大間 昴
ーー護る資格を得るためにーー
「大間昴、お前を無期限の謹慎処分とする 」
その大砲のような怒号はこの市ヶ谷の土地に反響し、皆は俺を憐れんだ目で見た。
そんな目で俺を見るな!
心の中でそう思っても今の俺を皆が憐れむのは仕方がないのかもしれない。
擦り傷だらけの足や腕、包帯を巻かれた頭、これを見たら怪我をした可哀想な陸士の生徒だと思われても無理はない。
なんせ俺は満身創痍、あと一撃でも腹にパンチを加えられたら多分気絶する。
どうしてこうなったかって?
簡単に言えば思いと思いの衝突だ。
こう言われれば聞こえはいいかもしれないが、本当のところ派閥争いみたいなもので俺はそれに負けたってことだ。
ギィーー
正門の綺麗に掃除された大きな門を手で開けると不快な金属の
陸軍と一緒で表だけは綺麗なツラをしているが柱はこの門みたいな
正門を出て市ヶ谷駅方面へ歩いて行った。
ガラガラ
和風な引き戸を開けて家に入る。
「ただいま 」
家に帰るとお
「おかえり〜早かったわね 」
といつもと変わらないふわふわした声で言った。
スースー
お袋は剣道をやっているせいか普段からすり足歩行をしている。
「おかえりっ、てその傷どうしたの!」
血相を変えて近づいて来たお袋に俺は落ち着いた声で言った。
「少し授業中にミスっちまってな、それと俺は明日から無期限の謹慎処分だから...... 」
「そんなことなんてどうでもいいわよ!早くお風呂入って来なさい!」
「そんなに心配するなってお袋...... 」
お袋は顔を真っ赤にして俺に抱きついていた、それに目元からは涙がスーと頬を伝ってポツポツと俺のカーキ色の服に垂れていた。
「分かった、分かった、そんな抱きつかれたらお風呂行きたくても行けねえから 」
ザァーー
「痛っ 」
俺の家には道場があって、そこで練習する人の汗を流すため道場のすぐ横に大浴場がある。
こんな昼から使っている人はいないから、俺の独占状態だ。
シャワーも浴び終わったから大浴場に入ろうと足を入れた。
「くっ 」
足と腕に集中している傷はお湯が深くなればなるほど染みるようになって痛い。
なんとかその痛みに耐えて一気に風呂の中に入るとだんだんなれて来て痛みは感じなくなった。
「しかしどうすっかな〜、謹慎期間中は道場の手伝いでもするかな 」
俺がそんなことをぼやいていると脱衣室と大浴場を仕切っている扉からノックをするような音が聞こえてくる。
コンコン
「なんだお袋か?もう湯船入ったぞ 」
すると聞いたことのない女性の声がした。
「君が大間昴か? 」
「はいそうですがなんですか 」
女性は何かぶつぶつと言っているが俺にはよく聞こえない。
「大間昴、省大プログラムに興味はないか? 」
突然何を言い出すんだ?
「確かあれは省庁が運営する学校に通っている生徒は対象外なはずでは?」
俺はすでに陸軍士官学校の生徒だから応募資格はないだろう。
「確かにそうだ、だがそれは"普通に通っていれば"の話だ 」
何が言いたいんだこの女は。
「確かに俺は今日、無期限の謹慎処分を受けました。まさかそうするとこのプログラムは参加できるんですか?」
俺がそう聞くと女性はゆっくりと答えた。
「ああそうだ、君は幸か不幸か提出資格を得ているんだよ 」
だからって今更どこにプログラムを出すんだよ。
俺がそれを質問しようとした瞬間女性は言った。
「鐵道省のプログラムに参加しなさい 」
俺は全く想像していなかった返答に驚いて風呂の中でバランスを崩しそうになった。
「てっ鐵道省?なんでそんな場違いな場所に 」
そう聞くと女性は作家とは比べ物にならない気を込めて言った。
「守りたいものがあるんだろ?」
俺はその声に何も反論できなかった。
多分この人は全て知っている。
こんな怪我をしてまで、俺が派閥争いに参加して勝ち取りたかったもの、それは......
「あいつが守りたいと思っている鐵道を守ることだ!」
俺は思わず口に出して言っていた。
それを聞いた女性は満足げに「うんうん」と言いながら脱衣所を出て行った。
次の日からプログラム参加日まで俺は道場で稽古をし日々鍛錬を積んでいった。
全てはあいつを守る資格を得るために......。
轟け!鐵輪‼︎ それぞれの0キロポスト 鐵 幻華 @yorunokyuo
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