第13話 新しい町に入った。
僕らは通過を許され、
フォウリアスの森で番をしていた男は、少し揺れながら上がっていった。
「あの人はね、ロープで樹の上からぶら下がっていたのよ」
お母さんが説明してくれた。
「そんなことはできないよ」
きっと魔法だ。間違いないよ。そう言葉を返しながらも、本当は出来るんだろうなあ、と心の中で思った。
馬車は普通に車輪を回して、前に進み始めた。
そうやって少し進んでから後ろを見てみると、少し前に屈んでくれたナラセさんの肩越しには何も見えなかった。
あの男は空に上がっていってしまったのだから当たり前だ。
ナラセさんが僕に向かって微笑んだ。
お母さんに聞く。
「ここに何があるの?」
「前にも言ったでしょ。この森の中に町があるのよ。森に守られた町――いいところよ」
なんだかすごい場所に向かっているような気がして期待できそうだった。だけど、同じくらい疲れてもいた。
森を抜けたらしい。石垣の道が現れる。石垣は左右に向かってL字形に折れていて、その折れた先がずっと続いて、町を囲んでいるらしい。しかしその周りを木々で囲われているから、侵入するのは簡単だろう。
これじゃ意味が無いと思った。もっと高い塀にすればいいのに……。
その上、
この石垣の向こう側にはもう家があるらしい。
石垣はツタで覆われているから、きっと誰も住んでいない家だろう。
「もう町に入ったわ」
母さんは僕の顔を見てそんなことを言うけど、僕にとっては期待外れだった。
ナラセさんの声がした。
「私は、さっき降りるべきでした」
「どうしたの?」
「体がなまってしまいます」
うん。僕は頷いた……なんとなくだけど。
ナラセさんにはやはり狭い場所だろう。
タミラさんが欠伸しているのも見えた。
そして、
二頭の馬が石畳の上を歩く、こつこつ、という音がずっと途絶えずに続いていた。
……石垣で挟まれた道が終わると、不思議な場所に出た。
石畳の地面に、街路樹が左右、奥と手前に等間隔に生えているようだ。灯りが乏しく、そんな風景が何処までも続いているようにしか見えなかった。少し怖い。
そんなこの場所の真ん中で、馬車は止まった。
まさか、道に迷ったんじゃないだろうね?
安心したことに、
ノマヤカさんとお父さんは平然としていた。
「この先はどうされますか?」
「私たちは五時の道へ向かう予定です」
「遠いのですか?」
「ええ、そうですね。出来ればそちらまで行って頂けると助かるのですが」
「わかりました」
よかったと思った。僕はこんな場所を歩きたくない。
ナラセさんが馬車を降りたのはこのタイミングだった。
あの人の大きな体が馬車の後ろに立っていると、それだけで心強い気がした。
馬車は斜め右前に進み始めた。
どこをどう通ってどこに行くのかは、お父さんもノマヤカさんもわかっているみたいだった。
だけど、もしものことがある。
迷子になっても帰れるようにと、帰りの道順を覚えようと頑張った。
馬車は再び生け垣で挟まれた道に入っていき、その道は少し曲がりくねっていて、大きな木の前で|開ひらけた。
この木の下で、僕たちは馬車を降りた。
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