第89話 先生との約束…







「…あ、先生? あたしだ、あたし」


『おいおい誰だい? 新年早々に流行りの特殊詐欺か?』


「ナギだ、香坂 渚沙だ。先生、いくらなんでも人を掛け子扱いするのは酷くないか?」


『物騒な世の中だからな、一応警戒しないとね?』


「先生が騙されるとは思わないけど?」


『そりゃわからないぜ? 俺だって人間だし、こういうのはな、案外俺のような真面目な人間が引っ掛かるもんなんだぜ?』


「……先生が真面目? おいおい、現国の授業で英語を始めるあんたが何を言ってるんだ?」


『香坂、それお前が言うなよ?』


『「HAHAHA!」』


「だよな? ウィラもそうだけど、先生のおかげでさ、学校がこんなにも楽しいものなんてね」


『青春を楽しめているようで何よりだ。お前の入学を推した甲斐があったよ』


「おいおい、まさか伊那先生の独断か? も、もしかしてあたしに惚れちまったのか?」


『ああ、それもあるが…中学時代のお前を推薦した彼とは色々縁があってね?』


「あたしを推薦した人?…あぁ、ジェフか、ジェフリー・サマーフィールド先生か?」


『そうそう、彼とは留学先で縁があってね? ホームステイ先で出会って歳が近いのもあってか、彼とは仲良くなったものさ。彼もまた、俺と出会ったのをきっかけに、日本に興味を持ったからか、英語講師として来日したんだったな』


「そっか…それがたまたまあたしの学校だったって訳か。ま、不思議な縁だな」


『そうだな、ジェフの慧眼に感謝しているよ』


「あたしも感謝しているさ、ジェフのおかげで少しは中学を楽しめたし、高校に進学したら…ウィラと友達になれたし、伊那先生とも出会えた…」


『ああ、素敵なご縁だよ、本当に…』


「と、ところでさ…さっきのあれ…冗談、だろ?」


『なんのことだ?…ああ、香坂、お前はもっと自覚を持った方がいい』


「自覚? 学生らしくしろってか? 先生らしいこと言うじゃん?…やなこった」


『そうして欲しいのは山々だが、香坂が急にクソ真面目な優等生に?…おいおい、お前は槍を降らせるどころか、地軸を傾ける気か?』


「似合わねぇってか?」


『ああ、想像しただけで笑える』


「う、うっせーよ!」


『「HAHAHA!」』


『コウサカ、そうじゃねえんだ…』


「そうじゃなきゃなんだって言うんだよ?」


『お前のような最高にいい女に出会える、そんな機会なんて一生に一度あるかどうかだ…』


「せ、先生…い、いくらなんでも誉めすぎじゃねえか? それならウィラもそうだし、小幡だって…」


『俺の中では間違いなくお前が一番いい女だ…ま、卒業までは青春を精一杯満喫してくれ』


「…はいはい、せいぜい楽しませてもらうよ」


『はぁ、袖にされちまったぜ?』


『「HAHAHA!」』


「先生、あたしをからかうのは勘弁してくれよな?」


『悪い悪い、そう言うつもりじゃないんだけどな』


「先生がそうでも、あたしはまだ……先生、い、今のは聞かなかった事にしてくれよ?」


『………え? あんだって?』


「聞けよ!」


『「HAHAHA!」』


『ま、そんな訳で香坂、今年も一年よろしくな』


「こちらこそ、先生もいい一年を送れるといいな」


『ああ、あの時から最高の一年は始まっているさ』


「ジェフに感謝しないとな…そう言えば、今ジェフはどうしているんだろうな?」


『ジェフか、今年の春には帰国して向こうで仕事をするらしいな。あいつの奥さん、子供が出来たらしくてさ、家族で一緒に暮らしたいんだってさ』


「そっか…ちょっと寂しくなるな」


『ああ、帰国前に一緒にご飯でも行ってさ、送ってやろうぜ?』


「おいおい、断れねえじゃねえか…いや、嬉しいけどさ?」


『そのうち香坂にも知らせようとは思っていたけど、ちょうどよかったよ。ありがとう』


「ほんと、不思議なご縁だ…。ところでさ、ジェフはどこで働くんだ?」


『ああ、日本語を学んだことを活かして、貿易会社に勤めるって言ってたな。場所は…ニューヨークか』


「へえ、それじゃあ向こうが落ち着いたらさ、遊びに行こうぜ? その頃には卒業旅行かもな」


『いいね、もちろん俺も人数に含まれているよな?』


「当然だろ?…ああ、ウィラとかも誘ってもいいよな?」


『ああ、もちろん…ニューヨーク観光、そして"ワールドトレードセンター"をジェフに案内してもらおうか』───。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る