第4話
『小春はさ、なんでいつも花ばっか見てるの?』
不思議そうな顔で言うあの子。
『そっかじゃあ私も花好きになる!』
満面の笑みで言うあの子。
『そんな細こと気にしなくて良いんだよ。適当で』
いつも励ましてくれたあの子。
『小春にはこの苦しみ分かんないよ!』
『もう帰って!』
私に対して全力で怒ったあの子。
あの時の莉桜の顔は忘れられなかった。あれ以来私は莉桜に会っていない。連絡も取っていない。
(ごめん。できることなら私が変わってあげたい。わたしのせいだから)
と心の中で沢山謝った。無駄なのは痛い程分かってる。でも、会いに行けない。またあの子を傷つけちゃうから。
軽く頭痛がしてこめかみをを押さえた。大きな溜息を吐き、栞を机に置く。
「忘れよう。考えてたらキリがない。適当で良いんだよ」
立ち上がり、床に広がった教科書をリュックに入れた。時刻は7時59分。そろそろ出よう。
昨日着たコートに腕を通す。リュックを背負い、靴を履く。扉を開け外に出た。しっかりと鍵を掛ける。
「よし。頑張ろう!」
そう言って目の前を見た。そこには澄み渡る青い空が広がっていた。マンションの階段を降りて行く。大学まで歩いて15分ほどだ。
春の匂いがする街を歩く。途中、桜並木を通った。今年も桜は満開だ。大きく息を吸い込む。春の空気が肺の隅々まで行き渡った。少し心が晴れた。
また歩き出した。5分程歩いた時、後ろから声をかけられた。
「こっはるー! おはよう!」
「ん? あっ葵じゃん。おはよう」
振り返ると、そこには同じ大学に通う可愛い女、
並んで歩きながら、
(やっぱ顔が良いな。女の私でも彼女にしたい)
と考えた。
身長は157の私より少し低いが、同い年なのに大人びて見える。多分、顔と雰囲気のせい。
大きな二重の目に桜色の唇。筋の通った鼻。普通の人とは違う、どこか儚くて、触れたら壊れてしまいそうな雰囲気。
そこに惹かれるんだ。
葵はいつも笑ってる。ずっと笑顔でいる。そう。この子は莉桜に似てる。人より大人びているところ。儚くて、簡単には触れられないところ。それに何より、いつも笑って前だけを見つめているところとか。
でも1つだけ違う。絆の深さだ。葵とは出会ってまだ3年。だけど、莉桜とは小学生の頃から一緒に居る。
でも、今の私と莉桜に絆があるかって聞かれたら、なんて応えればいいか分からない。
「ちょっと小春聞いてる?」
「えっ、あっうん聞いてる聞いてる」
びっくりした。ずっと話してたのか。
(ダメだな。栞見つけてからずっと莉桜のこと考えてる。忘れよう)
勿論話なんて聞いてなかったので、このまま話されたら困る。強引に話題を変える。
「てか葵さ、その向日葵なんでいつも付けてるの?」
「ん? あ、これ?」
そう言って葵はカバンに付いてるアンティーク調の向日葵のキーホールダーを手に取る。
「うーん。なんて言ったら良いかな〜。簡潔に言うと、大切な人を忘れないため、かな」
そう言って葵は微笑んだ。
「大切な人って?」「教えなーい!」
「どうして?」「どうしても」
「ケチ。あ、もしかして彼氏とか?」「違うよー」
そんな話をしていると、大学の手前まで来た。生憎? 私達は違う講義を受けるのでここで別れる。
「んじゃ、また」
そう言って私は小さく手を振る。葵が手を振り返してくれた。
「大切な人、か。」
私は小さく呟いた。
(大切な人がいるのか。いいな)
そんなことを思い、私は歩みを進める。頭には莉桜の笑顔が浮かんでいた。
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