第8話

 その後、葵と別れ家へ帰った。コートを脱ぎ、ハンガーに掛ける。リュックを置き、ベッドに飛び込む。

 目を閉じて考えた。本当に私が会いに行っていいのか。また莉桜のことを傷つけるんじゃないか。あの時の莉桜の顔が、言葉が頭に浮かぶ。

「このままじゃダメだ」

 このままずっと莉桜から離れていったらダメだ。なんで怖がってるの。莉桜に会うだけだよ。いつものように、笑いあって話をするだけなんだから。

 ふと思いつき、ベッドから立ち上がる。クローゼットに近づき、扉を開ける。奥に眠るギターを取り出した。

 ケースから出し、その体を優しく撫でてみる。その感触は、昔と変わらず私を迎えてくれた。

 ギターを構え、音を出す。あの時沢山聞いたあの音が耳をくすぐる。莉桜と一緒に毎日弾いた曲を弾いてみた。懐かしいメロディーと共にあの時の記憶が蘇る。放課後、河原で2人笑いあって、自由に弾いていたあの記憶。

(もう一度あの頃みたいに笑い合いたい)

 そう思った。

「あーあ。ダメだなぁ」

 そう言って少し笑う。もう何年も弾いていなかったから指が鈍っていた。ギターをしまい。机に置かれたままの栞を見て願った。


『また2人で笑い合える日が来ますように』

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