第7話 零戦
豪傑とどら焼き屋がワゴン車で帰ったので俺とサイレント嬢は相方の傷の手当てを始めた。話を聞くとサイレント嬢は高校が看護科で、元看護師だったらしい。元看護師のガールズバー店員。風俗に沈められかけた女。生々しいことを書く作者だ。作者に思いを馳せようとすると相方の血が止まった。あまり作者について触れない方がいいらしいが、一つ作者に言いたいことがある。一冊でもいいから転生系の小説を読んでもらえないだろうか。あんたの書いている幼馴染に興奮する男がいるとしたら、最低のサディストだ。確かに泣きながら裸を見せる女というのは悪いシチュエーションではない。いや、結構いい。俺も毎日楽しみにしている。特に豪傑とどら焼き屋に呼び出された後のサイレント嬢の涙などたまらない。オットセイが炸裂しそうだ。ただギルドとか悪役令嬢とか、出すべきものが他にあるのではないだろうか。38歳の男が覗きをしているだけの小説でいいのか。そう思っていると、サイレント嬢は泣いた。
「ソラちゃん、私もう無理。空、飛べるかな?」
「ああ。飛べるさ。それも自由にな」
俺はタバコに火をつけ、煙を吐き出すふりをしてため息を誤魔化した。
俺たちは落ち着きを取り戻し、空き地でジャックダニエルを回し飲みした。
「ソラえもん、クサはいらないのかい?」
相方、お前は大人になりすぎたな。
「いらない。酒とタバコと女がいるんだ。十分だよ」
「ソラちゃん…」
「ポケットの中にこんなものがあったんだが、お前、作れるか?」
俺は一枚の設計図を相方に私た。
「ソラえもん、飛行機じゃないか。横に神風って書いてあるけど、これは何だい?」
このバカと零戦なんて作れるんだろうか。豪傑たちが手伝ってくれるはずもないし。とにかくやってみるか。
「俺たち日本人の誇りだよ。細かいことはいい。相方、やろうぜ」
「分かったよソラえもん」
サイレント嬢の目からまた涙が。よく泣くお嬢ちゃんだ。俺が頭を撫でてやると、サイレント嬢は嗚咽した。
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