第92話 鬼はどこ?
◇
「ナギ!」
「おう、なんだ? 恵方巻きに油揚げ入れろって? 安心しろ、ちゃんと用意しているからさ」
「流石や、うちのことようわかっとりますな」
「ああ、そりゃウィラの前で油揚げをスタメン落ちにでもしてみろ? どうなるか想像するまでもないぜ?」
「せやで、食べ物の恨みはめっちゃ怖いで?」
「「HAHAHA!」」
「だよな、あたしはウィラの悲しむ顔より、幸せそうな笑顔が見たいさ?…それがなんとお揚げ一枚で叶うんだからな?」
「そらあれよ、コスパのええ彼女みたいなもんやろ?」
「ああ、おまけになんか良いこともありそうだ」
「そらな、うちはおケツネ様の化身やし、天使みたいなもんやろ?」
「……やっぱペテン師で」
「こらっ!」
「「HAHAHA!」」
「さて、ウィラ、あまり具を入れすぎるなよ? 全く、家庭科部の活動らしく、食べ物にまつわる行事は外せないよな…ところでさ、恵方巻きっていつから始まったんだ? こっちではあまり聞かなくてね」
「そら関西発祥やろ? 確かあれやな、江戸時代ぐらいから始まったんとちゃうか?」
「なるほどね、節分程歴史は長くないけど、ステイツの歴史よりは長いな?」
「そら節分は室町ぐらいからやったんとちゃうか?…知らんけど」
「「HAHAHA!」」
「ま、そのうち当たり前になって、どこかしこでも売られるようになるんだろうな……」
「せやな、そのうちあれや、消費しきれずに大量廃棄されてニュースになるんとちゃうか?」
「ありえるな……豆撒きも勿体ないとか言い出すかもな?」
「せやな、ほんなら袋かラップに包んで投げてもええんちゃうか?」
「それはいいアイデアだな。そう言えばあたしの地元、余った福豆を使った料理があるんだけど……」
「おっ、なんや、ちょっと気になるで?」
「ああ、その味、見た目は賛否両論だ。用意する材料は大根、人参、お揚げ…「お揚げ!」…ウィラ、落ち着けよ?」
「「HAHAHA!」」
「そらお揚げ入っとるんやから反応してまうやろ?」
「もはや本能だな。それから福豆、塩引き鮭の頭、酒粕を用意する。ま、それらを煮込むんだけど……」
「煮込んだらどないなるんや?」
「ああ、見た目は最悪だ……なんていうか、ま、あまりいい見た目じゃないんだ……」
「……なんか想像できたんやけど、それ言うたらあれや、もんじゃ焼きはどないやねん?」
「ああ~、そうだよな、お前からしたらもんじゃは邪道かもな」
「いや、別にうちは食べてみたいんやけどあれや、ちまちま食べなあかんから面倒なんとちゃうか? 知らんけど」
「確かに、今度やってみるか」
「おっ、そらええな。ほんでさっきのあれ、なんちゅう料理なんや?」
「ああ、しもつかれ って言うんだけど、鮭の頭の処理をちゃんとやればそれなりに美味しいし、パスタソースとしてアレンジすると中々いけるし、見た目も気にならなくなるよ」
「ほえ~、おまけにお揚げも入っとるんやろ? ほんならめっちゃ興味あるな」
「オーライ、塩引き鮭の頭が調達出来るかはわからないけど、代わりに塩鮭、もっと言えば鮭缶使えば手間いらずだ。アレンジメニューの方だけど、和風なサーモンクリームパスタっぽいものが出来るぜ?」
「ナギ」
「ああ、作るよ…お裾分けはそうだな、受け取り拒否されかねないからさ、二人で食べきれる量にしよう」
「ふっふっふっ、JKの胃袋は無限やから問題あらへんで?」
「…ジロー君インスパイアで何があったか、ちゃんと覚えているよな?」
「あ、そら言わんといてな?」
「「HAHAHA!」」───。
◇
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