第7話帆船




荷馬車にスライムが一杯詰まった状態でゆっくりと走って来ていた。

その荷馬車は5台で、どれだけ不法投棄していったと頭が痛くなってくる。


荷馬車が曲がりくねった道を通り抜けた時だ、荷台からスライムが転げ落ちる。

ああ、やっぱり曲がりくねった道でこんな事が・・・

御者が御者台から降りてスライムをのせ始める。

こんな事をしてたら更に遅くなるぞ。

私は先行して問題の道を前回同様に作り変えた。

真直ぐで凸凹のない道に・・・


なんだかんだと大変な道作りになった。

必死に作業をこなしながら、領主はこんなに働くのかと疑問に思った。

なんだよ・・・兵士の尊敬した目で見られると、仕方ないと諦めて頑張るしかない。

私の最終目的は楽して暮らす事だ。

その為にも努力も惜しまないと誓った。




ようやく港町バークレイに着いた。

古びた帆船はんせんが1隻停泊している。もう1隻はドックの中で修理中らしい。

強い季節風に何年もさらされた帆柱ほばしらは、もう限界にきていた。

私は帆船を大改造しようと思っている。



スライムを鑑定すると意外な活用方法を知った。

海に破棄するなんてもったいない。


スライムを切れ味5倍の剣で突き刺すもやはり駄目だ。

けれど10倍の剣で突き刺すと呆気なく刺さってスライムは死んだ。

流れ出した体液は、接着と防腐効果があった。


スライムが死ぬ事で体液が変質して、その効果を発するのだ。

スライムの皮は、物理・魔法攻撃無効の効果はそのまま継続している。

使わないなど出来るはずがない。


帆船に体液を塗った後にスライム皮を張ろうと思っている。

スライム液をそのままだと乾くのが非常に早い。

なので水で薄めて何度も試した結果、1対水3の割合で薄めると良かった。


薄め過ぎた液を捨てるのももったいないと、船内を塗って使い切った。


「こらこら!塗った後を触るな!触った跡が残ってるぞ」


それで乾いた船内を鑑定すると強度3倍で柔軟性ありの表示が・・・


「領主さま、外側をスライム皮で張りつくしました」


「どれどれ」


お!鑑定結果も物理攻撃無効・魔法攻撃無効とでてるぞ。

どんな攻撃にも耐える船の完成だ。


船大工の親方の掛声のもとで停泊中の船がドックへ引張り上げられる。

そのまま作業が始まった。


「体に付いたら急いでアルカリ水で洗い流せよ。ほっておくとロベルトのように1日中、手をアルカリ水につける羽目になるぞ」


「わかってますよ。トイレへ行くのも手助けが必要な人間には、なりたくないよなーー」


作業は順調。

甲板までスライム皮を張った。

その結果、滑って転ぶ者が続出して笑いが止まらない。

再度液を塗り板を張り直した。もう転ぶ心配は無い。




船足を速くする方法として考えたのが船底後方に穴を開ける事だ。

水魔法の付与を付けたロッドを穴に差込む。水漏れしなようスライム液を塗って固める。


「おーい、水を出してくれ!」


船内に向かって「水をだせ!」と大工の声が響く。


船底にいる水の魔法使いがロッドを握って「水よ出よ」と叫んだ。

船底後方から勢いよく水がふきだす。


徐々に船が動こうとする。


「止めろ!止めろ!ロープが切れてしまうぞ!」


ようやく動きが止まった時には「これは凄いな~海なら凄い勢いで走ってくれるぞ」


「船を多く作ってきたが、こんな船は初めだ」


古い帆も下ろされて、スライム皮の帆が新たに張られた。

透明にキラキラ輝く帆は、幻想的で船の本体もキラキラと光沢に輝いていた。


「なんて美しい帆船だ」


「この国1番の美しい船です」


「もう宝石のように輝いているぞ」


テスト航海が始まった。


船長が「帆を張れ、準備はいいか気合を入れろー」


船員が「オー、オー」と木霊する。


船長「風を吹かせー、面舵いっぱい」


風の魔法使いがロッドで帆に風を吹き付ける。

昔からやっていた方法だ。

船足は速く、帆は風をいっぱいに受けて進んでいる。




沖へでようとした時に、海賊船10隻がこちらに向かってきていた。

船長と事前に話していた計画通りに進める。


「水をふきだせ!」


帆船のスピードが増して進む。


「そのまま海賊へ突撃攻撃だ!」


1隻が呆気なく帆船と衝突して沈んだ。


私の黒球が頭上に5つ現れて目標とした海賊船を襲う。


結界の欠点は黒球に弱い事、その事は余り知られていない事実であった。

むなしく結界が破れ船を貫通。

船底に穴が開き水が浸水、5隻が傾き沈んでいく。


残りの4隻は逃げ帰ろうとするも黒球が次々襲い沈んでいった。




海面に浮かぶ海賊を10人を捕まえて、私が拷問を仕掛けた。


幻影魔法と精神魔法の合わせ技で、手足を切った幻影を見させて精神に激痛が走る。

そして余りにもの激痛で失神する。

眼が覚めて質問をすると答えないと同じ事を繰り返すだけだ。


同じ自白が取れた事で港町バークレイに着いた時には、警備隊が酒場のマスターと貿易商の番頭を捕まえた。


この2人は裁判に掛けられ裁かれるだろう。


隣領グレスのつながりも自白したが、海賊の自白では証拠にならない。

憎し隣領グレスに10倍にして返してやると誓った。




ドックでは新しい船が造船中だ。

今、残りの2台の荷馬車一杯のスライムを、倉庫へ運搬している。

10倍剣の5本を船大工に貸し与えている。




大改造が終了して準備が整えば、南国へ出向する予定。

ここからが大航海の始まりだ。

頑丈で船足が速い帆船なら沈む事はないだろう。


まだ行った事ない国へ、今後行く事になる。

その為にも外交のできる人物が必要だ。領内での未鑑定者をドシドシ鑑定しよう。


そして教育をする学校も必要で、魔法学校も必要かもしれない。

魔法の基本は、魔法持ちに弟子入りするのが一般的だ。


魔法持ちを探すのも費用も掛かる。

だから平民は分からないまま、自己流で魔法を使っていく。

学校があればもっと楽に上達できるし、領内の発展にもなるだろう。




そして親方に帆船をもう1隻注文した。そして小型船も10隻も注文。


小型船も後方から水を噴出するタイプにした。もちろんスライムコーティング付きだ。




役人に、この10隻を使って海岸警備部隊設立を指示した。

この小型船は、船に体当たりするように頑丈に作る予定だ。


港町の住民を鑑定すると、水の魔法使いが20人もいた。

海岸警備部隊を募ったら10人が手をあげた。

残りは帆船お抱えの魔法使いと、漁師お抱えの魔法使いになるらしい。


これで漁師達も沖合いでの漁を安心して出来るだろう。




帰りは気になる道を直しつつ進み和気あいあいと道中を楽しんだ。


港町バークレイの滞在は5日にも及んだ。



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