MISSION:02 ポヨヨの森のポヨポヨポー

「殺すする、来た。悪、死ぬ、する」

「ええぃ、忌々しい。森で樹液でもすすっておれ。虫が言葉を口にするでないわ!」


 スーちゃんが外見に似合わない、辛らつな言葉を発している。これからはスーちゃんさんと呼んだほうがいいのかもしれないな。

 司祭も司祭で、酷く口が悪いなあ。聖職者とは思えないよ。悪霊的なレイスを閉じ込めてるんだから、もしかしたら正義の団体っていう可能性もあった。


 けど……スーちゃんさんが言うように、やっぱり悪の秘密結社みたいな団体なんだろう。


 悪の秘密結社に魔改造された僕。日本人なら当然思い出す。あの変身ヒーローのことを!

 姿形はスライムらしく饅頭型のプヨプヨしたモノで、ヒーローみたいにかっこよくキックはできないけれど、立場的には一緒だ。

 モンスターになっちゃったけど、三週目の人生。カッコイイ生き様を目指したい。


「ジアッロ・ミダースよ、やれ!」


 だからアンタたちに協力する気は一切ないよ。

 僕を見て指示を出す司祭は目が赤黒く血走っていて、この老人の壊れ具合を表しているようだ。おじいちゃん、怖いですよ? そもそも世界を喰らえとか幼女をやれだとか……そんなヒドイこと、するわけないでしょうに。


 うーん、でもどうやって伝えよう。とか思ってたら、なんとなく伝わったらしい。僕が入っているカプセルに、繋がっている装置を見ていた人が叫んだんだ。


「反応……拒絶!? 従いません!」

「馬鹿なっ! 全て隷属化した魂のはずであろうに!」

「信号らしきものを発していますが不明です!」

「死して、なお役に立たぬのか。スラムのゴミ共めが」


 そんな反応が返ってくる。さっき言ってたNo1500云々って人の数……ということなのだろうか?

 えっ? ナニソレ、ロクでもないぞ、この団体。


『敵を前に暢気に喋るなんて、バカなんだべなー』

「おのれ! ならボヒュ──」


 そして全員の頭が爆散した。ジジイ司祭も、他の構成員も。

 そして僕も半分くらい死んだ。カプセルごと弾け飛んで。

 えっ!? 待って待って! えっ!?!?


『あんれぇ? 死んでないべ、この黄色いスライム。見たことない色だし、やっぱり特殊個体で頑丈なんだべさ。そったら燃やすかあ』


 ファッ!?!?!?!?

 えええっ!? 待って待って、僕が半分死んだとか意味分かんない!

 待って待って待って待って、燃ッ!? チョ、待、意思、伝え早く殺ッ!?!?


『煌めく怒りの王』


 ヒィ、も、燃えギャアアアアア死ぬ死ぬ死んでる死んじゃう! ウッ! あっ!?

 なんか耐え難いほどの飢餓感と、美味しい匂いが僕を包み込む。そう思った時には、すでに美味しいモノを身体へと取り込んでいた。


 寒い冬に湯船へ「あ゛あ゛あ゛」って言いながら入る美味しさ。身体もシュワシュワ弾ける感じがする。


『なんだべ? せっかくちっちゃくなったのに、またおっきくなってるじゃねっか。えいっ! えいっ!!』


 ……僕もちょっと意味が分かんない。湯船に入る美味しさ、とかホント意味分かんない。


 しかも8割近く死んだけど、スーちゃんさんが飛ばして来る、光球魔法の中にある美味しいのを食べたら元の6割くらいまで回復……というか、僕が増えた。


 そしてその美味しいなにかがなくなると、光が消える。ということは、それが魔力的なモノなのか。で、それを食べると僕が増える。

 弾ける感じが増える前兆っぽい。


 残機制かあ……。さらに気付いたことがある。レイスを経由してスライムになったせいなのかは分からないけど、すぐ冷静になれる? もしくは、増えるときにリフレッシュしてる? そんな気がするんだ。スゴイ死んだのだけども。


 5点で1UPぐらいの勢いだからかなあ?

 1UPに1万とか5万とか10万点とか不要っぽいよ。


 ニジニジ移動しながら、えいっえいっと魔法を放つスーちゃんの攻撃を喰らいつつも、コミュニケーションの方法を煮詰めていく。たぶんコレでイケるっ。はずっ。たぶんっ。頼むぅっ!


 僕の頭上に「!」をポップアップさせ、同時に僕が変形したメッセージウィンドウをスーちゃんに向ける。


『?』


 よし、イケる! 興味を持った彼女の意識が、僕の殺処分から外れた!

 スーちゃんが話す言語でウィンドウにメッセージを描き込む。


≪スーちゃん、スーちゃん、オラの言葉が読めるだか? オラ、元は人間だべ! 殺さないでくんろー!≫

『しゃ、喋れるんだか!? オラの言葉、分かってるんだべかあ。すっごいスライムなんだなあ!』

≪喋れん喋れん。だども筆談なら可能なんだべさ!≫


 た、助かった……。痛覚があったら残機0になって、たぶん死んでた。感情が戻ってたせいで焦りが半端なかったあ。

 まぁるいまぁるいと僕を撫でまくるスーちゃんと会話しながら、三週目の始まりを実感する。


 カッコイイ生き様はカケラもなかったけど。仕方ないか……丸いしね。プヨプヨしてるしね。スライムだもんね……。JRPGのスライムは雑魚だしね。


『まぁるいべー、ポヨポヨだべー、スベスベだんべ! ポーちゃんは可愛いんね!』

≪ポ、ポー……ちゃん?≫

『そうだべ! ポーちゃんはポヨヨの森のポヨポヨポーって名前にしたんだあ』

≪……スーちゃん、スーちゃん。ジ、ジアッロ・ミダースじゃないんだべか? そっちのほうがカッコイイだよ。オラ好みだよ?≫

『ダメだぁ!』

≪……えぇ…………≫


 ポヨヨの森のポヨポヨポーて……。エルフの名前、ちょっと変だぞ。そしてこの子はスーちゃんじゃなくフィアフィアちゃんだった。

 コロロの森町、スーさんちのフィアフィアちゃん。みたいなことらしい。だからスーちゃんという呼び方、言うなれば高橋ちゃんとか山田ちゃんみたいな、どこぞの古い時代のプロデューサーのような呼びかけだった模様。


 だから僕もポヨヨの森町に住む、ポー家のポヨポヨってことに……なってしまった。ポーちゃんという呼び名も、ポヨポヨの頭を取ってのポーなんだと思う。フーかフィーかフィアって呼んで欲しいと彼女も言っているし。


『ばっちゃまのおっぱいみたいだべぇ、えへへ~』


 僕に埋まるフーちゃん。


『2個になれねっか?』


 どこの世界でも、どんな人種でも、それは真理なのか。

 2個になった僕の間に顔を挟み、両サイドから圧力をかけてポヨポヨするフーちゃん。ニッコニコだ。しかし、間近で見ても整った顔立ち。エルフってのは美形揃いなんだろうなあ。


 言動は残念だけど。

 お婆ちゃんのおっぱいの魅力ばっか話してるんだよ。さっきから。


『──んで、ばっちゃまのおっぱいは柔らかくって、スベスベで、おっきくて、ポヨポヨしてるん。包まれると温かくって幸せになるんだべ~』

≪そのポジション、普通はおっかあだべさー≫

『おっかあは真っ直ぐなん!』

≪そ、そったらこと言うでねえ……≫


 この子、母親をサラっとディスりましたよ?

 真っ直ぐって……真っ直ぐか…………フーちゃんは育てるつもりらしく、胸をペチペチ叩いている。


『おっきくなぁれ、おっきくなぁれ、ぽよぽよぽ~ん!!』


 しかし幼女の胸は真っ直ぐである。ポヨポヨのカケラなんてものは、まだない。

 というか今思ったんだけど、フーちゃんのお婆さんて、お婆さんなのに……柔らかくてスベスベでおっきくてポヨポヨしてるのか。

 巨乳エルフとかいるんだ。へー。


 ロマンだべさ~。



≪じゃあ研究資料とか装置は、全部分解しちゃっていいんだね?≫

「頼む、する」


 共通語を練習したいから、ということでクソジジイとかが喋っていた言語で会話する。なんでも、エルフは大学院みたいな所を卒業すると各地を旅して、世界の守り手として活動するそうだ。小学校20年、中学校10年、高校10年、大学20年、大学院で50年と学習期間があるらしい。主に戦闘関連の。


 語学や人間社会の常識などは、基礎をさらっと学ぶ程度なんだとか。そのせいかフーちゃんは共通語で話す時、常にしかめっ面になっている。頭の中ではいっぱい考えてんだろうなーとか思うと、なんかカワイイ。


 とはいえ……エルフ、なんて意味不イミフな種族なんだ。完全に戦闘民族じゃないか。イメージと違う。


 しかし110年も学校に通ったら発狂しちゃうよなあ。フーちゃんは120歳だって言うし、10歳から通うのか。そこら辺は日本とあまり変わらないのか。だけど110年学校に通ってんのに子供っぽいと思い、聞いてみたら「子供、子供っぽい、当たり前」と回答を得た。子供っぽいのに……卒業したてで業務内容が殺しって……。


 エルフ、なんて恐ろしい種族なんだ。


「私、燃やすする。処理、簡単」

≪いいの?≫

「平気。仕事、大事」


 分かったと返事をし、死体の処理をフーちゃんにお願いした。幼女に死体の処理を任せるとか、ちょっとアレな気がするけど人間の死体を食べるのは無理です。なので任された作業を頑張る。


 フーちゃんと色々話して分かったことなんだけど、スライムのイメージ的に溶かして食べていると思っていたんだ。でもそうではなくて、対象を分解した時に発生するマナを食料にしているらしい。物体が融解している訳でもないし、魔法が消えたので絶対そうだとフーちゃんが言い張った。普通のスライムがどうなのかは、実験なんてしないので知らないってさ。


 あと、大体の物は分解したらマナになるからご飯に困らないっぽい。味の違いもある。ただ、塩味とか醤油味とかそんなのではなくて、公園味とか病院味とかそんな感じ。秘密結社の資料なんかは廃墟味だ。臭いの元を味として感じてるような、なんとも言いようのない味覚というか……悲しい感じ。


 から揚げ味とかハンバーグ味とか、もう無理なんだろうか。悲しすぎる。


「終わる、した?」

≪終わったよー≫

「外、出るする。ボカーンする」

≪了解≫


 ここで問題が。


「遅い、すぎる、する」

≪ゴメン。コレが限界速度だよ≫

「ポーちゃん、速い、動くする」


 ニジニジ動いてたら遅すぎたらしく、文句を言われる。ナメクジみたいな動き方だからねえ。かといって人型になれるわけでもなし。初めて合った時、手を振ったつもりで触手だったからなあ。身体のコントロールを磨かないと。


 エルフと触手。

 それはダメなヤツだ。

 大人的に。

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次回≪MISSION:03 ブレイカー≫に、ヘッドオン!


 エルフとスライム。

 それもダメなヤツだけど気付いてない。

 大人的に。

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