かす

エリー.ファー

かす

 このままずっとこの場所に居続けられるとは思っていない。

 いつか、追い出されてしまう。

 その時に、私に付けられる称号は。

 かす。

 名前は。

 かす。

 肩書は。

 かす。

 年齢は。

 かす。

 性別は。

 かす。

 学歴は。

 かす。

 志望動機は。

 かす。

 キャリアは。

 かす。

 失いたくない。

 自分の積み上げて来たものを捨てたくない。

 私は、私の人生が無駄であったと思いたくない。

 本当は、才能なんてなかったけれど、派閥に所属しておけばどうにでもなると思っていた。本当に才能のある人間にも、私よりも才能のある人間にも、上からいけると思っていた。

 事実、それでどうにかなっていた。

 実力不足と、努力不足と、才能のなさを。

 立場で水増しできると思っていた。

 本物が来る。

 才能のある人間が来る。

 実際に、結果を出して、私以外の人も才能があると理解できるレベルの天才が。

 私の横に並ぶ。

 いや。

 もう並んでいる。

 全員が比較してしまっている。

 どうにかごまかせると思っている自分が心のどこかにいる。

 分かっている。

 もう、その望みが絶たれ始めている。

 消えかけている。

 何かが圧倒的に欠けている私と。

 何かが圧倒的に満たされている誰か。

 何者か。

 知っている影。

 聞いたことのある息遣い。

 私が知っている才能ではない。

 私の考える才能の定義すら追い抜く才能。

 想像の方が現実よりも遥かに自由なはずなのだ。現実には重力が存在し、経済的な束縛が存在し、不自由が蔓延している。想像の世界は、何もかも取り払うことができる。何もかもできる。

 なのに、私の想像よりも。

 目の前の現実の方が明らかに自由である。

 凡人の想像を、天才の現実がこえていく。

 やめてくれ。

 頼むから。

 私たちが築き上げた。

 私たちって才能あるよね。

 という自惚れに水をささないでくれ。

 私たちだって頑張って来たんだ。必死に人間関係を作って来たんだ。

 本当は、自分に才能がないことなんてとっくの昔に気付いていたけど。

 でも、この立場にいるから、そういう部分が自分でもよく分からなくなって。

 自分の近くにいて、自分よりも結果を出している人間の肩書のお零れで残飯を漁って、自分よりも結果をだしている人間の実績のお零れで残飯を漁って、自分よりも結果をだしている人間の過去の失敗を指摘することで残飯を漁ってプライドを守って生きる術を身に着けてしまった。

 分かる。

 分かっている。

 その生き方が上手くなってしまったということは。

 私には才能なんてなかったのだ。

 実力なんてなかったのだ。

 才能に追いつけるほどの努力もしなかったのだ。

 仮に努力をしていたとして。

 その努力は実を結ばなかったのだ。

 分かっているから、そういうものを見せつけるな。

 できることは分かったから、やめてくれ。

 私が、私が、私が。

 本当は、才能がないけれどプライドだけはご立派に高い凡人の成れの果てであることを悟らせないでくれ。

 知っているから。

 気づかされたから。

 もう、終わって欲しい。

 私は、私のことが大好きなんだ。

 私が、自分なりに築き上げてきた世界が大好きなんだ。

 今の自分の立場を証明するものが、自分の努力で手に入れたものではなく、既に誰かが作った上に立っているだけというのも知っている。

 でも。

 才能のある人間ばかりじゃないから。

 普通の人は特別じゃないから。

 天才しかいない世の中じゃないから。

 凡人の方が多い世の中だから。

 いいじゃないか。

 そういう生き方の何が悪いのか分からない。

 だって。

 そうでしょ。

 だって。

 そういうもんじゃん。

 私の人生は恥ずかしくない。

 俺の人生は恥ずかしくない。

 僕の人生は恥ずかしくない。

 間違ってないはずだ。絶対に間違いなわけがない。正解の人生を生きているはずだ。

 そうに決まってる。

 これは、大正解人生だ。

 絶対に満点花丸大正解最高究極何の問題もない完璧最高潮人生だ。

 絶対にそうだ。

 絶対に正しい。

 間違ってない。間違ってない。絶対に間違ってない。

 私だけじゃないから。

 別にいいじゃないか。

 そういう生き方が普通なんだから、そういう感じの人生を歩んでいても恥ずかしくはないはずじゃないか。

 なぁ。

 そうだろう。




「才能があったら、そんな言い訳しなくて済むんだよ」

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かす エリー.ファー @eri-far-

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