第3話 手紙屋というものを教えてもらい、
そしてさらに次の日、
お父さんが机に向かって熱心に書き物をしていた。そしてブツブツ言っていた。
「……良くないものが見つかった……これは子供っぽいな……世界の平和に関わる……これは大げさか……?」
お母さんはすぐ傍にいてそれを見ていた。少し呆れているみたいな表情だった。
それを見た僕はすぐに聞いた。
「お父さんは何してるの?」
「手紙を書いてるのよ。ちょっとした急ぎの用事なの」
机の上には四枚の紙があった。
クイルペンの先をインク壺に戻してから、お父さんが言う。
「なあこれさ、初めから書き直しちゃだめか?」
「駄目です。気に入らない部分には線を引いて下さい」
「それじゃあ結局読まれてしまうだろ?」
「むしろ、読まれてしまった方がいいと思いますよ」
「……う~ん」
お父さんは「気になるんだよなぁ」とかブツブツ言っていた。
「紙は高いんですから」
「あのさ?」
僕はある事を聞いてみることにした。
「なに、ライラ?」
「先に魔法紙に書いたらいいんじゃない?」
お父さんはしばらく自分の書いていた手紙をじっと見つめていたけど、
「その通りだ! 何で思いつかなかったんだ?」
突然大きな声を出した。
お母さんは小さくため息を吐いたようだった。
「クロト、魔法紙は持ってきてあげるけど、ちゃんと考えて書かないと、時間がいくらあっても足りないわよ」
そう忠告してから部屋を出て行った。
手紙を出すからには当然、街の外の人間に向けてのものに違いない。
「それ、誰への手紙?」
「……俺たちの昔の仲間だ」
「俺たち?」
「そうだ。ちなみに、俺たちってのは俺と母さんとナラセの三人のことだ」
それは、僕の中にあったナラセさんへの違和感に対する答えでもあった。
「で、仲間って?」
「そうだなぁ、説明すると長くなるぞ。……それに」
そう言ってから少し考えていた。
僕はあまり待つつもりは無かった。
「何?」
「近いうちに、本人達がここに来るかもしれないからな。楽しみはその時まで取っておこう」
勝手なことを言われた。
お母さんが持ってきた魔法紙に、お父さんは今までのことが嘘でもあったかのようにスラスラと文字を書き出した。
そして、お母さんに聞く。
「そういえばなんだけどな」
「何ですか?」
「俺は、『手紙屋』を使った方がいいと思う」
手紙、や?
「手紙屋ですか? 噂には聞くけど、本当に大丈夫なのかしら?」
「心配するな。今は結構いけてるらしい。カレアドからの手紙に書いてあったから間違いない」
カレアド?
お母さんは意地悪っぽい言い方をした。
「あら、また私に手紙を隠したの? それ、見せて欲しいわ」
「見たって誰もが読めるわけじゃない。あいつは暗号の天才でもあるからな」
「読めなくてもいいんですよ。本当にカレアドさんの物なのかを確認したいだけ。あの人の事は信用してますから」
「わかった」
お父さんは「そうだ」と言い、急に気付いたように僕を見た。
「ライラ、お前にも見せてやるからな」
「うん」
僕はお父さんがいなくなった後に、お母さんに聞いてみた。
「カレアドって誰?」
お母さんはなんと説明しようか考えていたようだった。
「怖いけど優しい人、かしらね?」
「怖いのに優しい?」
「そうよ。一見怖い人なんだけどね」
「……う~ん。わからないなぁ」
「会ってみたら分かると思うわ。あの人ほど信用出来る人を私は他に知らないわよ」
「それって、お父さんよりもってこと?」
「そうねぇ、信用できるか出来ないかだけで言うなら……」
お母さんはそこで言葉を切って、笑いをこらえてる顔をした。
「……一緒に暮らしたいかどうかは、信用できるかどうかとはまた別なのよねぇ」
「それじゃわからないんだけど」
「大人の話なのよ、ライラ」
その頃にお父さんが持ってきた例の手紙には、文字が書いてあるようには見えなかった。
何だか文字が水で汚れて読めなくなった後みたいだった。
「ほら、カレアドの署名は本物だろ? これは暗号じゃ無い」
「確かにそうね……それにしても、水で滲んで読めなくなった後みたいにも見えるわね」
「そうなんだよ。これじゃ暗号だってこともわからないだろ。あいつはすごいよ」
暗号っていうものもよくわからない。
最近は何だか、お父さんもお母さんも僕にわからないことばかり言う。
「少しは教えてよ」
「どうしたの?」
「ん? 何を教えてほしんだ?」
「まずさ、お父さん達の仲間は四人いるってこと?」
「いいや、手紙を出すのが四人だけってことだ」
「じゃあさ、さっき、世界がどうとかって言ってたでしょ? それに書いてあるってこと?」
僕はカレアドさんの手紙を指さした。
「ん? 違うぞ、これには書いてない。これに書いてあるのは、色んな町で物の値段が大きく変わったって話だ。まあ世界の話ではあるけどな……」
そしてお父さんは「そうだ!」と言った後、「お前を手紙屋に連れて行ってやる」
と続けた。
僕は少し考えた。
「それって街の外?」
「そうだ」
それは……嬉しいことだった。
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