第11話

 それから、私たちはこの、めでたくも記念すべき、

「湧水一族、セブン・リングス・クエスト、コンプリート!」

を祝して祝杯をあげた。

「それにしても、もし、今もあるとしたらどういうものが隠されてると思います?」

とわくが、ゆりあさんや私に問いかけると、コウタが

「当時、ここに墜落したUFOの残骸と宇宙人の骨格とかだったらいいなあ」

と言った。

「即身仏だったり?」と、わく。

「苦労して開けてミイラかよ!秒で閉めるわ」

「光道一族に対する借用書だけとか」

「血判状とかな。意味ねー!」

「平安時代の財宝って、ツボとか、厨子とか?東博にあるようなものか」

と私がいうとゆりあさんは

「あんまりたいしたことないんじゃない?だって、ものすごい価値があるものだったら、今頃もう残ってないわよ」

とピザを注意深く咀嚼しながらクールに言いつつ、

「万が一、すごいものが出ちゃったら、ミズハラくん、どうするの?」

と聞いた。

「売っぱらいます。・・・嘘です。基本、見つかったものは、それがなんであれ、リングの所有者全員で集まって、話し合って、対応を決めるというのが僕のルールです」

「これがミズハラ名物『俺ルール』です」

というコウタのからかいをわくは鼻先で受け流した。

見ているとコウタに対し、わくはつねに俺様的態度に出ているけれど、コウタの方が精神的に余裕がありそうで、優位ゆえの譲歩のように見える。いずれにしろ、小学校からの同級生で20代半ばまでつるんでいるというのも微笑ましい。いい友達がいてよかったねとうらやましくも思えた。

「でも、ロマンがあるわよ、楽しみよねえ」

「ロマン!」

その単語に思わず吹き出してしまったけれど、ゆりあさんも楽しそうに笑っている。その笑顔に大昔の少女が透けて見えた。千年目のロマンパワーは、七、八十年の時の経過など軽く熔かしてしまうのだろうか。

「お宝的なものが出たら、ゆりあさんはどうします?」

「そうね、金額にもよるけど、大金だったらラスベガスですっちゃおうかなあ?」

 アナーキー、とコウタが目を丸くし、

俺だったらSS-1号レベルアップさせる、とつぶやく。

「ところで、ミズハラくんは、どうして一族の隠し財産を見つけたいの?一攫千金を夢見てるの?」

「ラスベガスですっちゃおうかと思って。

いえ、僕は、人のものを奪うような光道一族が許せないだけです。せめて、残されたものがあるなら、それを見つけ出して、僕たちの先祖が隠さなければならなかったものに、ちゃんと陽の目を見せてやりたい」

と言った。ワードの内容はキリリとしていて口調も断固としているが、テンションが低いので、あまり熱意は伝わってこない。とはいえ、彼の事情を知らなければ、千年も前のできごとを、よくぞこんな風に今の自分に結びつけて考えられるものだと少し呆れそうだが、彼の心にあるのは、父親への思いなのだろう。わくの中で父は、千年前のヒーロー戦士となって、敵と戦っているのかもしれない。

 その夜は、いったん指輪を預かることにして、私たちは弘中邸をあとにした。

玄関先まで送ってきたゆりあさんに、わくは手を降って

「じゃあ、またね、ゆりあ!」といった。

ゆりあさんは華やいだ笑顔を見せて「またね~」と手を振った。

私のことは「くりこさん」と呼び、弘中さんのことは「ゆりあ」呼び。

わく、おぬし、なかなか策士というか、たらしだな、と思った。

 弘中邸の路地が表の通りと交わる寸前で、先頭を歩いていたわくが私を、ちょっと待って、と手で制した。そこにとどまって前方を見ると、なんと一本の白羽の矢が、地面に突き刺さっていたのだ。わくはその矢に歩み寄って手を伸ばした。指先が触れたと同時に、矢と手の間から青白い閃光が宙に走った。わくは弾かれたように手を離したが痛みに顔をしかめている。

コウタが駆け寄った。

「大丈夫か」

「大丈夫」

わくは、水でも切るようにちょっと手を振ってから、今、閃光を放ったばかりの矢に再び手を伸ばしてむんずと掴み、スポッと引き抜いた。

(わ、この、罰当たりが!いや、罰なのか?)と、私は混乱し、動揺した。

「それ、どうするの?」

「帰り道の神社に納めます」

 光道一族のしわざ?という言葉を私は飲み込んだ。

「心配しなくても大丈夫ですよ。なにか危害を加えるつもりなら、僕らもう、とっくにやられてます。これは単なる脅しだと思うので気にしないでください」

とわくはいう。

うなづきながらも、そういわれてもなあ、と不安に思っているうちに、我が家の前に着いた。

わくは別れ際、私の目を見て、

「僕たちがいるから、大丈夫です」

と、今日一番の優しい声音でいい、後ろからコウタが両手でサムズアップして見せてくれた。

 翌日午前10時に、私たちはわくが本拠地と呼ぶ、例の古い民家に集合した。

わくたちは朝早くから、ほかの3つの指輪の所有者たちを訪ねて事情を話し、特別に現物を貸し出してもらって来ていた。

 以前も、指輪の3Dデジタルデータを撮るために借りたことがあったのだそうで、コウタが知り合いのラボで3次元レーザー計測や透過X線撮影を行ってCG化して、アマカツさんを交え、3人で分析したことがあったのだという。それでも実物に描かれた紋様の実態以上の情報は得られなかったとわくが説明してくれた。それで、やはり実際に指輪を7個並べて、リアルな紋様を重ねて分析、解明しようということなった。

 実際に、7個が揃ってから並べることができるのは、今回がはじめてなので、ついに謎が解き明かされるのではと、全員が高揚しつつ緊張していた。

 もちろん、アマカツさんも考古学的なものから民俗学的なものまでの資料を持参していた。

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