修学旅行の話
私の代わりに
学校に行けなくなって一年が経った。もうすぐ、二泊三日の修学旅行がある。しかし、私は行けない。行きたかったけれど、授業に出れないのに旅行だけ行っても楽しめないだろうし、みんなにも嫌な思いをさせてしまう。
卑屈になっていると、ふと、棚に置かれたぬいぐるみと目が合う。そうだ。カナに私の代わりに修学旅行に行ってもらおう。いや、しかし、邪魔になるだろうか。悩んでいると、いつの間にか海菜さんが隣にいた。
「うわっ! びっくりした!」
「ごめん。ノックしたけど返事なかったから。何悩んでるの?」
「カナを、私の代わりに修学旅行に連れて行ってもらおうかなって。でも……」
「邪魔になるかもって?」
「うん……」
「聞けば良いじゃん。希空ちゃんに」
「……うん。そうだね」
海菜さんのアドバイス通り、希空に連絡をしてみる。「良いよ。リュックに入れて持ち歩くよ」と速攻で返事が来て笑ってしまった。
「良かったね。ところで、修学旅行っていつだっけ」
「えっと……今月の末かな」
「ふむ……愛華、カナをしばらく借りてもいいかな」
「えっ、う、うん。いいけど、何するの?」
「ふふ。内緒。大丈夫。修学旅行までにはちゃんと返すよ」
そうしてカナを海菜さんに預けて数日経ったある日の朝。勉強机の上にひっそりと帰ってきていたカナは、なんと、桃花中のセーラー服を着ていた。
「海菜さん! 海菜さん!」
「ふふ。おはよう。愛華」
「これ! 海菜さんが作ってくれたの!?」
制服を着たカナを海菜さん達に見せて問う。すると彼女は「そうだよ。百合香と一緒にね」と答えた。
「君の代わりに修学旅行に行くんだから、ちゃんと制服着てないとね」
「ありがとうお母さん」
「「ふふ。どういたしまして」」
それから数日後。修学旅行の日がやって来た。希空の家に行き、カナを渡す。彼女はその姿を見て驚いていた。
「うわっ! すげぇ! 制服着てる!」
「お母さんが作ってくれたの。修学旅行に行くなら制服着ないとって」
「お母さんって、どっち?」
「両方。……修学旅行、いけなくてごめんね」
「ううん。……家でゆっくりしてて。お土産たくさん買ってくるからね」
「うん。ありがとう。ゆきのと一緒に留守番してる」
「うん。……行ってきます。またね。愛華」
「うん。またね」
希空のリュックに差し込まれたカナの頭を撫でる。すると希空はカナを取り出して私に向かってカナの手を振った。カナと目を合わせて手を振りかえすと、彼女はカナをリュックに戻して私を抱きしめた。そのまま何も言わずに、しばらく私を抱きしめたあと、そっと離して「行ってきます」と少し寂しそうに笑って、駅の方に歩いて行く。その後ろ姿を見えなくなるまで見送った。
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