第12話 森に辿り着き、

 を離れてからずいぶん移動した。その間に、僕は食事をしたり大事な事を知った。

 しかし、辺りが少し薄暗くなってきていた。


 早く到着しないといけないということだったはずだけど……。


 段々と、馬車の下から出ている白い光が邪魔になってきた。そのせいで遠くの方が見えにくい。


 馬に乗ったお父さんが、さっき前の方へと向かって走っていたのだけれど、戻ってきた。

 ノマヤカさんと並んで、何事かを話した。


 ノマヤカさんは背中の棒で馬車を押さえた。速度を遅くするためだ。

 速度はドンドン遅くなり続けて、そして止まった。


「フォウリアスの森はすぐそこです。このまま走り続けるのは馬が無理ですし、目立っていけませんから、ここからは普通に車輪を回して進みたいと思います」


「わかりました」

 お母さんが頷き、

 ノマヤカさんが馬車の周りで軽く作業して、白い光は収まった。

 僕は目が慣れていなくて、周りの景色が真っ暗になってしまったかのような気分になった。


 お父さんが「『筒灯り』を二つくれ」と言ってきた。

 筒灯りという物を僕は知っている。お父さんの発明品だ。


 お母さんは紅い宝石を一度引いて、窓ガラスの消えた部分からお父さんに筒灯りを二つ渡した。

 お母さんから筒灯りを二つ渡されたお父さんは、そのうちの一つをノマヤカさんに手渡して、使い方を説明した後、自分の筒灯りの後ろをいじくった。そうすると筒の前の方から青い光が放たれる。

 ノマヤカさんは筒灯りの使い方をすぐに理解したようだった。

「すごいですねこれは」

 と感心していた。


 お父さんとノマヤカさんは、時折、馬車の行き先を照らしながら進み、さらに暗くなってからはずっと点けたままにしていた。


 お父さんが乗っていた馬は進みたがっていないように見えたけど、リリーが迷い無く進むので、仕方なく歩いているようだった。



 まもなくして、横に広い大きな森が見えてきた。



 僕らは森に向かってまっすぐ進み、行き着いた先に森の中へと入っていく道があった。


 森の入り口は、この暗さではそれとはわからないものだったけど、お父さんは迷い無く進む。


 馬車が森の中に入ると、馬二頭の足音が変わった。コツコツ、と云っている。

 地面が石畳になっているのだ。


「止まれ」

 上の方からだ。遠くから大きく叫んだみたいな声が聞こえた。

 僕はお母さんの顔を見た。

「大丈夫」

 お母さんはそう言って、僕の頭を撫でるだけだった。


「どこからきた?」

 と、今度は近くから声がした。


 僕は声の聞こえた方を探した。そして驚いた。幽霊だと思ったからだ。

 人の姿は見つけたけどその人は宙に浮かんでいたのだ。左右に少し揺れていた。

 でもよく見ると幽霊ではなかった。人間の男だ。


 男の言葉に答えたのはお父さんだった。

「私はクロト・リヴァーサラ。マルズーの町から家族と来ました」

 それから、二人はノマヤカさんの顔を見た。

 ノマヤカさんは気弱な様子だ。

「ど、どうも、私は転送術師のノマヤカです。『人転送』の仕事でマルズーから…ここへ。馬車に乗っているのはこの方の家族です」

 男は何度か頷いた。

「何人だ?」

「馬車の中は四名です」

 男は馬車の中を適当に流し見るようにした。でも、こんなに暗かったらなかなか見えないだろう。


 お母さんが窓ガラスを消して顔を出し、

「こんばんは」

 と言った。


 男は何度か頷きながら、挨拶を返した。

 それからお父さんの方を向いた。

「なるほど、で、一つ聞きたいんだが……」

「何でしょう?」


「あんた達は、あのリヴァーサラか?」

「はい、そうです」

 男は感心するようにため息を吐いた。


「いやぁ、黒い髪だからまさかと思いましたよ。…泊まる宛てはあるのですか?」

「レイザラさんを尋ねようと思っています」

 男はさらに納得したというように、何度か頷いた。


「そうですか。ならもうこんな時間ですから早いほうがいい。お通りください。無駄な時間を過ごさせてしまい申し訳なかった」

「いえいえ、町の警備をご苦労様です」

「もったいないお言葉です。……《《東の石門で待つ》」(※)

「「「《《石門で》」」」(※)

 お父さんとお母さんと、馬車の中のタミラさんとナラセさんも返事した。


 ノマヤカさんは途中から無視されているみたいだった。

「ひ……」

 挨拶を返そうとしていたが、中途半端なところで止まってしまっていた。


「石門で!」

 僕は慌てて言った。



 『東の石門で待つ』は、お疲れ様、みたいな意味です。


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