第16話 夢の写真
風を顔に感じて、目を覚ました。
俺の顔を上から下へと撫でるように吹いていた。
俺の体はベッドの上にあり、
少し上を見上げ、
アパートの窓が開け放たれていて、
白いカーテンが揺れているのが見えた。
閉めるのを忘れていたのか、……そう思った。
私がベッドから降りた先、目の前に、クリーム色の壁とその前に小さな本棚と小さいタンス、それにテーブルが隣接して並べられているのはいつもの通りだった。
テーブルの上には書きかけの小説がある。原稿用紙四十枚程度の短いもの。
それだけでも、これだけ書いたのは生まれて初めてのことだった。
内容は、大したことない。今俺が見た夢の内容の方がよっぽど良かった。
しかしもうほとんど忘れていた。もう少し続いていたなら、もう少しで、何か大事な出会いがあったのではないかというような気もした。
さて、俺は今日出掛ける用事がある。
携帯端末で時間を確認すると、まだ出掛けるまでには時間があった。
だから、これから合う相手に掛けることにした。
…繋がった。
「もしもし……もしもし」
「はい」
「あの…、今何してる?」
「ん? 今準備してるとこ。それでね、私、少し遅れるかもしれないから」
「大丈夫。それは大丈夫なんだけどさぁ、今日、少し寒くない? ちゃんと厚着しろよ」
「うん。それは大丈夫なんだけど……」
「叔父さんの事、聞いたよ」
「うん」
「亡くなったって……聞いたよ」
「うん」
「本当に大丈夫?」
「大丈夫だよ。だから、早く出掛けないとね」
俺はその言葉に対して「うん」と言い返すことしか出来なかった。
出掛ける準備をしている途中、
クローゼット中に仕舞ってある大きな防寒着が目に入った。サイズ違いの大きいやつ。本当に寒い時に、服の一番外に着るだけなのだが、そこそこに存在感があった。
アパートの自室の外に出て、徒歩で向かう。
アーケード街に入った。
俺たちの住むこの町で、一番のデートスポットといえばこの通りだった。
O市の中央にあるこの場所、地元でも有名な個人で経営されているハンバーガーショップがある。……要はそれほどに寂しい街なのだ。
しかし、俺の本当の行き先はこのアーケード街の裏にあった。
そしてとりあえず、待ち合わせ場所としていた近くの喫茶店に向かう。
俺の方が先に着いたようだった。
この後、とある場所に二人で向かう。
それはこの近くにある小さな店舗――そこで今、写真展をやっている。あの人の、最近亡くなった叔父さんの撮った写真がそこで展示されているからだ。
叔父さんの話を聞くと、思い出すことがある。
それはみんなで――俺と俺の家族、あの人は叔父さんと一緒だった――、山道を歩いている時、一本の、綺麗な桜の木を見つけた時の事だった。
その桜の花の下にあなたが立った。
そしてその姿は本当に綺麗で、その時の事をもう一度振り返りたくて……、
そうしたら、あの時の桜の写真が実は残っていたって聞いたんだ。
だから、
あなたと一緒に、それを見たいんだ。
あの世界での、出来事 壱一六 @bittersenri
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