第100話 セプテンバー







  ─── 一年半後。



 高校生活を彩るイベントと言えば、当然のように修学旅行を外せないのは、彼女たちの通う『学校法人 東方共栄学園』でも同じことである。


 学校の中から社会に出て、現地の文化や歴史的なもの学んで教養を深め、集団で行動することで個人としての成長をすることが目的……なんていうのは、よくある例文である。


 その一方で、全くの例外に等しいリトルビッチなJK二人はどうしていたか?



「…ああ、悪いな。うん、わかってるよ、安全運転なら任せろよ?…それでさ、王子様のおすすめの場所ってどこなんだ?……ああ、なるほど、それは観光じゃねーだろ? HAHAHA!……うん、わかった、ありがとう。それじゃ王子様、お仕事お疲れ様です。goodbye!……おーいウィラ、終わったぞ」


「ナギ、お疲れ様。お昼はうちの奢りかいな?」


「ああ、違反切符なんか切られてねーし、ただ免許証見せて雑談しただけだぜ? さて、賭けはあたしの勝ちだからな。昼飯をごちそうになるよ」


「ま、しゃあないわ、ついでに王子様オススメのご飯屋さんも聞いたんやろ?」


「もちろん、王子様の同僚たちもよく行くうどん屋があるらしいぜ?」


「そらええやん。ケツネあるんやったらうち、喜んであんたらの分も奢ったるわ」


「会長、ゴチになるっす」


「もちろん全員分、だよな?」


「そらうちがそう言った手前な、二言はないで?」


「会長、こういうところが漢っすね」


「ああ、ツイてないけどな?」


「「「HAHAHA!」」」


「……さてウィラ、ここで問題だ。あたしらはなんで王子様に見初められたのでしょうか?」


「なんや、結局はお咎め無しっちゅう話なんやろ? ナギ、そら初心者マーク付けた『わ』ナンバーのハイエースにJKが乗ってる言うたらな、そら怪しいし停めるわ」


「そうっすね、ハイエースの運転席に、制服着たJKがいるだけでもそうっすけど、書記長が個性的でデカすぎるから当たり前っすね」


「ああ、流石に白馬の王子様もさ…「そりゃ自由過ぎる自由時間だな。ま、安全運転で気を付けて修学旅行を楽しんで」…って感じだったよ?」


「そらそうやろ、先生達にバレたら面倒やし、サングラスで変装しとったから尚更や」


「会長、書記長、変装するのはいいっすけど…MIBっすか?」


「ウィラ」


「ほんならかずさちゃん、このペンの先を見てみ? ええからはよ」


「記憶操作は勘弁っすね」


「「「HAHAHA!」」」


「ま、お前らの予想通りってことさ。さて、昼飯をどこで食うかは決まった…だが、飯食った後の自由時間でさ、あたしらはいったいどこへ向かうんだ?」


「さぁ? なんも決めてへんで?」


「そうっすね、人混みは嫌って言ったっすけど、まさかレンタカーを借りるのは想定外っすよ?」


「だよな?…って、お前ら何も考えてねえのかよ!?」


「「「HAHAHA!」」」


「そらな、事前に擬装ルートを考えてな、書いて提出したやろ? ほんであとは自由やっていうからうち、なんも考えておらへんかったわ」


「だろうな…いや、ウィラの出身的に案内してもらうのもありかな?…って、思ったけどさ、そりゃ甘え過ぎだったかな?」


「そらうちの地元とちゃうし」


「だよな……ま、修学旅行でドライブしてました、って言うのもありだけどな?」


「ありっちゃありっすよ、本来だったらただの散歩っすからね?」


「ただの散歩言うたらあかんで? そんなん言うたらな、修学旅行実行委員会が泣くやろ?」


「おい、修学旅行実行委員を泣かせたお前が言うなよ?」


「あんたもやろ!?」


「「「HAHAHA!」」」


 傍若無人で自由気ままなJKである、香坂 渚沙(コウサカ ナギサ)、ウィラ・フォン=ノイマンの二人がいるだけで何が起こるかはわからない。

ナギとウィラのあまりに予想外の行動に、班のメンバーは旅行前から終始、振り回されっぱなしだった。


 運悪く巻き添えの形を食らった 小幡 上総(オバタ カズサ)以下数名は、サイレンを掻き鳴らす白バイに止められて驚いたものの、最後の思い出を自由気ままに過ごすことにはなんら不満なんて無かった。

むしろ、この状況を楽しめるのも修学旅行である、チョコレートの箱のように開けてみるまではわからないのだから。



「…なあ、本当によかったのか? ただのドライブになっちゃったけど…」


「ナギ、それでええんや…ただの散歩やったらな、思い出話に花咲かす言うても、外やとあれやん? どこに誰の耳があるかわからへんやろ?」


「確かに、そうだよな……うん、入学してから色々あったけどさ、本当ウィラに出会えたから今のあたしがあるし、そうじゃなかったらさ…あの時あたし、学校辞めてたかもな……」


「ほんまやで、うちがおらんかったらどうなってたんやろな……」


「二年の時っすよね? あの時の書記長、とても悲しい顔して、めっちゃ荒れてて怖かったっす…だけど、悲しいのはわかるっすけど、私じゃ何もしてあげられなかったっすからね…」


「あの時は本当に悪かった……だけどさ、そんなあたしをまた受け入れてくれてありがとう」


「ええんやで、大好きなナギが急におらんってなったらな、そらめっちゃ悲しいし、力ずくで止めるに決まっとるやろ?」


「そうっすね、現実問題そうなったっすからね。二年の時の体育祭、あれは酷かったっす……会長と書記長、ガチで殴り合いの喧嘩してたっすからね…あれ、どうやって止めるのって話っすよ?」


「結果、あたしとウィラが揃って入院したからな…本当、あの時はどうかしていたよ」


「ナギ、その話はもうええやろ? そんなん言うたらな、辛気くさくなってまうわ!……せやからな、今から気持ち切り替えていくで?…せや、なんか曲かけましょか」


「いいっすね、なんかノれそうな曲がいいっす」


「オーライ、わかったよ……よし、Earth,Wind & Fire なんてどうだ?」


「ほんならセプテンバーがええんとちゃうか? 季節感あってええやろ?」


「むしろ映画みたいっすね、会長と書記長で最強のふたりっすから」


「「「HAHAHA!」」」


『…september そしてあなたは september 秋に変わった…』


「小幡、そっちのセプテンバーじゃない」


「あ、間違えたっす」


「学生の失恋と再会の歌やな…」


「おい、縁起悪いこと言うなよ?」


「「「HAHAHA!」」」


『………Do you remember The 21st night september?……』


「これこれ、ほんじゃ気を取り直して…ナギぃ?」


「なんだ? 進捗か?」


「そうっすね、もう公然の秘密っすから」


「せやせや、ここにはうちらしかおらんし、修学旅行の雰囲気ならではの恋ばなもええやろ?」


「ああ、そうだな…って、いや、これ本来だったら12月の歌だぞ?」


「え、そうなん? 知らんかったわ」


「それは驚きっすね。それよりも、首を前後に振った方がそれっぽいっすよ?」


「ああ、まさに Intouchables らしいな?」


「「「HAHAHA!」」」


「ナギぃ、話そらさんといてな? 進捗はどないなっとるんや? ん?」


「気になるか、そうだよな……だけどさ、修学旅行初日でそれ言ったらさ、速攻ネタ切れになるから、最終日の夜ぐらいまで待てよ!?」


「「「HAHAHA!」」」


「確かにそうっすね、書記長の恋ばなが一番面白そうっすから、私がジャブ加えた方がいいっすね」


「せやな、ほんなら後のお楽しみにしときましょか。ほんでな、うち…恋ばなネタがなんも思い浮かばへんねんけど、どないすればええんや?」


「ああ、お前は相変わらず美人でかわいいけど、壊滅的に性格悪いからな…」


「性格悪い言うのは余計や!」


「「「HAHAHA!」」」


『…Baーdeeーya,deeーya,deeーya baーdeeーya,deeーya,deeーya baーdeeーya,deeーya,deeーya……』───。




 ───cut!





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