に捕らわれている様子。料理の名称をアレコレと口にしている。日の高さ的に晩ご飯かな。
「今日、お肉気分。ポーちゃん、お肉好き?」
≪うん。まあ好きだけど?≫
「今日、お肉パーティする。
野菜しか食べなさそうな雰囲気を纏ってるというのにィ!
「鳥肉、一番。美味、あるする」
≪あ、ソレ分かる。皮がパリっとしてて、噛んだ瞬間にプリッて。そしてフワ~っと肉汁が口の中に広がってさー。そしてビールをグビグビいく。美味しいよね≫
「い、急ぐ、する」
骨付きモモ肉のスパイシーチキン。そんな絵をメッセージウィンドウに描いてあげた。規則ただしく凹ませ、影を使ってスクリーントーンの表現までしちゃうのだ。だから絵に濃淡も付いてるよ。結構上手に描けたけど、僕が黄色一色なので微妙なできかもしれない。
でもフーちゃんは急いで食べたくなったらしい。
そんな彼女は飛行速度を上げる。眼下を流れる森の景色見れば、かなりの速度が出てるのが分かるんだけど、魔法を使って空気の膜みたいなモノを作っているのか風を感じない。
しかも立った状態で飛んでるんだよね。
普通はさ、うつ伏せで進行方向に顔を向けて飛ぶじゃん? いや……普通は飛ばないんだけど、スーパーとかウルトラとかZのファイターとか見てる地球人だったらさ、飛び方ってあるじゃん。頭の中にさ。なんで? なんでそういうコトすんのさ、この世界のエルフは!
フーちゃんだけが、変てこりんなエルフでありますように。
およそ5分後──涅槃のポーズになり、身体の正面に向かって飛行する姿を見た僕は、心からそう願ったんだ。
このイメージブレイカーめェ。
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次回≪MISSION:04 愚者の黄金≫に、ヘッドオン!
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