第91話 君のいる世界







「なんや、伊那先生めっちゃへこんどるんやけど、どないしたんや? またナギをナチュラルに口説こうとして逃げられたんか?」


「ああ、そうなんだよ。コウサカが乙女チックな青春を満喫しているみたいでね? さっきから探しているのに見つからないんだよ」


「おい、あたしはここにいるぜ?」


「ほんで生徒会室に来たっちゅう訳やな。せやけどな、伊那先生、ここには牛久大仏の置物しかあらへんで?…あ、ちょっと、いや、めっちゃよう動いとるで?」


「ああ、その牛久大仏とやらに退路を塞がれてるぜ? ノイマン、どうやら俺たちは最後の七不思議を見つけてしまったらしいな?」


「…おい知ってるか? 最後の七不思議を見た奴がどうなるか?」


「先生、うちな、高校生活三年間で素敵な彼氏が出来ればええな…って思っとったんやけどな、ここ一年でジャガイモしか来ぇへんし、うちは農協か? あかんわ、まだ二年残っとるはずなんやけどな…」


「ああ、確かに釣り合う男がいねえのはわかるけどさ、そもそもお前の性格が悪いからだろ?」


「ノイマン、こっちも似たようなものさ? 法と立場的にまだあと二年は必要だったんだけどな…」


「おい、もういいだろ? 生徒会室で先生と生徒がお茶をしながら楽しく話すのはいい。だがよ、お前らさっきからの寸劇はなんだよ?」


「そら、ナギが急におらんくなった世界やったらどないなるんやろ?…って、シミュレーションやで?」


「ああ、コウサカがいないとどうにも物足りないと言うのか、満ち足りてないね?」


「おいおい、どうしてそれがいつのまにか怪談話みたいになってんだよ! 勝手に三途リバーを泳がせるな!」


「「「HAHAHA!」」」


「ナギ、三途リバーの川幅ってなんぼか知っとる?」


「あ? 知らねえよ」


「流石のコウサカでも…泳ぐのはやめとけ」


「せやで、こら一説によるんやけどな、だいたい日本からインドぐらいの距離やで?」


「あぁ~、あたしの来世はイルカらしいな?」


「えっ、イルカ?…おいおい、イルカと戯れるキラーホエールがなんだって?」


「それな、ナギは芸達者やから水族館の人気者やろな?」


「おい、誰がキラーホエールだよ!」


「「「HAHAHA!」」」


「ほんまにナギがおるからな、うちらが楽しい毎日を送れて幸せやで? やっぱナギおらんかったら味気なさ過ぎるわ」


「だよな、こうして生徒会室で快適に過ごせるのはノイマンの働きもあるけど、コウサカがいるからこそだろ? 前時代的な先入観を捨て、新たな価値観を取り入れて大鉈を振るってさ、学校そのもののあり方まで変える流れに繋がったんだからな?」


「おほめ預かり光栄だね? まさかあたしもさ、生徒会役員として活動するとは思わなかったぜ?」


「そらそうよ、ナギが面倒くさがりながらもなんやかんやあれや、うちの我が儘に付き合ってくれてるんやから…ほんまにありがとうな」


「コウサカがノイマンと結び付いたことでこうなるとはね、全く予想してなかったけど…本当、生きてるとさ、不思議なご縁に導かれているとしか思えない出来事もあるのさ?」


「まるで魔法みたいだな?」


「そらあれよ、あんたは魔女みたいなもんかもわからんな?」


「あるいはその働きぶり、まるで鬼神の如しってところか?」


「おいおい、ファンシーなのか、神話なのか、ずいぶんとスケールがデカイ話だな?」


「いや、そらあんたデカイし牛久大仏やし、おまけにチョモランマ二つやしな」


「別に何も大袈裟な話って訳じゃねえだろ?」


「ああ、お前らが大袈裟にしているだけだろ?」


「「「HAHAHA!」」」


「ま、そらええねん。ナギ、そろそろチョコレート会社の策略の時期やで? また一緒に作るって約束したやろ?」


「ああ~、そう言えば最近学園内の空気が異質だったな…」


「コウサカ、ノイマン、ホワイトデーのお返しは手配しておくぜ?」


「おう、伊那先生にそう言われたってなればさ、変な事は出来ねえな? 気合いが入るってもんよ」


「ナギぃ、伊那先生向けのチョコはハート型、やろ?」


「………」


「ナギぃ? 急に黙ってどないしたんや? 先生を前にして気恥ずかしくなってもうたんとちゃうか?」


「…いや、そうじゃねえんだ」


「ほんならなんや? 今から怖じ気付いてしもうたんか? ナギ、牛久大仏が何怖じ気付いとんねん? シャキッとせんかいな?」


「…ウィラ、ハート型はやめよう…ヒビが入ったらさ、あたしがめっちゃへこむから…」


「コウサカが乙女モードになった…」


「めっちゃかわええな。ほんならあれや、先に豆撒いて邪気祓いせなあかんな」


「「「HAHAHA!」」」


「おい、誰が鬼だって?」


「福はうちやからなんも問題あらへんで? それよかな、あんたの乙女心を翻弄する鬼がここにおるやろ? ちょうどええな」


「俺が鬼役かよ!?」


「「「HAHAHA!」」」


「ま、確かにそうだな。先生は心を鬼にしないといけねえし」


「せやせや、節分やから…なんか間違いが起こって接吻しても豆撒きすりゃええやろ?」


「ああ、鬼の首を取られるように、俺のクビが飛ぶぜ?」


「「「HAHAHA!」」」───。






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