ライオンは強い 4
「おはよう!目が覚めた?」
「………………あの」
「言葉大丈夫よね?あなたサイズの翻訳リングあったから着けといたわ。無くさないでね」
アンは俺の右中指をツンツンとつつく。幾何学模様の入った銀色の指輪が嵌められていた。
「これがないとあなたと私は会話ができないのよ。指はキツくない?キツいなら、他にもサイズあるから言ってね。すごく丈夫だし、水に濡らしても大丈夫だから、手洗いする時も外さずにつけておいてね」
「………………あ、あの」
「私、アンよ。アンちゃんって呼んで」
「あ、アンちゃん?」
「そう♡」
「起きたかクソガキ」
なぜかブリブリのエプロンを着たさっきの男が鬼みたいな顔をして俺を見下していた。
俺はこの時初めてこの男の顔をまじまじと見た。そこそこ身長があって、アンよりは年上に見える。黒髪を無造作にオールバックにしていて、生え際に黒子があった。
たれ目以外は特にこれといった特徴のない所謂塩顔と言うやつだ。なよっとしていて頼りがいがなさそうなのにアンはこの男とずいぶん親しいみたいだ。その証拠に、この男は俺の事を敵意に満ちたような、それか道端に落ちてるゴミでも見るかのような目つきで睨みつけている。
「まず、アンさんにセクハラしたことを謝罪しろ」
これがスバルとの最初の会話だ。
ただ寝ぼけていた俺は『セクハラ』が何のことだかすぐに思い出せず、スバルの威圧的な態度には真っ先に苛つきを覚えた。
「……は?おっさん誰?」
「――――オッサ!?」
売り言葉に買い言葉で一瞬で男2人の間に火花が散る。アンは「やばっ」と言葉を溢すと、客に吠えるバカな犬を押さえる飼い主みたいにスバルをあやしていた。
「もースバル私は気にしてないって!ね?落ち着いて〜」
「…………とにかくっ、飯できましたから!食べますよアンさん!」
唸り声の幻聴が聞こえそうな程、明らかに苛つきを隠せていなかったスバルだったけどアンのおかげで大人しくなった。
「ねぇ、あなたもお腹空いたでしょ?体力は回復させたからすぐ食べれるはずよ」
「回復させた?」
「んふ、お姉さん魔法使いだから」
人間業ではないことが聞こえて思わず聞き返した。アンは俺の反応にくすっと笑うと、「食べるのに邪魔ね」と、しばらく風呂に入ってない俺の髪を気にせずに摘まんで、伸びすぎた前髪をヘアピンで留める。
「あら、かわいい顔」
頭を撫でられた。
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