第21話
休憩後、
ざくざくと砂漠地帯を歩く。目指すはサボテン地帯だ。
地図を見て、コンパスで方角を確認する。
「レックスさん、魔法を使ってもいいでしょうか?」
歩きながら言うと、レックスが足を止めた。
『何を使うの〜?』
クリスタが横を飛んで聞いてくる。
「前進補助の魔法を使おうかなと思いまして」
『【前へ《エヘァ》】の言霊(ワード)ね。うんうん、いいんじゃないかな。オードリーはもう少し運動したほうがいいけど』
小さな腕を組んで、クリスタが言ってくる。
ちょうどレックスの顔の横を飛んでいるので、笑みを浮かべてうなずいておいた。
「興味深い。ぜひお願いする」
レックスが魔法をかけやすいよう、こちらに向き直った。
「ありがとうございます。では――【前へ《エヘァ》】」
魔力の波が飛んでいき、彼に吸い込まれた。
「何も起きないが?」
「歩いてみてください。補助されますよ」
説明しながら、自分にも【前へ《エヘァ》】と唱える。
足を出すと、バックパックを後ろから押してもらっているような感覚で、一歩進んだ。
「これはいいな」
レックスさんが確かめるように歩く。どうやらお気に召したようだ。
『あと四つ重ねがけしなよ〜。そうすれば一歩が百歩になるよ』
クリスタがケラケラと楽しそうに宙返りをする。
言霊(ワード)の重ねがけは魔力調整が困難なので、試す気になれない。合計五つも重ねたら、一歩でどこかへ吹き飛んでいきそうだ。
『考えておくよ』
小声で答え、砂を踏みしめる。
一時間ほど順調に進むと、茶色の砂漠地帯に、ぽつぽつと緑の物体が見えてきた。
「サボテン地帯です」
アゲリ砂漠は子どもの頃、父さんに連れてきてもらったけど、サボテン地帯までは来たことがない。図書館の文献や写生で見ただけだ。
見ると聞くとは大違いで、自然の雄大さを実感できた。
視界のずっと向こうまで、サボテンが点在している地帯が続いている。
このどこかに魔宝石が眠っているのか……。
勝手に口角が上がってきてしまう。
うん。今すぐにでも走り出したい。
でも、さっきの採掘ではしゃぎすぎた気がするので、背筋を伸ばして冷静な顔を作った。
「
「どれくらいの確率で見つかるんだ?」
レックスさんが聞いてくる。
「百本のサボテンに一つと言われております」
「百分の一か……」
「根気が必要そうだ。承知した」
サボテン地帯とは言っても、一本一本が離れて生えているため、探索にはかなりの時間を使うと文献にも書かれていた。
「
歩きつつ、手で大きさを作ってみせた。
「球状の結晶体で、断面が稲妻の形に見えることから名付けられたと言われております。ご存知の通り、電撃を内包していることから主に短剣などに付与され、魔物討伐などの補助的な武器として利用されることが多いです。今回のご依頼で、レックスさんがどのように利用するかはお聞きいたしませんのでご安心ください」
「承知している」
「不定形魔宝石に分類されますね。採掘難易度が高く、失敗すると魔力暴発をして――」
「破裂する」
レックスが口を開いたので、首肯した。
「見た目はべっこう色と黒のまだら模様です。濃色のものは魔力を内包していない破裂石なのでご注意ください。では、探しましょう!」
早口に説明して足を速める。
「オードリー嬢は元気だな」
「
「そうか」
「張り切って行きましょう!」
「了解だ」
レックスさんが苦笑だとわかるくらいに、うっすらと表情を変えた。
その後、クリスタの助言ですぐに
「簡単に見つかったな」
「ですね……運がいいのかもしれません」
『簡単だねぇ〜』
もっと時間がかかるはずだけど……クリスタ様様だね。
高さ七メートルほどのサボテンからは針が飛び出しており、そこに鉱石がいくつもくっついている。そのうちの一つがお目当ての
慎重にサボテンへ魔力を通し、
失敗すると、破裂してしまうから慎重に、だ。
「よし……」
『お上手!』
ぽとりと針から
近づいて、そっと触れてみる。
破裂はしない。
安堵の息を吐いて持ち上げ、感触を確かめた。
表面はつるりとしていて、見た目に反して軽い。
ジュエルルーペで覗き込むと、小さな稲妻のような魔力が走っていた。勇ましい兵士のようだ。イケメンな魔宝石。カッコいい。素敵。
つるっとした手触りとか、まだら模様とか、全部が愛おしい。
「ご依頼の魔宝石で間違いありません。後ほど、鑑定士ギルドにて正式にお譲りいたします」
「承知した。依頼完遂、感謝する」
「はい! こちらこそ、初依頼、誠にありがとうございました!」
満面の笑みで礼を言うと、レックスさんが眩しそうに目を細めてうなずいた。
急に大声を出して変に思われたかもしれない。
でも、鑑定士として依頼をこなしたこの喜びは、隠せそうもなかった。
◯
二十分ほど休憩をして、帰路についた。
まだまだ探せば見つけられそうだけど、日が傾いてきている。時間切れだ。
「暗くなると危険だ。また補助魔法をかけてくれるか?」
「了解しました」
言霊(ワード)――【前へ《エヘァ》】と唱え、私とレックスさんに精霊魔法をかける。
「助かる。行こう」
出発当初よりもレックスさんの空気が柔らかくなっている気がする。彼の、というより、私の気持ちの問題かな? お互いに慣れてきたのかもしれない。
「足元に気をつけろ。念のため、魔道ランプをつける」
レックスさんが鞄から鉄格子で覆われた頑丈そうなランプを出し、スイッチを入れた。
ぼう、とオレンジの光が足元を照らす。
軽快に進む彼の背を追い、岩石地帯から出て砂漠を進む。
日が傾き始めたせいで、岩場の陰は見えづらい。ランプの光がありがたかった。
三十分ほど歩くと、彼が足を止めた。
気を利かせて休憩を挟んでくれるのかもしれない。まだ体力はあるので大丈夫だ。
「休憩なら必要ありませんよ?」
「静かに」
「あの……何か……?」
「砂が動いている」
彼が鞄から銃のような魔道具を取り出し、抜剣した。
「――退避だ!」
「は、はい!」
あわてて後方へと走った。
それと同時に砂が盛り上がって飛び散り、砂中から体長十メートルほどの魔物が現れた。
茶色の硬質な皮膚に、ナマズのような髭、鋭い牙、大きなトカゲのような生物だ。
「土龍(どりゅう)か! なぜこんな場所に」
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