第3話

 私を襲ったコーヒーと、焼きたてのトーストが乗ったお皿を持って教科書だらけの机に向かう。また大きな溜息を吐き、私は腕で教科書を机から落とした。マグカップとお皿を置く。

 フローリングの冷たい床に腰を下ろした。

「ん? なんだあれ」

 机の下に何かが落ちている。手を伸ばし、それを拾った。見ると、それは桜の花を3つ、紙に貼り付けた栞だった。

「うわ懐かしー!」

 それは私が中学生の時のこの時期、友達の北瀬莉桜きたせりおと共に作った物だ。私が桜で、莉桜が勿忘草。どっちも春の花だった。

「どっから出てきたんだろ」

 まあ良いか。

(あの頃は楽しかったな。2人で沢山夢を追いかけて)

 そう物思いにふけっていた。

 ふと窓際に目をやる。そこには、小さな勿忘草がこの汚い部屋を見下ろすように咲いていた。まるでこの部屋を嘲笑うように。可愛く咲いている。(汚い部屋でごめんなさいね)

 そう心の中で毒を吐く。

「あぁ、こんなこと考えてると遅れちゃう。」

 栞を机に置き、急いでトーストを口に運ぶ。サクッと心地よい音が鼓膜を揺らす。コーヒーを本当に少しだけ口に含んだ。さっきよりも冷たかった。適温だ。

 時刻は7時18分。学校に行く準備をしよう。部屋着から、ふんわりとした桃色の長袖ワンピースに着替えた。小さな花があしらわれている可愛い服だ。

 そして、髪を三つ編みに結いお団子にした。アイロンで前髪を巻く。触覚も忘れずに。

 百均で買った鏡を机に置き、メイクをする。薄い赤色のリップを付け小さく一言。

「よし。今日も可愛いぞ。三波小春!」

 自分を励ました。

 時刻は7時46分。少し早起きしたからか、まだ少し時間がある。

 小さく息を吐き、机に置かれた栞を手に取り見つめる。すると、あの子の声が頭に響いた。

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