第6話 ある記録
…死ぬまで、心の中にしまっておくべき話ってのは、誰もが持ってるもんだ。違うか?俺はあるぜ。
…(中略)…
そこで、夜道じゃ聞き慣れない音がした。水風船を壁にたたきつけて割ったような音だ。だが、子どもの水風船どころじゃない、もっと大きな音だった。
そしてそのあとにドサッ、という鈍い音。
音のした方に行くと、数人の人だかりができてたよ。そこは何年も使われてないビルだった。
人が倒れていた。ちらっと見ただけだが、もう動かなくなってた。あたりは血まみれでな。だいぶ高いところから落ちたみたいだ。
でも、ただビルから落ちただけとは思えなかったんだ。足首から先がずたずたで、足の骨が見えちまってた。じっくり見たわけじゃないが、衝撃で骨が飛び出したって感じじゃなかったぜ。
しかも、誰かが通報してるだろうとは思ってたが、俺がそこに行ってすぐに、もう警察が来たんだよ。サイレンは鳴らさないのに二台がかりでよ。すぐに現場を隠しちまった上に、近くで見てたやつに詰め寄って話を聞き始めた。パトカーに押し込まれるやつも出てきちまってな。
面倒に巻き込まれるのはごめんだから、すぐにその場から離れたぜ。でかい事件だったのかと思ってドキドキしたよ。殺人事件だったのかもしれないってな。
だけど、この件は、一切ニュースにはならなかった。地方の新聞にも載ってねえ。たいした事件じゃなかったのかと思ったが、じゃああの時の警官の切羽詰まった感じは何だったんだ?
しかもだ、何人か野次馬はいたはずなのに、ネットにも一切あの日の話題が上がってねえんだ。これはまずい話なんじゃないかって、本能で感じたね。誰にも話さず、墓場まで持っていくのが一番だってね…
(行方不明者の自室から見つかった録音テープの記録より一部抜粋)
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