ライオンは強い 5

 俺をスバルがダイニングに運んで3人で食卓を囲んだ。「足が無えのに重いな」と悪態をつかれたのが何か気に入らなくて足で蹴ったらまた喧嘩になりかけた。アンに嗜まれつつ席に座らせてもらい、スバルに目玉焼きの好みを聞かれたから答える。しばらくするとリクエスト通り、半熟の目玉焼きの乗ったハンバーグが出てきた。

 何も言ってないのに、コーヒーじゃなくてあったかいお茶が出てきた。まだたくさんあるから遠慮するなという言葉付きであったかい丸パンが2個出てきた。それと、さっき焼いていたらしき肉がサラダ付きで綺麗に皿に盛られている。肉からは肉汁と湯気が立って、いい匂いが部屋中に立ち込めている。


 数年ぶりに見たまともな食卓だった。食べていいのか分からなくてしばらく砂の山でも見るようにぼぉっとそれを見渡したけど、アンが「たくさん食べてね」と言って微笑みかけるので、俺の前に置かれた料理は本当に俺の分なんだと理解できた。


「食事をいただく前に、あなたに聞いておかなきゃいけない事があるの」

「……なに?」

「お名前は?」


 一瞬、俺があの部屋で何をしていたのかを聞かれるのかと思い身構える。ただ、名前を聞かれただけだった。


「……………………玲音。手嶋玲音」

「ファーストネームがレオン?」

「うん」

「レオン、いい名前ね。私その名前好き。改めて私はアン。シスターアンよ。で、この人はスバル。私の仕事の手伝いしてくれてる人。食事はほとんどスバルが用意してくれているからお腹が空いたらスバルに言ってね。私は果物剥いてあげるくらいしかできないから」

「……何で、助けてくれたの」

「うん?」

「何で俺があそこにいるって……」

「うふふ、先に食事にしない?スバルが作ってくれたご飯が冷めちゃうからね」


 アンはウインクすると、スバルと一緒に食前の祈りだという呪文みたいな言葉を早口で唱える。キリスト教の祈りっぽかったのに最後は「いただきます」と日本語で締め、各々好きなものから食べ始めた。


 2、3日食べてないから胃が受け付けないんじゃないかと思ったけど、自分でも驚くくらいの量を食べた。パンに歯型をつけると、肉をナイフで切らずにそのまま齧り付いて無理矢理食いちぎった。パスタを啜ったらトマトスープを飲んで、サラダの中でもトマトだけ選んで食べた。胃にパンと肉がゆっくり落ちていくのが分かる。腹は最初の2倍くらいに膨らんだけど俺は構う余裕もなく食べられるだけ食べようと思ってどんどん口に入れていった。

 少し椅子が低いせいか机の上が食べ溢しで酷い有様だ。だけど俺はそんなことを気にかけている暇はなかった。久しぶりのまともな食事を味わうのに必死だった。


「どんな躾されてんだ」


 スバルがドン引きしていたけど、アンはにこにこしながら食事をしている。


「レオンくん、私のデザートのチョコプリンを食べてもいいわよ」

「ほんとにっ!?」


 チョコプリンという単語に俺はつい目を輝かせる。


「だから、欲しいなら私のいうこと聞いてほしいな。噛んで、食べて。ね?丸のみはお腹に悪いから」


 遠回しに叱られたと分かったけど素直に言うことを聞くことにした。チョコプリンが魅力的すぎたから。


 大人2人が何かを相談している間チョコプリンを3人分平らげた。濃厚なチョコソースにあっさりしたチョコレートムースの組み合わせが見事だった。差し入れだと言われて食べた有名店のプリンに味が似てたなと思いながら、俺はげっぷを出してぼーとしてた。お腹いっぱいになったから眠くて仕方ない。このまま寝ちゃおうかな……と意識がもうろうとしてきたところに急に体を持ち上げられた。急いで目を見開くとスバルが俺の事をお姫様抱っこでどこかに連れ去ろうとしている。

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