第92話 鬼はどこ?








「ナギ!」


「おう、なんだ? 恵方巻きに油揚げ入れろって? 安心しろ、ちゃんと用意しているからさ」


「流石や、うちのことようわかっとりますな」


「ああ、そりゃウィラの前で油揚げをスタメン落ちにでもしてみろ? どうなるか想像するまでもないぜ?」


「せやで、食べ物の恨みはめっちゃ怖いで?」


「「HAHAHA!」」


「だよな、あたしはウィラの悲しむ顔より、幸せそうな笑顔が見たいさ?…それがなんとお揚げ一枚で叶うんだからな?」


「そらあれよ、コスパのええ彼女みたいなもんやろ?」


「ああ、おまけになんか良いこともありそうだ」


「そらな、うちはおケツネ様の化身やし、天使みたいなもんやろ?」


「……やっぱペテン師で」


「こらっ!」


「「HAHAHA!」」


「さて、ウィラ、あまり具を入れすぎるなよ? 全く、家庭科部の活動らしく、食べ物にまつわる行事は外せないよな…ところでさ、恵方巻きっていつから始まったんだ? こっちではあまり聞かなくてね」


「そら関西発祥やろ? 確かあれやな、江戸時代ぐらいから始まったんとちゃうか?」


「なるほどね、節分程歴史は長くないけど、ステイツの歴史よりは長いな?」


「そら節分は室町ぐらいからやったんとちゃうか?…知らんけど」


「「HAHAHA!」」


「ま、そのうち当たり前になって、どこかしこでも売られるようになるんだろうな……」


「せやな、そのうちあれや、消費しきれずに大量廃棄されてニュースになるんとちゃうか?」


「ありえるな……豆撒きも勿体ないとか言い出すかもな?」


「せやな、ほんなら袋かラップに包んで投げてもええんちゃうか?」


「それはいいアイデアだな。そう言えばあたしの地元、余った福豆を使った料理があるんだけど……」


「おっ、なんや、ちょっと気になるで?」


「ああ、その味、見た目は賛否両論だ。用意する材料は大根、人参、お揚げ…「お揚げ!」…ウィラ、落ち着けよ?」


「「HAHAHA!」」


「そらお揚げ入っとるんやから反応してまうやろ?」


「もはや本能だな。それから福豆、塩引き鮭の頭、酒粕を用意する。ま、それらを煮込むんだけど……」


「煮込んだらどないなるんや?」


「ああ、見た目は最悪だ……なんていうか、ま、あまりいい見た目じゃないんだ……」


「……なんか想像できたんやけど、それ言うたらあれや、もんじゃ焼きはどないやねん?」


「ああ~、そうだよな、お前からしたらもんじゃは邪道かもな」


「いや、別にうちは食べてみたいんやけどあれや、ちまちま食べなあかんから面倒なんとちゃうか? 知らんけど」


「確かに、今度やってみるか」


「おっ、そらええな。ほんでさっきのあれ、なんちゅう料理なんや?」


「ああ、しもつかれ って言うんだけど、鮭の頭の処理をちゃんとやればそれなりに美味しいし、パスタソースとしてアレンジすると中々いけるし、見た目も気にならなくなるよ」


「ほえ~、おまけにお揚げも入っとるんやろ? ほんならめっちゃ興味あるな」


「オーライ、塩引き鮭の頭が調達出来るかはわからないけど、代わりに塩鮭、もっと言えば鮭缶使えば手間いらずだ。アレンジメニューの方だけど、和風なサーモンクリームパスタっぽいものが出来るぜ?」


「ナギ」


「ああ、作るよ…お裾分けはそうだな、受け取り拒否されかねないからさ、二人で食べきれる量にしよう」


「ふっふっふっ、JKの胃袋は無限やから問題あらへんで?」


「…ジロー君インスパイアで何があったか、ちゃんと覚えているよな?」


「あ、そら言わんといてな?」


「「HAHAHA!」」───。







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