第14話 これからどこへ向かうのかと思い、

 馬車を降りた僕らに声をかける者がいた。


「お前達は誰だ?」

 低く、横柄な声だった。

 二人の男が現れた。顔は良く分からないが、普通の、町民の格好だ。

「私はクロト・リヴァーサラだ」

「知っている」

 森の入り口の男から既に話は聞かされていたらしい。

 彼らの話す言葉から、鋭さが減っていた。


 僕は、ナラセさんと一緒に六人が話をするところ見ていた。

 当然だけど、僕が知っている景色はどこにも無い。


 僕らは大きな木の下に立っている。上を見上げると、真っ黒に見える。その真っ黒に、欠けている部分を見つけた。黒色と、微かに青さを感じる程度の黒色が、境目の上下に存在していた。

 視線を降ろす。

 その先は道が続いていて、真ん中だけが所々石畳、いや、土かな?――そんな道が続いていて、塀の無い二階建ての家――灰色の塊のようにも見える――それが両脇に並んで建っているのがわかった。

 遠くの方は暗くてあまりよく見えない。


 お父さんがノマヤカさんに言うのが聞こえた。

「私たちがマルズーに帰るのは、あさって以降になるでしょう。それまで待ってもらえますか? その間、馬車を留め置いて頂ければ謝礼を出しますよ」

「ありがとうございます」


 僕はリリーの顔を見た。平然としているように見えるし、ぼんやりしてるようにも見える。少なくとも緊張している様子では無い。


 町の男の一人がお父さんに聞くのも聞こえた。

「レイザラさんの屋敷に泊まるつもりなのか?」

「はい」

「こんな暗くなってからか……、なら俺が先に行ってお伺いを立ててくる」

「お願いします」


 男は走って行く。その先には壁が有り、向こう側に凹んでいた。

 その半円の左側に上り坂道の入り口だけが見えた。外縁部は壁で覆われている。


 さて、動き出すようだ。


 ノマヤカさんは知り合いの家に向かうらしい。

 お父さんの馬も一緒に連れて行った。


 僕はその馬車の後ろ姿を見て、思い出した。浮いてる時の馬車を外から見てみたかったのだ。

 それからもう一度、真上を見た。そして、木の枝の隙間から、空の星の煌めきが一瞬だけ、真っ黒の中から僕の目に届くのを感じた。


「ライラ様、遅れますぞ」

「うん」

 背後のナラセさんがそう言う。

 お父さん達は坂の前に立っていた。


 町の男達は筒灯りを怪訝な顔をして見ていたので、既に切ってある。

 筒灯りの一つはノマヤカさんに貸したままだった。

 それにしても……


「疲れた」

 僕は言う。


「もうちょっとよ」

「まだまだ先だぞ」

「そ……」

 お母さんは、お父さんとの会話の中で、何かを言おうとして黙った。

 こういうの、多いよね。


 ナラセさんが言う。

「私がおぶっていきましょうか」

 僕はため息をいた。

「いいよ」


 上を見上げると、左右両方の壁の上側から、何か黒い物が垂れ下がっているのが見えた。

 何だろうか? 植物の蔓に思えた。

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