第2話

 でも、このことを誰にも言いさえしなければ、わたしの思考は自由。いつ、頭の中でベートーヴェンと一緒に花園を駆けようと、地獄を散歩しようと、咎める者はいない。当然だ。内緒にしている限り、わたしたちの恋仲は安泰なのだ。

 学校で一日誰からも話しかけられなくても、ベートーヴェンはいつもわたしに愛とは何か、を語り掛けてくれる。終業のチャイムが鳴るまでずっと。

 むしろ、生きている人間は、わたしに話しかけ、邪魔してくれるなと思う。二人の崇高な時間を、くだらない話題なんかで割り込まないでいただきたい。わたしとベートーヴェンにとって、社会とか、道徳とか、知恵とか、そんなもの、どうだっていいのだ。そんなもの、生きていく上で邪魔にしかならないし。

「おまえ、さっきからなんか、誰かと話してる?」

 そんなわたしとベートーヴェンの蜜月に気づいた者がいた。幼馴染の哲司だ。幼馴染といっても、幼稚園から小学校低学年までよく一緒に遊んだだけで、最近になってはまったく話すこともない。そもそも接点皆無だ。いまさらなぜ話しかけてくる。こんなやつ、無視だ無視。相手をするのも無駄だ。馬鹿らしい。

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