第7話 服を買う
「っふ! ん! ……はぁ」
目が覚めると、なんだかとてもエロいと息が聞こえてくるのはいったいどうしてなんだ……。
俺はふすまを開けて部屋の中を覗いてみると、シズさんが腕立て伏せをしているのが見えた。
それにしても、金属のすれる音なんかがしないが、鎧がボロボロになっているからか?
邪魔していいのだろうか? まぁ、一応俺の家だしな……。
「お、おはようございま~す……」
昔懐かしの寝起きドッキリのような小さな声で襖を開きながら言った。
「……お、おはようございます」
シズさんがぎこちなく挨拶を返してくる。額や頬には玉のようないい汗を流していた。
「前の世界でも、朝からトレーニングを?」
「あぁ。騎士として、精進を怠らないのが大事だからな」
「なるほど……。そうだ、今日は有休をとることにしました」
「有休? それはなんだ?」
「まぁ、給料がもらえる休みですね。色々やらなくちゃいけないし、とりあえず家庭裁判だけでも有給の間に済ませておこうかと……。あと、服も買わないと」
そう告げると、シズさんは自分の服、というか鎧を嗅ぎ始めた。
「……気になったんですけど、鎧のあの金属のすれる音ないんですね」
「まぁ、これは金属でできていないからな」
「え、そうなんですか?」
「あぁ、今身に着けているのは、竜の皮と鱗でできた鎧だからな」
へぇ……。にしても金属っぽいなぁ……。
「なんでそんなに金属っぽいんですか?」
「まぁ、金属も多少は含まれているからな。加工をしてあるんだ」
「なるほど……。っと、そうじゃなくて……」
俺は早速しかるべき相談窓口に電話して、予約を済ませた。続いて会社に有休を使う旨を伝えた。
「……はい。すいません。はい!」
「……何度も謝って、プライドはないのか?」
「うわぁ⁉」
音もなく背後に来ていたので、ついつい驚き叫んでしまう。
「きゃ⁉ な、なななんだ貴様、急に大声を上げて……」
「いや、急に後ろに居られたらびっくりするでしょう……?」
「ふん、私の世界ではあの程度の接近を予測できなかったら、すでに一億回は死んでいたぞ!」
「なんでそんな馬鹿な数字なんですか! と、とにかく、色々やることあるんで早くいきますよ!」
俺はシズさんの手首をつかみ、まずは服屋へと向かった。
当然ながら、店の中でも店の外でも鎧っぽいものを着た女性がいると軽く騒ぎになってしまう。
やっぱり俺のシャツでも貸すべきだったかなぁ……。でもなぁ……。
「なんだ私の胸ばかり見て。やはり貴様欲情して⁉」
「ち、違います……。その、言い難いんですけど、下着とかしてないんですか?」
そう、先日からずっと思っていたのだ。胸が揺れすぎている気がする……と。
いや、もちろんぼろぼろではあるものの鎧を着ていてかなり抑えられているものの……。それにしてはという感じだ。
「下着? まぁ、普段はしているが、鎧を着る時にはしてないな」
「……なんでですか?」
「いや、下着の上に鎧を着ると変にこすれたり、蒸れがひどくなったりと、色々不便なのだ。気にしている隙を突かれて殺された女騎士がいると聞いたことがあります」
「そ、そうですか……。まぁ、それなら仕方ないですね……。じゃあ、下着も選んじゃってください」
……はぁ、色々大変だな。俺が高校生とかだったら流石にやばかった。いや、今でも十分性欲はあってしまうんだけど……。
しばらく服を見回っていると、突然シズさんが足を止めた。
「ん? ……猫、好きなんですか?」
シズさんが見つめる先には、猫のワンポイントの入ったシャツがあった。シズさんからは想像ができないタイプのものだったが、シズさんも女の人だということなのだろう。
「宏、気をつけろ、この魔物には人を魅了する魔術があるぞ!」
「猫好きなんですね。じゃあ、これにしましょう」
「む……」
シズさんは身構えたまま服に近づこうとしないが、こらえきれない感情があったのか、俺が手に取った服をつまんだ。
可愛い……。純粋にそう思ってしまった。
「じ、じゃあ、そろそろ試着しましょうか。サイズとか俺はよくわからないので」
「うむ」
適当に選んだ服やらをシズさんに渡して、試着室に案内した。
「こ、こんな薄いカーテンの向こうで着替えるのか……」
「み、見えませんので大丈夫ですよ」
「ふむ、では入ろうか」
「……は?」
シズさんはさも俺も一緒に試着室に入るような口ぶりなので、虚につかれたような顔を浮かべてしまう。
「なんだ、服を着るのには人の手が必要だろう」
「じゃあなんで昨日一人で着れたんですか……。というか、あなたはどっちなんですか、見られたいんですか?」
「見られたくないに決まってるだろう! あ、新しい服はどう着たらいいかわからん。色々違うし……」
「あ、そうなんですね。えぇっと……、ここに首を通して……」
……なんかこうやって色々教えてると、社会人二年目の初めて先輩って呼ばれた時を思い出す……。みんなやめていく中、いまだに残り続けている優香さん。
今じゃあ社内のアイドル的存在になってんだよなぁ……。
「……どうした」
「え? あ、あぁ、ちょっと昔を思い出してたんです」
「……そうか」
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