第63話 家庭科部のアップデート
◇
「ふう、終わったぜ…お前ら、今度はちゃんと自分達でやれよ?」
「ナギ、そら無理なんとちゃうか?」
「あ?包丁の研ぎかたなんてさ、コツを掴めばなんとかなるだろ?」
「いや、何とかならんから苦労したんとちゃうか?」
「確かに。なんでみんな知らねえんだろうな? 砥石の水分量の管理、なるべく全体を使うようにして平面を保つこと、包丁の角度を一定にする事、切っ先は"し"の字を書くように引けば大抵何とかモノになるぜ?」
「…ほな、ナギの言うことわかった人は手ぇ上げてみ?………誰もおらんで?」
「…おいおい、家に砥石ねえのかよ?」
「そらあるんやったらな、家庭科室の包丁、少しはマシやったんとちゃうか?」
「ああ、そうだった」
「「HAHAHA!」」
「ま、あんたのおかげで家庭科室の包丁、まともになったん言うか…これ、危ないとちゃうか?」
「ああ、切れない包丁のやり方に慣れた結果、先入観を捨てないと指を落としかねないぜ?」
「せやな、もうちょい家庭科の教科書な、掘り下げんとあかんとこあるで?」
「ああ、基本はあるけどさ、それならもう少し踏み込んで怪我しにくい方法を載せた方がいいだろうな」
「いや、それ家庭科やなくて、調理師学校なんとちゃうか?」
「ああ、確かに」
「あんたマニアック過ぎるやろ?そら…最高においしい料理作れる訳や」
「そいつはどうも…さて、これで研屋に出さずに済んで部費の節約にはなったな?」
「そら包丁を処分せんで済んだし、新しく買う必要も無くなったんやからな…これ、新品よりもええんとちゃうか?」
「だろ?…ま、砥石代は高くついたけどさ」
「そらな、あんたが栃木のセラミック砥石や無いと嫌や言うたんとちゃうか?」
「…ああ、そこだけは譲れないし、この仕上がりの早さと出来を見てみろよ?…結果は上々だろ?」
「それな、あんたが譲らん理由もわかるわ」
「ああ、基本的に包丁が欠けない限り、このオレンジをマストにして問題ない。ま、普段から研ぐならさ、あたしはブルーを基本に据え、あとは仕上げにエンジさえあれば大丈夫だ」
「………いや、なに言うてるかわからへんで?」
「「HAHAHA!」」
「ま、そうだろうな。砥石は粒子の細かさで分けてあるからさ、目的にあった使い方をしてくれって話さ」
「順番逆やったら意味あらへんからな?」
「そう言うことだ、しかし50本も研がなきゃいけねえってさ、どんだけ放置してたんだよ?」
「いや、全部あんたがやるなんて誰も想定しとらんやろ?店か!」
「「HAHAHA!」」
「おかげで手が真っ黒だ。これ、中々落ちねえんだよな、特に爪の間」
「そらナギが頑張ったあかしやで?お疲れ様」
「ああ、ありがとう。…さてお前ら、ここまで見ていたんだ、包丁の研ぎかたはわかったか?」
「「「…無理です」」」
「職人の道は遠すぎるで?」
「「「「HAHAHA!」」」」
「オーライ、お前らが卒業するまで出来るようにしてやるよ」
「ほんまナギが入部してから、求めるクオリティが変わりすぎるんとちゃうか?」
「ああ、顧問の負担は軽減されるだろうな」
「いや、立場あらへんから胃が痛くなるんとちゃいますか?」
「…確かに」
「「「「HAHAHA!」」」」───。
◇
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