第87話 クリスマス明け







「今年もあっと言う間だったな…」


「ナギ、まだ終わっとらんで? うちら冬休みに入ったばっかや」


「いや、そうなんだけど、お前は実家に帰るんだろ?」


「せやせや、うち、実家に帰らせてもらいます」


「離婚寸前の夫婦かよ!?」


「「HAHAHA!」」


「そらな、うちらいっつも一緒やし、ナギはおかんやしな。うちはなんもせえへん旦那か?」


「なにもしない奴が実家に帰ってどうするんだよ? レアケースにも程があるぜ?」


「「HAHAHA!」」


「ほんならあれや、彼氏つくってな、実家に帰ります言うたらええやん?」


「お前はクリスマス前にそわそわしながら、駆け込んできた男子を何人葬ったんだっけ?」


「知らん。それ言うたらナギはどうなんや? ん? あんたな、目ぇ逸らさず正直にうちに言うてみ?」


「…意外と需要があることに驚いたぜ? ああ、供給は出来ねえけどな」


「そらそうよ、ナギは伊那先生しかあかんからな。せやけどナギ、あんたはめっちゃ美人やし、性格はキツいけどあれや、世話好きなおかんやん?」


「おい、性格のキツいお前がなに言ってるんだ?」


「うっさいわ! じゃがいもしかおらへんのが悪いんや!」


「「HAHAHA!」」


「それでクリスマスのバイトが終わってから、カラオケで ブリトニー・スピアーズ の My only with を熱唱? お前はいったい何を言ってるんだ?」


「そらうちもええ子にしとるんやから、サンタはんから理想の彼氏ぐらいくれてもええやん?」


「オーライ、お前が葬って墓標に刻まれた奴の名前、覚えているか?」


「ナギ、なんでうちが、自己PRどころか自己紹介出来へん奴の事故照会せなあかんのや?」


「脈が無い、全員もれなく無縁仏ってか?」


「「HAHAHA!」」


「ナギの宗教観、適当過ぎるんとちゃうか?」


「そりゃ両親が仕事でアメリカ滞在中にこさえたもんだからな? 本当、日本はおおらかすぎるのか、節操無いし、それよりもドイツクォーターのお前が言えたことか?」


「そらあれや、うち日本生まれ日本育ちやし、クリスマスも正月も祝うで? 強いて言うならあれや、クリスマスのシュトーレンは外せへんな」


「あれはうまいよな」


「ナギ、それ先に言わなあかんで? 来年の家庭科部、シュトーレンやってもええんちゃうか?」


「ああ、それいいな」


「ナギおるし、なんとかなるやろ。うちの家族に聞いとくから、年明けに試作やな」


「あたしが人数に入っているんだけど?」


「うちも入っとるから安心しぃ?」


「いつかその人数に、彼氏が加わる日も来るのだろうか…」


「それな、サンタはんにお願いしたんやけどな…」


「何故かこぶしの利いた My only with を熱唱してもどうにもならなかったな?」


「ナギ、クリスマスやし war is over や」


「ああ、また来年もよろしくな?」


「「HAHAHA!」」───。





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