第15話 バレンタインの思い出は?
◇
「バレンタインチョコの思い出?」
「せやせや、あんたも友チョコぐらいやったことあるやろ?」
「ああ、あれは友チョコだったと思いたいよ…」
「そらあんたは女子にモテモテやからな…、どんだけ貰ったんや?うちにもっとヤキモチ妬かしてみぃ?」
「5kg…」
「………ナギ、嘘はあかんで?うちはなんぼもろたか聞いとるんや?」
「5kgだ、業務用のチョコだけでな」
「業務用のチョコだけ、ってなに言うてはるんや?…えっ、そらまさかな、作る方の話とちゃいますか?」
「ああ、ナッツや生クリーム、バター等の材料を除いてな、単純に製菓用のチョコを業務用サイズで買ったんだ。ま、イベントだから思いきったって訳さ」
「ほえぇ~、もう店やん!」
「「HAHAHA!」」
「ま、義理でもなんでもお返しをさっさと済ませたいし、あたしがホワイトデーの事を考えなきゃいけないのはおかしいだろ?」
「せやな、まあナギの事だから評判よかったんとちゃうか?」
「もちろんだ、ま…キッチンから一週間ぐらいチョコの匂いが取れなくて…、あたしはチョコを嫌いになりかけたよ」
「「HAHAHA!」」
「そらしゃーないな。しっかしあれやな、本命チョコももろたんやろ?」
「ああ、手紙が入っていたりしたけど、あたしのお返しと共に丁寧に対応したよ…うん、色々と心苦しかったけど」
「あんたは優しいからな…、ファンからしたらそら自分の想いが通じはせんけどな、ちゃんと応えてくれとるから…、あれか、今でもあれなんか?」
「そうだよ、ある意味地元へ帰るに帰れないし、現住所も教えたくないね…うん、お祭りみたいなものとはいえ、我ながらやり過ぎたよ」
「そらな、うちもナギの手作りチョコ食べたいわ…、はよバレンタインにならんかな?」
「おいおい、いくらなんでも気が早いだろ?まだ一学期だぞ?」
「ええねん、ほんなら今のうちに予約せなあかんな」
「そいつはどうも、早期予約キャンペーンの特典はつまみ食いか?」
「「HAHAHA!」」
「そらな、色々とつまみ食いしたいに決まっとるやろ?…それともうちがつまみ食いされてまうんか?…、か、かめへんで………」
「おーい、帰ってこーい」
「「HAHAHA!」」
「そんでな、あんたたくさんもろたんやろ?どやった?」
「ああ、包装が嵩んだだけでこっちの原材料分以下の重量だったよ」
「そらそうやろ、ショコラティエ・ナギと比べたらあかんな」
「「HAHAHA!」」
「そうだな、ま、頂き物にケチつけたくないけどさ、クオリティは玉石混淆…。よく言えば個性的っちゃ個性的、それぞれの将来を予想できて楽しかったよ」
「せやな、愛情だけではどうにもならへん。そら技術と経験の問題やからな」
「ああ、方向性を間違えた上、自覚の無いままの愛情なんてただ重いだけさ…。知識や経験の問題は今思えばかわいいもんだけどさ…。例えばさ、砂糖の種類を知らないのか、分量も愛で乗りきろうとして溶けきらない上白糖の塊がジャリジャリした甘ったるい砂のようなもの。生クリームや牛乳で伸ばさず、ただ溶かして冷やし固めただけの溶岩石のような大きなチョコの塊で歯が折れるかと思った代物。味見しない結果の惨劇、初歩的な塩と砂糖の取り違え………うん、まともなのはほんの一握りだったよ。あたしは二度とやりたくないね」
「そらえらい大変やったんやな…ま、安心してや。うちはそんな失敗せーへんから」
「おいおい、失敗は成功の母だぜ?」
「そらうちも成功するまではな、失敗してまうおかん頼りやったんやで? ナギには及びまへんけどな、…うちの気持ちと腕前を見とって欲しいな?」
「ああ、楽しみにしている…そうだ、バレンタインには遠いし気が早すぎるけど、たまには甘いもの食べに行くか?」
「おっ、賛成や!どこ行きはりますか?」
「それは財布に聞いてくれ」
「「HAHAHA!」」───。
◇
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