芋煮会をしよう 2

「どれ、私も仕事をやろうかな」


 よいしょと立ち上がると立ち眩んだ。視界が淀んで一瞬だけ足元がおぼつく。大丈夫ですかと駆け寄り私の肩を掴んだアンちゃんに「年を取るのは嫌だね」と照れ隠しで笑いながらしゃがむと、泥の付いたままのサトイモを手に取ってバケツで洗った。洗ったサトイモはレオンくんが皮を分厚めに剥いていく。スバルくんに「丁寧にやれよ」と注意され、うるさいなと悪態をついたけど、丁寧になった手つきを見て、根は素直なんだよなと思い微笑ましかった。

 

「こんなに太ったサトイモが手に入るなんてねぇ」


 丸々太ったサトイモを皺皺の手で取りながら私が話した。本来このサトイモは近所の人が若者3人に分けた物だけど、以前私が芋煮会の話をしたことがあったことを思い出したレオンくんが「サトウさんにご馳走しよう」と提案してくれて、それで今日は3人の夕食兼芋煮会にお呼ばれしてもらったのだ。

  

「そもそも、お芋って種類があるんですねぇ」

「え?」

「今の今まで、あれもこれも芋は全部お芋って名前だけだと思ってました」


 サトイモを寄り目になるほどまじまじと見ながらアンちゃんが真面目なトーンで話すのがおかしかった。確かにアンちゃんが料理を好むという話は彼女の亡くなった母親から聞いたことがない。

 

「ははは、それは流石に違うねぇ。そもそも見た目全然違うでしょう」

「個体差かな〜って」

「聞いてよサトウのおっちゃん。アンってば朝『サトゥイモってこれとどう違うの?』って、ジャガイモと比べてたんだぜ。全然違うのにさー。アンは料理に興味なさすぎるよ。嫁にいけねーよ」

「まぁーレオンくんったらアンちゃんに惚れてたくせに」

「はぁ!?惚れてねーし!」


 色白の肌を真っ赤にしながら反論する。彼はまだ若いから、こんなふうによくいじられているのを何度も見てきた。

 

「いざとなったら貰ってくれるんじゃないのぉ~」

「もう忘れたし!」

「あー酷い振られた!えーん、ねぇスバル~レオンくんに振られた~」

「レオン、明日の朝飯抜き」

「スバルにチクんなし!」

「ははは。お姫様を振るなんて罪な男だねぇレオンくんは」


 青春だなぁ。私は口から出かけた野暮な言葉を胸内に隠して、芋を剥きながら3人のやり取りを微笑ましく思っていた。

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