参宮 翼
ーー憧れのスジ屋になるためにーー
「翼はどうするんだ?」
リビングで食後のお茶を飲んでいると、お父さんはいつものように笑顔で聞いてきた。
「うん、一応鐵道省のプログラムを受けようと思ってるよ 」
僕がそう答えるとお父さんは嬉しそうに「そうか、そうか」と首をコクンコクンと降っていた。
僕は子供の頃からお父さんの仕事を見てきた。
お父さんは鐵道省の本社でスジを引く仕事をしている。
スジ屋というのは列車のダイヤグラムをつくる専門職で路線の勾配やカーブの大きさそして速度などを考慮して通過時間を斜めの線で表してダイヤグラムを作るのが仕事。
お父さんは今も昔もなるべく家に帰りたいからと仕事を早めに終わらせたり、忙しい時は家に仕事を持ち帰って、リビングや自分の部屋でスジを引いていた。
僕はそんなお父さんの隣に座って、仕事をしているのを見るのが大好きだった。
それに「ーー系がこの路線にいるから」とか「ここはーー線との合流だから」という独り言を聞くのが何故かとても心地よかった。
そこから鉄道に興味を持ち始めてお父さんが暇な時にはダイヤグラムの読み方や作り方を教えてくれた。
でもさっぱり分からなくて泣きそうだった僕をお父さんはいつも撫でてくれた。
「今分からなくてもいいさ、いつか自分が読みたいと思うようになったらいつでも聞くといい」
と、お父さんは言ってくれた。
日本には徴兵制度というものがある。
僕はそこまで体力もないし、力だってない。
おまけにこんな見た目だからこの歳になっても女子に間違われることだって日常茶飯事、そんな僕が徴兵されたところで役に立つとも思えない。
でも徴兵を回避する方法がいくつかある。
例えば、生活インフラに携わる職業や学校の先生、そして各省庁が運営している大学校に在籍している人は徴兵が免除される。
その省庁大学校に普通に入学するのは難しいでも省庁大学校入学研修プログラムという制度を使って2年間の授業を受ければ鐵道大學に進むこともできて、鐵道省に入省することもできる。
僕はお父さんみたいなかっこいいスジ職人になりたい!
その夢を叶えるためにも早速今日省大プログラムの参加申し込み用紙を受け取りに職員室へ向かう階段にいた。
階段を登りから扉から出て左に曲がると職員用エレベーターを通り過ぎもう一度左に曲がった。
その時
「自分の信じる
と、突然職員室の方から大きな声が聞こえてきた。
職員室までは一本道なので来ない力でも誰がいるかよく分かる。
「あれは、一緒のクラスの甲武大和くん?」
肩で息をしながらハアハアと言っている。
どうしたんだろう?
甲武君は一枚の髪を先生から手渡されていた。
もしかして!
同じ志を持っているかもしれないと思ったら急に足早になってすぐに職員室についた。
「すみません、省大プログラムの参加用紙をいただけますか 」
僕の声は職員室にいた全員に聞こえるぐらい大きかった。
隣を見ると甲武くんが「省庁大学校入学研修プログラム参加希望用紙」と書かれてプリントを持っていた。
僕はそれを見て凄い嬉しかった。
そして最高の笑顔でそれを指差していった。
「あっ、君も参加用紙出すの、どこ志望?僕は鐵道省なんだけど 」
これが大和との最初の出会いで、これから2年間共にする最高の仲間の1人との最初の出会いでもあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます