第8話

 それ、答えになってないんじゃないかな。……まあ、いいか。わたしも同じこと聞かれたら、たぶん、同じようにしか答えられないし。

「現実のわたしと、頭の中の子供の頃のわたしと、どっちと話してるときが楽しいの?」

 そんなこと聞いてどうするんだ、と自分でも思う。でも、聞かずにはいられなかった。哲司はなんて答えるだろう?

「ううん? そうだなあ……。ガキの頃のおまえかな?」

「そ、そうなんだ……。はは、わたし、中学生になってつまんない人間になっちゃったのかな?」

「や、俺、今のお前のことほとんど知らないし、こうして話すのも何年ぶりかじゃん。だからだよ。それに、ガキの頃の、お前との時間は、本当に楽しかったし」

 うん、まあ確かに。あの頃は今みたいに、勉強のこと、将来のこと、だるい人間関係のこと、ここまで考えなくてよかった。あの頃は、ベートーヴェンがいなくても、哲司とシール集めなんかしてるだけで、毎日楽しく生きていけてた。

「たまにはさ、こうやって会って、また話したりしないか? なんとなく疎遠になってたけど、幼馴染だしさ」

「え? やだよ」

「なんでだよ? 俺、現実のお前とも、こうやって――」

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