第7話
「それからギターは弾いてないし、会いに行ってもない。莉桜を傷つけるから」
そこまで話した私は、一気に水を飲む。
「それから鏡見ると、なんで私はここに居るんだって。罪悪感で押しつぶされそうになる。この世界から色が抜けてくんだ。だから、もう音楽の事も、莉桜と過ごした日々も忘れようとした」
私は空のコップに水を注ぎ、もう一度水を2口飲んだ。
そこまで一言も発さなかった葵が口を開く。
「なんで会いに行かないの?」「合わせる顔が無い。莉桜も来るなって言ってたし」
「4年だっけ?」「うん」
「その子とは親友だったの?」「そう」
この子は何を言ってるの? 私は莉桜のことを考えて、病室にも行ってないし、ギターも弾いてない。
「忘れようとしたって言ったよね。でも栞も今まで持ってるし、思い出だって沢山覚えてるでしょ。だいいち、今日の小春なんかテンション高かったし。忘れられない大切な日常だったんでしょ? 」
「…………」
沈黙の帳が降りた。
数分後、痺れを切らした葵が口を開いた。
「私ならイヤでも会いに行くよ」
「……それは葵の性格でしょ」
「まあそれはそう。でもさ、親友なんでしょ。どうやって2人は仲良くなってったの? 」
「それは……」
言葉に詰まる。私の次の言葉を待たずに葵は続ける。
「互いに傷付け合って、でもまたその傷を慰めあって。互いに興味を持ちあって、受け入れて、足りない所を埋め合って、そうやって仲良くなってきたんでしょ? 傷付けあったそのままで放置して、それって親友って言えるの?」
「……」
答える事はできなかった。
「小春はさ、その子を傷つけるのも嫌だけど、また『来るな』って言われる事の方が傷付ける事よりも少しだけ怖いんじゃ無いの?」
また図星を付かれ、言葉に詰まる。
「じゃあもう明日、会いに行きな」
「いやでも流石に……」
「大丈夫だって! 失った時間は戻らないけど、これから取り戻す事は幾らでもできる」
そう言って葵は私の手を握った。葵の手の温かさが伝わる。
数十秒考えてから
「分かった。行ってみるよ」
と私は言った。
「行ってらっしゃい。応援してるよ」
葵は微笑んだ。
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