ライオンは強い 3
2、3日が過ぎた。元々栄養失調気味だった俺はベッドの上で早くも限界を迎えていた。何十回も幻肢痛に悩まされるし最悪だ。
水分を節約するために唾を飲んでいたけどそれも限界が近付いていた。ポットの中身はついに空になってしまっていた。
きっと廊下で死んでるジョシュアのおっさんも干からびて腐り始めてるんだろうな。
俺をおもちゃにして楽しんでたことは許さないけど今までで一番ましな客だったから、そう思うと、あのままなのはちょっとかわいそうな気もする。けど、じゃあどうすればいいのか、というのは喉の渇きと空腹感でまともに考えられない。
「うわ! ん!ジョシュアさん死んで よ」
周りの音が全部、プールにもぐっている時みたいに低く響いていたから、バタバタと音がしたのにも最初は気付かなかった。久々に日本語を聞いても、俺は最初それを言葉だと認識できなかった。
『~~~~~。~~~~~~~~~』
「分かってます。 、車に積んでまし け?」
『~~~~』
「あっ さんダメです。 さんだろうと触っちゃだめ 。俺がやるんで ください」
『~~~~~~』
「 なんて最後で ですから!」
……なんだ?何語だ?
『……、~~~~~~』
「え?ジョシュアさんって 暮らしでしょ。誰が ですか」
『~~~!~~~~~!~~!』
男の声と女の声がする。
「あ………」
体を起こして必死に声を出した。その合間に誰かがドタバタと廊下を走って玄関に出て行ったかと思うと、すぐに戻ってくる。
そして何か引きずる音の後、鍵の開く音がした。すぐにばんっと音を立てて扉が開いた。
『~~~!』
外国人の女だ。シスター服を着た、明るい茶髪で、そばかすのある大学生くらいの年齢の女だ。ファンタジーアニメに出てくるような見た目だから俺は夢でも見ているのかと思ったけど、シスターは俺を見た瞬間、顔がサッと青ざめて俺目掛けて飛んできた。
『~~~?~~~~!?』
シスターは目もまともに開けられない俺の肩を揺らすと、男へ指示を出すような強い口調で話した。体が揺さぶられる感覚からして夢ではなさそうだ。
シスターの胸を背もたれにするように抱きかかえられた俺は、男の持ってきた水筒の水を何口か飲まされた。そのままの体勢でシスターが俺の両手を握ると、何か訳の分からない呪文を唱えている。しばらくすると手やちぎれた足先がポカポカと温かくなってきて、不思議と力が注がれている気分になった。
「子供?ジョシュアさんの息子さんですかね」
『…………。~~~~~』
「え、あの人そういう趣味が……キモ」
このシスターは魔法使いだろうか。少しだけ元気になったような気がした俺の聴力はまともになって、会話が聞き取れるようになった。
「この子、足ないんですけど」
『〜〜〜?』
「いや、車椅子とかは無さそうっすね……』
「……おにーさんたち、誰……?」
「え?」
絞りだした声で質問をすると、男の方がびっくりした顔で俺を見る。
「俺、助かるの……?」
「お前、日本人!?」
流ちょうな日本語で話す、サラリーマンくらいの年齢の男が聞き返してきた。
「アンさん、こいつ僕と同じかも」
『~~!?~~~~、~~~~~!!』
「は!?指輪外したら僕が話せなくなるじゃないですか!」
『~~!~~~!~~~~~~!』
「わかったわかったわかったわかった!指千切れる!」
女の人は男の指から無理やり指輪を外させると、俺の親指にそれを嵌めなおした。ブカブカだからか、指輪と皮膚が密着する様にぎゅっと上から握られている。
久々に、柔らかい皮膚が俺に触れた。ふかふかで骨が出てなくて、俺とそんなにサイズの変わらない手のひらは暖かくて、ママと手を繋いだ日を思い出させるには十分な体温だ。汚いおっさん達とは違う、きめの細かい肌の女の人の皮膚だ。
「~~~あ~~~~~~~、あ、あ、あ、あ。あ!あああ!ねぇ、聞こえる?言語設定はスバルのままでいいはずだよね。ねぇ君、私が何て喋ってるかわかる?」
感情に浸ってる暇もなく、さっきまで意味不明な言語で話していたシスターが急に流暢な日本語で話し始めた。意味はわかるけど突然すぎるネイティブな言葉遣いに呆気に取られた俺はつい口を詰むんだけど、シスターはそんな俺にお構いなく話を続ける。
「私は、アン。シスターアンです。あなたを助けに来たの」
これがアンと出会った最初の日の記憶だ。
「ねぇ、あなた大丈夫?ずいぶん瘦せてるけど、ご飯食べてないんじゃないの?力は少し注いだから死にはしないわ、でも休息が必要なはずよ。とりあえず我が家に運ぶけどいいわよね?」
手を握ったまま話しかけてくれるアンの顔をまじまじと見た。そばかすはあるけど肌は綺麗だ。金髪と茶髪の中間みたいな色の髪は多分天然で、ボブカットで揃えてる。
歳はきっと俺より上だけどまだ若い。透き通る青い瞳のせいで外国人かと思ったけど、日本人っぽさのある顔立ちだからハーフかもしれない。結構美人だ。
あー、それにこの人、服の上からだと分かんないけど、頭にふかふかの肉があたってるから、俺の予想は多分合ってる。
おっぱいが大きい。
……そうだ。思い出した。
「………………お姉さん」
「喋れる?大丈夫?」
「……俺とエッチして」
俺、可愛い彼女を作ってエッチしたい。
突然の救出劇に俺の頭はきっとハイになっていた。最低すぎるお願いを聞いたアンは、あははと困った様に笑ってから「ちょっと、眠っててねー」と言って俺の瞼を手のひらで覆い隠した。
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