第6話

「おまえ、足早いよ。追いつかないだろ」

 なんと、後ろを振り向くと哲司がわたしを追いかけて、走ってきた。

「げっ、なんでいるの?」

「なんでいるの、じゃねえだろ。突然飛び出してったりなんかしたら、心配するだろ」

 心配? 哲司がわたしのことを? なんの冗談だ。馬鹿馬鹿しい。

「おまえ、今、心の中で馬鹿馬鹿しいって言っただろ」

「へ? なんでわかるの?」

 言い当てられてびっくりした。

「大体わかるんだよ。ガキん頃はずっと一緒に遊んでたじゃねえか。いっつもおまえ、馬鹿馬鹿しいって口癖みたいに言ってたし」

「何年前のこと言ってるの?」

「……そりゃ、まあ、そうなるけど。でも、わかるんだよ。俺には、お前の考えてることが……(いつも、頭の中で昔のおまえと話してるからな)」

「え? なんか言った?」

「いや、なんでも」

 哲司はバツが悪そうに、頭をガリガリッと掻いた。

「あ? なんか気になることでもあんのかよ、んなじっと見て……?」

「ううん。何でもない」

 哲司がそばに来てから、今度は途切れがちだったベートーヴェンの音楽が頭の中で復活していた。声は、まだ聞こえないけど。とりあえず、よかった。

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