絶対に太りたくないOLの一人語り

高以耒 小都

第1話

毎日が戦いだ。定時終わりに急に誘われる会社の飲み会、友人との代官山でのお洒落なランチ、久々に帰った実家で振る舞われる母の手料理、仕事のストレスに耐えかねて帰路に買ってしまうアイスクリーム。絶えず脂肪を蓄積するイベントが舞い込む日々、どうしたら太らずにいられようか。摂取カロリーと消費カロリーの均衡が取れれば理論上太ることはないのだが、その単純なことが20代独身女性社会人の私にとってはこの上なく困難なことなのである。指先をキーボードの上でちまちまと動かすだけのデスクワークの所作で、積み重なっていく摂取カロリーを打ち消すことなんて不可能。ああ、太らずに体型を維持したまま、好きなものを罪悪感なく食べて生きていけたらどんなにいいかしら。現金1億円と、どれだけ食べても太らない体のどちらが欲しいかと神に問われたら、3日悩んで後者を選ぶくらいには何がなんでも太りたくない。頼むから、ふとした瞬間に二重顎になっている私を写真に残さないでくれ。


別に韓国アイドルのように綺麗に痩せてモデルになりたいだなんて高望みをしている訳ではない。身の程はわきまえて、ただ身長に相応しい標準体重をキープできればいい。何故そこまで太りたくないのか?第一。見栄えが良いに越したことはないから。細身であればどんな服でも着こなせるし、ナチュラルメイクでも一層可愛く仕上がる。見栄えが良ければ外に出て人と会うことに積極的になり、人生にも前向きになる。第二。心身共に健康でいられるから。脂肪を蓄えた体では何をするにもやる気が起きない。そもそも体が重いので機敏には動けない。怠惰な自分に嫌気が刺し、のっそり起き上がっても鏡に映る太った自分に萎える負のループの始まり。余分な脂肪は体から取り除いて、心も体も軽やかであるべきだ。


そんな私が全国太りたくないOLの皆様を代表して、各所にお伝えしておきたい。


太りたくないOLを娘に持つご両親の皆様。

久々に帰ってきた娘に美味しいものを食べさせたいと、お寿司の出前を頼み、有名なスイーツを取り寄せしてくれなくても大丈夫。お母さんが焼いた美味しい焼き魚とほうれん草のお浸し、具沢山味噌汁で十二分。日々の外食で疲れた胃を癒してくれる、美味しくてヘルシーな家庭の料理を欲しているのです。

私の独り暮らしの自宅から実家までは電車で90分ほど。GWやお盆、正月という社会人にとって至福のお休みWeekに突入する際は、両親と猫に会いに実家に足を運ぶ。大学生まで暮らしていた気のおけない実家とはいえ手ぶらで行くのも気が引けるので、三重県鳥羽市に旅行に行った際に感動した絶品チーズケーキや、百貨店の一階で見つけたおしゃれなチョコブラウニー等、毎度お土産を選んで持っていく。姉夫婦と帰省のタイミングが重なると、彼女らも凝った味のプリンや高級和菓子店の羊羹など立派な手土産を用意しているので、一時的に実家は糖質の宝庫となる。そもそも実家には、父が仕事の付き合いで頂いてくる焼き菓子の詰め合わせが、両親二人では食べきれずに待機している。それに加えて我々の帰省に合わせて取り寄せられた賞味期限が短い生クリーム大福が用意されていたらそれはもう。パーティーを開いて近所の人にも食べにきてもらったらいいのではないかと思うくらい。しかし美味しいものが目の前にあったら漏れなく味わいたいというのがOLの性。全種類しっかり美味しく頂いてしまう。そして帰宅後に重くなった体で恐る恐る体重計にのり、数字を覗き込んで深いため息。ほら言わんこっちゃないと落ち込むのがお決まりのルーティン。太らない体になれたらどれだけいいのに!!と思う瞬間第一位である。

自分の実家であれば半分こにしたり、持ち帰ったりができるからまだいい。これが義理の実家、旦那さんの家で同じ現象が起こったらどうか?こちらは張り切って東京の有名店のフルーツ大福を持っていくだろうし、ご家庭の料理や焼き菓子が振る舞われれば残すわけにはいかない。ニコニコしながら一生懸命食べ浚った結果、「小都さんはよく食べるのねえ」などとよく食べる嫁認定をされるのだ。これではまた来年も同じ量が出されてしまうではないか。。生憎おひとりさま生活の私にそんな機会はないのだが、最近結婚した友人が正に同じ状況で、義理の実家で一生懸命おせちを食べ浚ってきたと嘆いていた。正月から夫の実家でフードファイトしている友人を思うと涙ぐましいが、太りたくないOLこそ目の前に差し出された食べ物を食べることへの責任感が人一倍強いのだ。

私たち太りたくないOLのために、少し控えめに食事やスイーツを提供してほしいことを、全国のご両親、そして義理父様・義理母様にもお願いしたい。


太りたくないOLを部下に持つご上司の皆様。

ここは声を大にしてお伝えしておきたい。誰も手をつけない料理をOLに勧めるのはどうかご遠慮下さい。ウーロンハイでなんとか無駄なカロリーを摂取しないよう気をつけているOLに、脂質たっぷりのおつまみを食べさせるのは酷。全員で均等に分けるか、そもそも注文する量を減らしましょう。

私が勤める会社は業界柄かとにかく飲み会が多い。お客様への接待なら理解はできるが何故か社内だけでも週1、2の飲み会はザラにある。正直この頻度からなんとかしてほしいところだが、コロナ禍で希薄になったコミュニケーションの活発化を目的としたイベントだと理解して一旦目を瞑る。このご時世に無理に酒を勧められることはないのだが、いかんせんおじ様たちはおつまみに手をつけない。その体格ならもう少し食事をとった方がいいのでは?と心配になるがとにかくビール。ビール。ハイボール。ずっと酒を飲んでおつまみを食べない。しかし食事は若手が適当に頼むのがお決まりなので、一応人数分のお造り、だし巻き卵、しめの麺までバランスよくお食事が並べられる。店員さんがおかずを下げにくると「俺、もう食べないから食べていいよ」などと若手に勧めてくるのである。こうしておじ様たちが食べられなかった数々の料理が若手のお皿に盛られていく。こちらも酒を飲んで胃袋がばかになってしまっているので、「ありがとうございます。」と体育会さながらの勢いでガッツリ平らげてしまう。ここでも私たちOLは食べることへの責任感が強い。お金は上司に多く払って頂く手前、あからさまに残すわけにもいかないのだ。とにかく太りたくないOLほど律儀で礼節を重んじるのである。

ご上司の皆様、お仕事は一生懸命頑張りますから、どうか飲み会でOLに過剰に料理を勧めないで下さい。仲良く一緒に分け合いましょう。


太りたくないOLを彼女に持つ男性の皆様。

デートの外食にはヘルシーなお店も挟んでください。焼肉ランチにパンケーキカフェ、夜はイタリアンのコース、気合を入れ過ぎたプランニングではデートに行く度太ります。お気遣いは嬉しいけど、なぜか出てくる料理の量は、私より身長の高いあなたと同じなのです。体格差を考えたら、メニューに“彼女用サイズ“があってもいいのでは?と思うくらい。

私が彼と付き合った当初に沖縄旅行に出かけた時のこと。沖縄そば、タコライス、

アグー豚に紫芋ソフトクリーム。夏の旅行といえば右に出る場所はない、日本が誇るリゾート沖縄ではオーシャンビューだけでなく何種類もの名物料理を楽しむことができる。2泊の旅行では食べ尽くせないねと語らいながら、日々の仕事から解放され、最高の気分で燦々と照りつける沖縄の太陽を体いっぱいに浴びる。早起きしてダイビングに出かけ、お昼に沖縄名物タコライスを食してからドライブを楽しんでいた2日目の午後2時。「そういえば夜ご飯まで時間あるよね。ガイドブックに載ってたローカル店のステーキ、食べに行かない!?」と言い出す彼氏。おい、タコライスをお腹いっぱい食べた直後の私の胃にそんなスペース、、、ある。旅行だからという理由で不思議と食欲が湧いてくる。誘われてしまったら断る理由がないのだ。「いいね!ここから近いみたい、お店に電話してみる!」と答える私。ノリも手際もいいのが太りたくないOLなのである。

あなたに誘われたらおやつにステーキ店にも行きたくなるし、夜にアイスを食べたくなる。逆に体調を崩してお粥をちびちび口に運ぶあなたの前で、カツ丼を食らおうと思わない。一緒にいる人と、食事のペースは自然に合っていくのだと思う。

愛しい彼女やお嫁さんを持つ男性の皆様、食事量はほどほどに、ベースはヘルシーな和食を楽しみましょう。旅行や記念日で沢山食べる時は、おかわり又は大盛りのオーダーで彼女よりも多く食べることで、太りたくないOLの心を安心させてください。


そして最後に、太りたくないOLの皆様。

一日3食しっかり食べてください。炭水化物を無理に抜かないでください。基礎代謝以上のカロリーは摂取して、無理なダイエットをしないように。あなたを太らせてしまう各所には私からお願いしておいたので、安心して食事を楽しんでください。もちろん毎日ドーナツやショートケーキをご褒美に食べていたら流石に太っちゃうけど、たまのご褒美ならいいです。いつも頑張っているんだから。そして痩せたいなら少し気合を入れて動きましょう。外に出て太陽の光を浴びて、一駅分歩いてみる。朝起きてラジオ体操をしてみる。エスカレーターではなく階段を上る。週末にランニングをしてみる。一日5分の筋トレをしてみる。塵も積もれば山となるはず。健康的な食事と運動で体はすっきりするし、きっと心も晴れやかになる。とにかく太らないOLの皆さんには元気いっぱいでいてほしい。

太らないことばかり考えていられるほどOLも暇ではない。仕事でミスが重なる時、人間関係がうまくいかない時、何故か貯金が増えていかない時、恋愛でもやもやした気持ちになる時、友人の楽しげな生活と自分を比べてしまう時。忙しい毎日を消費していくOLには無限に悩みがあるものだ。将来への不安に押しつぶされそうになったら、辛い出来事に泣きたくなったら、一旦目を閉じて頭の中を空っぽにしてみてほしい。そしてバランスの取れた美味しい一食を食べることだけに集中してみてほしい。大丈夫、あなたを太らせてしまう各所には私から言っておいたから。その一食では太らないから。泣きながらご飯を食べてHPを蓄えて、育ち盛りの小中学生をも凌駕するフレッシュなパワーを取り戻してほしい。

太りたくないOLの皆様。一人で働いて、お金を稼いで、生きてるだけで百点満点だ。お姉さん、今日もかわいいよ!

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絶対に太りたくないOLの一人語り 高以耒 小都 @komachitakaira

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