第8話 倉庫

どら焼き屋が所有している倉庫で、俺と相方は零戦を作ることにした。面白がったどら焼き屋だけでなく豪傑もいる。ヴェルサーチのスーツを来て、黒人が持った灰皿にタバコの灰を落としている二人にとっては娯楽だ。

「相方!そこのボルトを締めるんだ!」

「もう腕の感覚が無いんだ」

畜生。俺たちは空を、サイレント嬢に空を飛ばせてやれないっていうのか。サイレント嬢が固唾を飲んで見守る中、俺たちは必死で零戦を作った。どら焼き屋は胸を、豪傑はサイレント嬢の尻を撫でている。こんな時は、もうこのポッケに頼るしかない。


「桶!」


何に使うんだ?俺がしばらく立ち尽くしていると、腹に痛みが走った。そして崩れ落ちる中、豪傑が視界に入った。

「何モタモタしてんだよ」

俺は嘔吐した。桶が吐瀉物で満たされる。殴られて、桶が出て、吐くのなら納得がいくが、桶が出て、殴られて、桶に吐くというのは順序が違うのでは無いだろうか?何だこのポッケ。桶が出てくる時のポケロリンというサウンドに無性に腹が立つ。

「ソラちゃん!」

「だ、大丈夫だ。あんたは飛べる。明日だけは値札も取れる。俺を信じろ」

その時、黒人がサイレント嬢の腕を掴み、ベルトで締め上げた。どら焼き屋が意地悪そうに笑う。

「そろそろ飛びたい頃じゃないのかい?こいつの方が飛べるさ」

「ソラちゃーん!」

俺がどら焼き屋につかみ掛かろうとしたその時、こめかみあたりで金属が静かにぶつかる音がした。もう一人、東南アジア系の男が銃を構えていた。飛び道具…。どら焼き屋もリボルバーを俺の口にねじこんだ。

「天国は空の上にあるんだよね?飛んでくるかい?」

俺は首を小さく左右に振った。すると豪傑がタバコから葉巻に切り替え、近づいてきて俺に煙を吹きかけた。

「俺様に逆らうとどうなるか分かったか?」

俺は拳銃から解放され、作業に戻った。三人は奥の事務所で白い粉を鼻から吸っている。

「相方、あとはペダルをつければ大丈夫だ」

「せっかくだから横に文字を書こうよ」

「そうだな」


そして零戦は完成した。俺たちは両側面にサイレント神風とペイントし、二人で倉庫を出た。満点の星空。タバコを取り出すと、残り2本だったセブンスターは両方折れていた。さっき殴られたせいか。

「相方、タバコくれよ」

「エコーでいいかな?」

エコーなんて吸う貧乏人からタバコなんてもらっていいのかよ。

「ああ。だがもっといいタバコ吸えよ、馬鹿野郎」

結局相方のタバコも残り一本だったので俺たちはそのタバコを二人で回し吸いした。


しばらく二人で星を見ていると、サイレント嬢が出てきた。左腕の青あざから目を逸らそうとしたが、できなかった。

「明日あんたは、空の上だ。天国の扉が何色だったか教えてくれよ。くたばる時に迷わないからな」

「ソラちゃん、私」

「いいんだ。今、あんたはあんただ。それでいい」

サイレント嬢が俺の胸に飛び込んできた。子供みたいだ。頭を撫でた。

「私、汚いよ?」

「俺にとって綺麗だったら、それでいいんだ」

Tシャツが湿っていく。熱く、悲しく、愛しい感触だった。

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