第34話
その後、時間を置いてからギルドに行って、あったことを報告しておく。
ギルド長は不在のようだ。
「そうなんです。ドール嬢の振る舞いには困っているんですよ」
受付嬢のジェシカさんが綺麗に伸びた眉をひそめる。
彼女とは何度かランチに行っていて、気安い間柄になっていた。仲良くしてくれて嬉しいよね。
「やはりですか……レックスさんの件はどうなりました?」
「それが、レックス様へのご執着も未だに続いているらしく、注意勧告をしても聞く耳を持ってくださらないんです。魔道具師ギルドからも連絡がきている始末で……」
「聞いた話ですが、ドール嬢のお父様は鑑定士ギルドに口利きができるとか?」
「大きな声では言えませんが」
ジェシカさんがカウンター越しに顔を近づけてきたので、耳を寄せる。
「副ギルド長と繋がりがあるそうです。現在、ギルド長が裏で動いているらしいですよ」
「鑑定士ギルドも一枚岩ではないんですね」
以前聞いたウワサは本当らしい。
ひょっとしたら、ドール嬢が不正をしてCランクになったという話も、本当かもしれない。
でも、大贋作会に出場するということは、実力はあるのだろう。
大会ではその場で鑑定しないといけないからね……。
あまり人を疑うのもよくないか。鑑定士のバッヂはそう簡単にもらえない、合格率一割の難関資格だ。
「ギルド長が着任してから風通しはずいぶんよくなったんですけどね」
「そうだったんですね」
私たちは互いに顔を離した。
話題を変えるべく、大贋作会について尋ねてみると、ジェシカさんが明るい笑顔を作った。
「オードリー嬢にお伝えしようと思っていたところなんですよ! あの、魔道具蒐集家であらせられるミランダ・ハリソン大奥様のご推薦ということで、ギルド内でも話題持ちきりです」
「私が大贋作会に出場、ですか」
相当な実力者のみが出場できる大会だ。
推薦した貴族のメンツも、鑑定士の両肩にのしかかる。
「出場なさいますか? 棄権される方もいらっしゃいますよ?」
以前の私だったら、出場は断っていたかもしれない。でも、答えは決まっている。
まだ見ぬ魔宝石を鑑定できるかもしれない。
贋作の鑑定もいい経験になる。
出ない、という選択肢はないよね。
「もちろん出場します!」
「ありがとうございます! お父様のように、優勝目指して頑張ってください」
「そういえば……父さんは優勝したことがありましたね」
「例の、名前を言うのも忌避される贋作師の作品を看破したそうですよ。全鑑定士が本物と言ったものを、ピーター様だけニセモノだと言ったそうで……カッコいいですよね」
自分の力を信じているから言える言葉だ。
私も出場して、少しでも父さんに近づきたい。
「では出場手続きをさせていただいて……ああ、そうです、興奮して忘れてしまうところでした。ミランダ様から手紙をお預かりしております」
ジェシカさんが背後の戸棚から封蝋のされた手紙を出した。
「参加費は無料です。日時は一週間後。各地から鑑定士が集まりますから、王都出身ギルドの威信を賭けて、ぜひとも勝ってください」
「善処します」
「過去の情報が資料室に保管してありますけど、ご覧に――」
「ぜひぜひ見せてください。早速勉強したいと思います」
過去の大会でどんな贋作が出てきて、どの種類の魔宝石が登場したのか、気になって仕方がなかった。
ああ、どんな魔宝石が出てくるんだろう。
権威ある大会だから、きっと普通ではお目にかかれない一品が出されるはずだよね。
楽しみすぎて今から興奮してくる。
「あの、オードリー嬢……浮かれるのは結構ですけど、閉館時間は守ってくださいね?」
ジェシカさんがじっとりした目線でこちらを見ていた。
「あ……その節はすみません」
「私、心配しているんです。いつかオードリー嬢が魔宝石を餌に連れ去られるんじゃないかって。いいですか、知らない人についていっちゃダメですよ?」
「そんな……子どもじゃないんですから。大丈夫ですよ」
「ジョージ様も心配しておられましたよ」
「ジョージさんまで……」
くうっ……恥ずかしい。
あまり強く言い返せないのが苦しいところだ。
『オードリーは僕たちが好きだもんね』
クリスタが嬉しそうに笑っているのを見て、自然と笑みがこぼれた。
「資料、そんなに嬉しいんですか?」
クリスタの姿が見えないジェシカさんが、急に笑った私を見て首をかしげた。
「あ、いえ……そうですね。嬉しいです」
「ご自分に正直なところがオードリー嬢らしくて、私、素敵だなと思います」
ジェシカさんが呆れながらも、楽しそうに笑った。
「あはは……ありがとうございます」
「大会、頑張ってくださいね!」
「もちろんです!」
いきなり出場が決まった大贋作会だけれど、全力で取り組もう。
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