横須賀 あずさ

ーーそう決意したのは綺麗な満月の夜だったーー


 「まあとりあえず座って 」

 担任の先生が私をなだめるめるように優しい声で言う。

 だが今の私は落ち着いていられるような状況にない。

 「落ちていていられますか!なんで海軍省へのプログラム参加できないんですか!!」

 私は両手を机にバシッと叩きつけた。

 机は音を立てて揺れてキシキシと音を立てたが先生は全く驚かない。

 「物に当たったてどうにかなること?」

 私の両腕をぎゅっと握って笑顔で行ってくる。

 やはり先生は苦手だ。

 そんなことを言われたら私も落ち着いて座るしかない。

 ギシ バンッ

 少し不機嫌そうに座りパイプ椅子は軋んだ。

 先生と目が合うように座ったがずっと笑顔なので調子が狂う。

 「横須賀さん、あなたは何で海軍省のプログラムを受けたいの?」 

 先生の質問に私は一秒もしないで答えた。

 「そんなの決まってるじゃないですか!この国を日本を護りたいんです!」

 私は肘をついた右手を先生の前で力一杯握った。

 少し強く握りすぎてしまい爪が手のひらに食い込んで痛かったがそんなことは気にしなかった。

 そんな私を先生は微笑みを浮かべながら見ていた。

 「そっか、横須賀さんは1年生の頃からそう言ってたもんね。何で国を守りたいって思うようになったの?」

 先生の質問に私は思わず下を向いてしまった。

 「そ、それは子供の頃からの夢だから......」

 私のお父さんは戦艦大和の艦長で幼い頃からずっと憧れだった。

 子供の頃から海軍の訓練にこっそり参加して最初はできなかった遠泳や高射砲の訓練だって何年もやっているうちにできるようになっていった。

 「なのに、なのに何でこんなことで諦めなくちゃいけないのよ!」

 私はさっきよりも強く机を叩いた。

 「横須賀さん、仮に学校がこのプログラムの参加許可を出したとしても絶対に国は認めないは 」

 先生は真剣な目で言った。

 「じゃあどうすればいいんですか?女だから諦めろって言うんですか?」

 私はもう泣きそうだった。

 子供の頃からの夢をこんなことで諦めなければいけないなんてそんなことは嫌だった。

 すると先生は私が机を叩いてそのままの手と手の間に一枚の紙をスーと入れた。

 これは......鐵道省?

 「これは鐵道省のプログラム参加用紙じゃないですか。私に諦めろと言いたいんですか?」

 先生はさっきの真剣な目から一転いつものような優しい目つきになっていった。

 「そんなこと言ってないわよ、横須賀さんは毎年鐵道省のプログラム参加者から数人が陸海軍にスカウトされている話は知ってる?」  

 「何ですかそれは?それにーー」

 先生は私の話を遮って続けた。

 「あまり詳しいことは言えないけど昔貴方みたいに女子で海軍に入隊したいって言っていた子がいたの、その子は鐵道省のプログラムに参加してそこからの推薦枠で海軍に入隊したわ 」

 鐵道省?確か国の鉄道のほとんどを管理している省だったような。

 正直あまり興味がないのでそんな曖昧なことしか思い出せなかった。

 「どうする、鐵道省プログラムに参加する?それとも参加しなーー 」

 今度は私が先生の話を遮って答えた。

 「私行きます!海軍に入隊するためにも全力で努力します‼︎」

 先生は私がそう言うのを分かっていたのかすぐにボールペンを出してくれた。

 スルスルとボールペンを滑らせて必要事項を記入していく。

 先生は書類を受け取ると隣の職員室に続く鉄製の扉を開けて手を振った。

 「ありがとうございました 」

 部屋を出てすぐにある階段を降りてロッカーからブラウンのローファーを出す。

 コン コン

 ローファーを履いた足のかかとで軽く床を叩き足を奥まで入れた。

 コツコツと歩く音が雲がかった月明かりに照らされた暗い学校の玄関に反響する。

 「はあ」

 外の空気を吸い込み腹に力を入れて叫んだ。

 「絶対、海軍に入隊するぞ!」

 そう叫んだ瞬間月は雲から顔を出し、これからの私を照らしてくれた。

 

 

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